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「鈴木さんの件あるじゃないですか?」
「結構大ごとになってるみたいでして」
「先日なんて取引先の営業担当者がヒアリングで呼ばれて来たみたいですよ」
(——え!?)
(純也がうちの会社に来た!?)
寝耳に水だった
頑なに自身の置かれた状況を話したがらない純也
夫婦でありながら
私には何も教えてくれない
よもや
私の会社に呼び出されて来たなど
全く以て知らなかった
うちの会社から直接ヒアリングを受けるということは
それだけ実害に直結する事態なのだろう
いよいよ以て
純也は本当に解雇される気がしてきた
***
ひょんなことから
思いがけず降って湧いたリュカとの機会
本日二度目の社長室訪問
社長室へ向かう道中
心情は複雑だった
リュカに会える嬉しさ半分
純也の状況を憂うのが半分
色々なことがあり過ぎる
それでも地球は回り
時間は待ってはくれない
私は私を見失わず
私自身のことを進めなければならない
コンッ!コンッ!
「どうぞ入って!」
「失礼します」
時間を見計らい
15時ピッタリに社長室を再訪問する
リュカは
先日買ってくれたデカフェの紅茶を
淹れて待っていてくれた
「ん?浮かない顔してるけど大丈夫?」
「う、うん、平気」
今朝の仕事モードから一変
この短時間で
リュカはすっかり穏やかに変貌を遂げ
にこやかに出迎えてくれた
先日の週末同様に
互いにソファに腰を下ろし
横並びで紅茶を啜る
「……で、忙しくて申し訳ないけど30分なら話聞けるよ」
多忙な月曜日に
わざわざ時間を割いてくれたリュカ
時間の制限もある
私は
日曜日に純也に離婚を切り出したことを告げた——
切り出しただけで進捗しなかったこと
純也がどう思ってるのか伺い知れなかったこと
そして
純也に浮気の疑いを持たれていること——
それをリュカは
黙って聞いていた
私が
一通り話し終えると
一通り聞き終えたリュカが口を開く
「なるほど……わざわざ伝えてくれてありがとう」
「旦那さんは私の存在には気付いているのかもね」
予想外の答えだった
勘の良いリュカの言葉だけに
信憑性があって何より怖い
「なんでそう思うの?」
「先日の土曜日、隣駅から会社まで歩いただろ?」
「あの時、俺らの後を尾ける人がいたんだ」
「——!?」
思えば
あの時リュカは
何度か後ろを振り返る仕草をしていた
あの何気ない仕草に
そんな理由があったとは
途端に怖くなる
「そう言えば……」
「ここ最近変なメッセージが届くようになって」
「変なメッセージ?」
尾け狙う人物の存在に慄き
その拍子に
先日あったもう一つの不気味な記憶が甦った
スマホを鞄に置いてきてしまった私は
その大まかな内容を口頭でリュカに伝えた
「あぁ……そういう事ね」
「それ、例の購買部の子だよ」
「あの時尾行してたのもその子」
「女性だったし既知の匂いだった」
「ランチミーティングの時の子で間違いないと思う」
顎が外れるほど驚いた
あの大人しくて品行方正に見える鈴木さんが
まさか尾行まで……
「きっと旦那さんは彼女から何か伝え聞いたんじゃないかな」
たしかに……
そう考えると筋が通る
何より
聡明で勘の良いリュカの言葉だけに
信憑性が高い
「心配しないでも大丈夫だよ」
「瑠奈がどうしたいか、今はそれが大事」
大丈夫って……
何の根拠もなくそんな……
どうしたいかと言われても
何が何だかわからなかった
それにしても……
(何で鈴木さんが?)
(純也に頼まれたとか?)
(それとも自分の意志?)
(何のために?)
考えれば考えるほど分からない
怪訝そうな顔をする私に
リュカは諭すように言った
「別に浮気現場を見られたわけでもない」
「ただ会社の人とたまたま会社付近を歩いていた所を見られただけだ」
「言ったように余計な心配は無用」
「瑠奈はまず、自分の体調を第一優先すること」
信頼できるリュカの言葉に
僅かながらの安らぎを得るも
いまいち釈然としなかった
「夫は私の外出を怪しんでるから……」
「だからしばらくは週末の外出も控えようかなって」
「妊婦健診はちゃんと行ってる?」
「うん、それもあって平日行くようにしてるの」
「今度いつ行くの?」
「ちょうど今週行く予定してる」
「なら俺も一緒に行くよ」
(——え!?)
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