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※もうこの欄無くそうかな…
「で…話って何なんだ?」
すっかり日が沈み、星と三日月が浮かぶ時間になり、野暮用を済ませて部屋に戻る。ワドルディと話していたリリルがこちらを向いた。
「ああ、あの時言ってたやつ?… いや、ほんと大したことないって!ここのこと、色々と聞いておきたいと思っただけ」
「お、おお…」
拍子抜けというか何というか、知らずのうちに身構えていたのが急に馬鹿馬鹿しくなってきた。
「アンタ、自称でも大王なんだっけ。なら、ウチが聞きたいこと、知ってそうかもってなって」
「聞きたいこと…?」
「ああ。…ウチら、ちょっと特殊な体質みたいでさ。普通に飲み食いするの、駄目なんだよな。だから、ウチが摂れるような、充電池とか持ってないかなって…」
「充電池、か…分かった。また探しておくわ」
「マジで!?こちらから頼んでおいてなんだけど、わざわざありがとな!」
そう言ってリリルは満面の笑みを浮かべた。年相応の少年らしさは、さっきまでの姿とはまた違う印象で映って見えた。
(…案外可愛いところもあるじゃねぇか)
カエデにも、こんな面があるのかもしれない。現在ウルルンスターにいるはずの彼女たちの姿を思い浮かべた。
「で…オイラの方は何の用っスか?」
「ワドルディ…だっけ?アンタ、大王とはどんな関係なん?」
「え?その、オイラは…うーん…」
ワドルディは、答えに詰まっているようだった。
(俺とこいつの関係か…言われてみれば、確かに曖昧だな…)
『大王…様は、行かないんスか?』
ワドルディと出会ったのは、ちょうど五年前だった。
あいつらに操られたところをカービィに(強引な方法で)助けられ、城から去っていく一団に背を向けたとき、ワドルディだけは、俺をしつこく誘ってくれた。変なプライドが邪魔して素直について行けなかったところを、あいつはもう一度手を差し伸べてきた。今思うと、彼がいなければきっと、自分はあの旅に行かず、アドレーヌたちともそこまで仲を深められなかっただろう。
(俺にとってのワドルディか…)
「そっ、スね…オイラにとって、大王様は…憧れ…?っスかね。大切なものを守るために全力で戦う姿に、自分は惚れたんス」
「へえ、かっこいいじゃん。好きだわ、そういうの」
憧れ。まあまあ悪くはない感じだ。しかし目の前でそうはっきりと言われると、少しむず痒い。
(嬉しいのは嬉しいんだがなぁ…)
それからしばらくの間、三人で適当な話をして過ごした。
バンダナが戸をノックする音が聞こえるまで、俺たちの他愛のない話は続いた。
「おーい、みんなー!」
昼間分かれた場所に出ていってみると、すでにカービィたちはこちらへと向かっているところだった。
「お前ら、無事だったか?」
「うん!イズもちょうど目を覚ましたところだよ!」
カエデたちの後ろから、また新しい少女が姿を現す。イズと呼ばれていた少女はきょろきょろしていたが、こちらの視線に気づくと、はっと目を見開いた。
「リリルっ…大丈夫…!?」
「え、あ、いや…ウチは大丈夫だけど。…それよりカービィ、イズが目を覚ました、っていうのは…」
「あー…うん、あとで話すよ」
…すっげぇ嫌な予感がする。
「大丈夫。いざとなったらぼくが何とかするから」
思考を読んだみたいに言われた。まあ三度もやられたんじゃあ、こいつにとっては予測できることではあるのかもしれないが。
「とりあえず、今日はここに泊まってけ。続きは明日からな?」
「うん。…でも、もう真夜中になっちゃったね」
「ふわあ…泳ぎ疲れた…明日は昼まで寝ていい?」
「それは流石に駄目っスよ」
とは言っているものの、ワドルディ自身も眠たそうにしている。
(これはもしかすると、明日は丸一日休むことになりそうだな…とりあえず明日は情報交換から始めるか)
城の方へ歩いていく影を見守りながら、ぐっと背を伸ばす。そんな俺の脇を、自分の家に帰ろうとしているカービィが通り過ぎる。
その一瞬で、
「イズのこと、頼んだよ」
「気にするんなら残れ」
揃って険しい顔を浮かべた。
翌朝――というよりかは、翌日の昼間。
「んん…ふわあぁぁ…」
案の定全員で寝坊してしまったが、どうやらもう一日休んでいくことに決まったみたいで、あたしは呑気に二度寝したわけだ。
「…お、ようやく起きてきたか」
「旦那だって人のこと言えないくせに」
身支度をして広間に向かうと、もうカーくんを含めた全員が集まってきていた。
「おはよう、イズ。昨日はよく眠れた?」
「うん、ばっちり!…この質問、みんなにされちゃった」
「仕方ないじゃん、みんな心配してたんだからさ」
まだ事情を聞かされていないのだろう、リリルの目はまだ揺れていた。
「…揃ったな?」
その声で、みんなが一斉に旦那の方を向く。緊張感が空間に流れた。
「今朝、俺はこいつに説明してもらったが、お前ら三人はまだだよな?… 確認も兼ねて、もう一度説明頼めるか」
「オッケー。
…まず、ぼくたちがイズと出会ったのは昨日の夕方、場所はウルルンスターの砂浜。最初は何ともなかったんだけど、イズが急に靄に覆われて、そのまま戦う流れになった 」
「なるほど…イズさんは、いつ靄が入ってきたのかとか、宇宙で襲われたときのこととか、何か分かることはありますか?」
同席していたバンダナくんが問う。その質問に対し、イズはしばらく考える素振りを見せた。
「うーん…よく覚えてないかな。あたしが分かってるのは、襲われて気を失ったのと、少なくとも目覚めてからは変な感じにならなかったことぐらい」
「そっか…ウチとカエデはたまたま狙われなかったってことなのかな?」
「うーん…でもわたしとリリルは、星に落ちてすぐ目が覚めたんだよね。だから、イズは隠れる時間がなくて、あいつらに見つかっちゃったってことなのかも」
「じゃあ靄が入っていったのは、イズさんが気を失っているときになりそうですね」
リボンちゃんがそう言ったとき、あたしの頭の中で“なにか”が渦巻いていた。遠くにあって、はっきりとは見えなくて、でも思い出さなきゃいけないもの…
(■■■■■■さん…■■さま…)
「……っぅっ…!!」
その“なにか”を思い出す前に、突然胸がひどく苦しくなった。
「…!?おいアドレーヌっ!大丈夫か!?」
旦那が叫ぶ声には応えられそうにない。うっすらと、みんなが駆け寄ってくるのが分かる。
――頭が痛い。
――苦しい。
――息ができない。
真っ暗闇の中に沈んでいく。
ゆっくり目を開くと、そこには知らない女の子がいた。
首に手を添えられる。
ぐっと近づいてくるのに、その顔は全く見えない。
か
え
し
て
(……っ…………!)
飛び起きると、世界は少しだけ明るかった。ついさっきまでは昼間のはずだったのに、もう夜になってしまったのだろうか。
「はあっ…はあっ、はあ…」
息が荒くなっている。思わず胸に手を当てる。ぐっと触れた手のひらには、強い鼓動が伝わってきた。いつもより早い気もしたが、少し経てばゆっくりと落ち着いてきた。
(みんな、もう寝てるよね…)
ベッドからそっと抜け出す。隣には誰もいなかった。
足がふらつかないのを確認してから、辺りを見回す。最初は気がつかなかったが、ここはどうやら旦那の部屋のようだ。あたしがここにいる理由はおそらく、ここがあの広間から一番近い部屋だからだろう。それでも、隣のミニチェストの上に置いてある、水の入った洗面器とタオルには、みんなからの優しさを感じた。
(心配かけちゃったかな。…そういえば、ここが旦那の部屋なら、いま旦那はどこにいるんだろう…)
ふとベランダの方を見ると、外に繋がる大窓が少しだけ開いていた。
「…あ」
案の定、旦那はそこにいた。
「…もう大丈夫なのか?」
「うん。…目、覚めちゃって」
「そうか…俺もだ」
旦那は安心したように微笑むと、空を見上げた。
「眠くなるまで、ここにいていい」
ありがとうは、どうしてか口に出せなかった。
「…旦那」
「ん?」
「昼は、その、ごめん」
「気にすんな。不調は誰にでもある」
「…旦那も?」
「ったりめぇだろ。…そもそも今起きてるのも、また嫌なもん見ちまったからだしよ」
「…また?」
「こればかりはどうしようもないわな。たぶん体質だ」
「…そっか」
旦那の見ている方を、あたしも見た。きらきら輝く星の中に、三日月があった。
「…あたしも。怖い夢、見ちゃった」
「…思い出せるか?」
すぐにはうなずけなかった。でも、三日月を見ていると、なんとなく口にできる気がした。
「…ずっと暗いところにいて、気づいたら、知らない女の子があたしの前に立ってるの。それで、『かえして』って聞こえて、目が覚めた」
「…恨まれてんのかもな、そいつから」
恨み。その言葉は、少しの間、手放したくない感じがした。
「…今思うとさ、なんか似てる気がする。あたしがあいつに――ダーク・リムラに、憑依されたときに」
「…同感」
自分で思い出したのに、つい身震いした。あの時のことは、本当に怖かった。あの不気味な感じも、がんじがらめにされる感覚も、そして、あの重苦しい空気も――
(旦那は、もっと辛かったんだろうな )
もっと強い力で、何度も、何度も。想像もできない。傷跡もあるのかもしれない。表面的な方も、内面的な方も。
「…でも――」
そこから引っ張り出されたとき、感じてしまった空虚さ。不安定な感情。あの中が恋しいとも思った時もあった。それはあの時、自分が拒んでいたものの一つのはずだったのに。その差に苦しんで、どんどん距離が開いて、でもみんながそばにいて、立ち直らなきゃいけなくて、無理はしてないのに笑うと苦しくて、でもそれは全部矛盾してて、それを打ち明けられるひとはもうここにはいなくて、だれか助けて、助けて、助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助け――
「――い、おい、しっかりしろ、アド!!」
「…え…?だん、な…?」
「はあ、ったく…正気に戻ったか?」
「…、どういう…」
「あのなあ…丸聞こえなんだよ、全部」
手を掴んで優しく引き上げられる。そこでようやく、自分が膝を付いて崩れ落ちていたことに気がついた。
「明日…俺と代われ。んで、クラウディパークってところに行ってみろ」
「…クラウディ、パーク」
「そこなら、お前の見た女の子のことが、きっと分かる 」
なんだか懐かしいような響きのその地名を、頭の中で復唱する。そこには、今のあたしが見つけなきゃいけないもの、思い出さなきゃいけないものがある気がした。
ふと隣の旦那の顔を見る。その顔はどこか悲しげだった。
その理由は、あたしにはまだ分からなかった。
あとがき
大変長らくお待たせいたしました!フジミヤです!
また二週間ぶりの更新となってしまいました…これに関しては単なるモチベーション不足です(裏で周年のやつ書いてたとはいえ)
…まあ5割ほどポケまぜやってたせいだとは思いますが…
んで今回、まさかの重い回になっちゃいましたね…いちおう四章と六章は重たくなるかも、とは考えておりますが、文字化してみるとやはり楽しいですね(おい)
では語るのもこの辺にして、また次回もよろしくお願いします!