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#ローファンタジー
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20-1◆大物ルーキーへロックオン◆
俺の視線はコート全体を滑る。
その熱気と才能の奔流の中。
そこには一人、異質なオーラを放つ男がいた。
サイドラインに立つスーツ姿の大人。
腕を組み鋭い眼光で、選手たちを見つめている。
(あいつが元プロ顧問の大槻だな。一度だけ体育の授業で世話になった奴だ)
「おい!見ろよ、音無。大槻先生、あいかわらず気合入ってるな~」
隣で山中が興奮したように囁く。
「バスケ部監督で元プロ選手の大槻理人。天宮くんがまだ初等部(小学校)の頃から、その才能に目をつけてたらしいぜ。バスケ部が、豪華な設備を与えられているのも、大槻先生の力だとか」
俺は静かに問い返す。
「なぜ、一人の部活の顧問がそこまで力を持つ?」
俺のその問いに、山中は待ってましたとばかりに答えた。
「バスケ部って、たかが部活じゃねえんだよ。もともと強かったバスケ部を、大槻先生が監督になってから、全国でも屈指の超強豪校に育て上げたんだ。今じゃバスケ部は、この学園の看板だよ。だから学園の上層部も、大槻先生には頭が上がらねえのさ」
山中は、そこで一旦言葉を切る。
そして声を潜めて、続けた。
「だから天宮くんの未来は、あの人の手にかかってるってわけだ」
「まあ逆も言えるけどな。大槻先生の未来も天宮くんにかかってる。あの二人は、もはや運命共同体なんだよ」
(運命共同体か)
俺はその言葉を、静かに反芻した。
そしてコートの中で、繰り広げられる王とその側近の練習を冷たい瞳で観測していた。
その時だった。
練習試合形式のゲームが終わり、選手たちが大槻コーチのもとへ集まる。
大槻は、普段の柔和な教師の顔ではなかった。
彼は勝者だけが持つ、自信に満ちた笑みで、天宮の肩を叩いた。
「ナイスプレーだ蓮司。お前のコートビジョンは、もうプロのレベルだ。お前がいれば、今年の全国は、もらったも同然だな」
その声には、天宮への絶対的な信頼と、そしてどこか歪んだ期待が込められていた。
俺は、静かに彼をスキャンする。
【Target: 大槻 理人】
【感情:天宮への強い執着、勝利への渇望】
(なるほど)
俺が新たなデータをインプットした時、大槻が休憩を告げた。
選手たちが、ベンチへと散っていく。
その中で天宮 蓮司だけが、違う方向へと歩き出した。
彼は一人の1年生の前で、足を止め、その肩を優しく叩き、何かを話しかけている。
1年生は緊張した面持ちで、しかしその瞳は憧れに満ちていた。
俺の視線は、その1年生へとロックオンされる。
(お前か)
【Target: ???】
【Analyzing…】
【氏名:長峯 昌吉】
【所属:バスケ部1年】
【対天宮 蓮司への感情:純粋な尊敬(98%)】
(こいつだ見つけた)
俺の中で、全てのピースが繋がった。
あれが長峯昌吉。天宮が目をかける1年。
三好が嫉妬する相手。
(三好をつぶす材料にできるか?だがまだ足りない)
俺は自分の仮説を、確信へと変えるための最後のデータを探していた。
(俺のスカウターのレベルを、もう一段階、引き上げる)
俺は意識を集中させる。
脳の奥深くにある未知の回路を、無理やりこじ開けるような感覚。
視界のウィンドウが激しく、明滅し新しい項目が生成されようとしている。
ズキンとこめかみに鋭い痛みが走った。
俺は長峯昌吉へと、再び焦点を合わせる。
【Target: 長峯 昌吉】
【システムレベル2:詳細情報スキャン開始】
20-2◆二つの点、そして一本の線◆
【システムレベル2:詳細情報スキャン開始】
その無機質な文字列が、表示された瞬間。
ズキンと、こめかみに鋭い痛みが走った。
レベルを引き上げた能力の行使。
その代償。
俺はその痛みに、耐えながらスクリーンに表示される、新しいデータを睨みつけた。
【Target: 長峯 昌吉】
【詳細情報キャリア・ディグ】
【入学経緯:スポーツ推薦(奨学金受給者)】
【出身中学:京都市立鴨川西中学校】
(奨学金。俺と同じ)
俺の脳裏に、三好のあの下劣なセリフが浮かぶ。
「奨学金野郎」
そうだ。三好は、このような出自の人間を見下している。
この情報は使える。
間違いなく三好を挑発するための最高の「ネタ」になる。
そして。俺の視線は、その次の一行に釘付けになった。
(鴨川西中学校?)
その名前。どこかで見た。
いや違う。ついさっき見たばかりだ。
俺の脳内のデータベースが、高速で検索をかける。
【データ照合:轟木剛造と同一中学】
(ビンゴだ)
出身中学も同じ。入学経緯も同じ。
轟木剛造と長峯昌吉。
この二人には共通点が、多すぎる。
この学園では、始めてみた鴨川西出身者。
互いにとって、特別な存在である可能性は高い。
もし長峰に何かトラブルがあったら、
轟木は長峯を守るために、行動を起こすかもしれない。
(だが)
俺の思考に冷たい理性がブレーキをかける。
(これは、まだ俺の憶測にすぎない)
(もし万が一、二人の間に何の繋がりもなかったとしたら?俺のこの脚本は全て破綻する)
(確信が欲しい。99%の推測ではない。100%の絶対的な確信が)
どうする?
どうやって、その最後のピースを手に入れる?
俺はコートの中の長峯を、見つめながら思考の海へと深く沈んでいった。
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