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第1話、読ませていただきました。 朝の静かな教室の空気感から、一気に引き込まれました。星羅ろろんさんの「笑顔が得意」という台詞が——そうしないと生きていけないから、という繋がりが胸に刺さります。母との関係、「愛」と「虐待」のあいだで揺れる心の描き方が本当に繊細で……。 そんな中での松田あまねさんとの軽やかな会話の応酬。「かわいい」のひと言で、ろろんさんが一瞬硬直してしまうところ、すごく好きです。自分に“恥ずかしい”という感情があることに驚く、その発見が切なくて。 最後の、松田さんの一瞬の視線——なんだか気になります。「面白くない」というろろんさんの内心が、なにかを予感させる終わり方で。続きがとても気になります。しろみさんの描く距離感、とても好きです。
『君との愛は嘘じゃない』
午前七時。
教室には、まだ誰もいない。
この時間が、好きだった。
誰とも関わらなくていい、静かな空間。
同じクラスに、あの人はいるけれど。
特に関わることもない。
ただ、同じ時間にここにいるだけの存在。
それでよかった。
――星羅ろろん。中学三年生。
「笑顔が得意」なんて、言いたくはないけれど。
私は、笑うのが上手い。
……そうしないと、生きていけないから。
私は、虐待を受けている。
……いや。
これは、本当に“虐待”なのだろうか。
母は言う。
――「愛」だと。
イラついたから殴る。
ムカつくから殴る。
そんな単純なものじゃない。
もっと、ぐちゃぐちゃしていて。
でも、私はそれを否定しきれない。
もし、これが愛だと信じられたら。
どれだけ楽だっただろう。
母は、どんどん壊れていく。
それを見ている私も。
きっと、同じように壊れている。
……分かりたくない。
分かってしまったら、終わる気がするから。
午前五時三十八分。
朝の光が、部屋に差し込む。
やけに眩しくて。
まるで、外に出ろと急かされているみたいだった。
「おはようございます、お母さん」
「おはよう、星羅ろろんさん」
フルネームで呼ばれる。
理由は分からない。
ただ、気持ち悪いと思った。
気づけば私は、家族に対しても敬語を使っていた。
母に押し付けられたものが、
そのまま、体に染み付いてしまったみたいに。
腕には、包帯。
隠す気があるのか、ないのか。
――いや。
多分、どちらでもいいのだと思う。
「……今日は、殴らないんですか?」
母は、微笑む。
「……なんでそう思うの?」
「……いえ」
「行ってきます」
午前六時五十八分。
教室に入ると、いつもの人影があった。
「おはよー」
軽い声。
「……おはようございます」
「相変わらず、ひどい傷やなぁ」
「……いえ」
「転けすぎやろ。ドジやなぁ」
この人は、松田 あまねさん クラスでいじられる側の人間だ。
からかわれているのか、いじめられているのか。
その境界は、曖昧で。
大変そうだとは思う。
でも。
(……私の方が、つらい)
そう思ってしまう自分が、嫌だった。
でも。
――事実だ、と。
どこかで言い聞かせている自分もいる。
「いつも思うんですけど」
気づけば、口が動いていた。
「お腹、空かないんですか?」
「……え、なんでそう思ったん?」
「朝早く来て、ご飯食べてないですよね。
授業中、お腹の音……聞こえてます」
「まじか〜。結構隠せてたと思ってんけどな〜。
ろろんさんにはお見通しやな〜」
――なんで、話しているんだろう。
「 人生、大変やな〜」
「……急に、なんですか?」
「別に。なんもないで」
その言い方が、少しだけ引っかかった。
「……黒板、消すの手伝います」
「え〜優しいな〜。惚れてまうかも〜」
「……棒読みやめてください」
少しだけ、笑ってしまった。
「……」
その時。
彼が、一瞬だけ黙った気がした。
「……かわいい」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
視界が、ぼやける。
嫌ではなかった。
けれど。
“恥ずかしい”という感情が、自分の中にあることに驚いてしまって。
言葉の意味よりも、そのことの方が頭を占めていた。
「おーい、ろろんさーん?」
「あっ……すみません!」
午前七時三十分。
少しずつ、教室に人が増えてくる時間。
――どうしてだろう。
ほんの少しだけ。
この空間が、崩れてしまうのが寂しいと思ってしまった。
(……気持ち悪い)
こんな感情。
持っていいはずがないのに。
もし。
この温かさを、母にも向けられたなら。
そんなことを、思ってしまう自分がいた。
「おーす!また2人でいんの?」
中野りょうた。
松田あまねとよく一緒にいる人。
それ以上でも、それ以下でもない。
「らぶらぶだね〜」
にやにやと笑いながら、こちらを見る。
「そんなんじゃありません!」
思わず、声が強くなる。
席を立つ。
「……ごめん、嫌やった?」
「あ、あの……」
「ごめん。空気読めんくて」
また。
自分を下げる言い方。
どうして、この人は。
――そんな顔をするのだろう。
胸の奥が、少しだけ締め付けられる。
でも。
(……私の方が、つらい)
その思考で、全部を押し込める。
鍵をかけるみたいに。
「い、いえ!今のは私が悪いです!」
「そう?……ほんまごめんな」
似た者同士。
そういう言葉が、頭をよぎる。
自分のことが分からない人間が。
今、ここに二人いる。
――からかわれて、恥ずかしい。
そんな感情が、もし“恋”なのだとしたら。
私は。
恋なんて、してはいけない。
好きな人を見て見ぬふりをして。
自分の方が可哀想だと、言い聞かせて。
それは本当に、“好き”なのだろうか。
分からないから。
私はまた、自分に鍵をかける。
――その時だった。
ふと。
視線を感じた。
「……」
松田あまねが、こちらを見ていた。
さっきまでの軽い表情はなくて。
少しだけ、目を細めている。
――何かを、考えているような顔。
あまね
そして。
ほんの一瞬だけ。
ろろんの方に向けられた視線に、
言葉にできない感情が、混じった気がした。
(……なんやそれ)
自分でも分からないまま。
胸の奥が、少しだけざわついた。
――面白くない。
ただ、それだけが、はっきりしていた。