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こんにちは。
前回は因果応報エンドで完結しましたが、
せっかくなので僕が考えたもうひとつのエンドを書こうと思います。
6話から繋げる形で読むと良いかもしれません。
では、続きをどうぞ!
「あなたはパスタが好きですか?」
8話
街灯がぼんやりと光を落とす中、滝川は静かに微笑んでいた。
「……篠宮さん、本当に執念深いですね」
向かいには、拳を握りしめた美咲さん。
そして、すぐ横には私。
「美咲さん」
私が低く呼びかける。
「あなたは本当に、滝川を信用するつもりですか?」
美咲さんの肩がピクリと揺れた。
滝川はゆっくりと彼女の背後に回り、囁くように言った。
「美咲、信じてほしい。僕は何もしていない。」
「……でも」
美咲さんは困惑している。
私は「違う」と言いたげに口を開こうとした、が
その前に滝川が再び言葉を紡いだ。
「ねえ、美咲。君が本当に信じているのは、誰?」
その一言が、美咲さんの中の迷いを決定的にした。
──彼女は、滝川を見た。
その瞳には、怯えがなかった。
そして、私に向ける視線には、わずかに冷たさがあった。
「……瑛人を疑うなんて、篠宮さんのほうが間違ってるんじゃないですか?」
…まずい、!
私が目を見開いた瞬間、鈍い音が響いた。
「ぐっ……」
頭に激痛が走り、私の膝が崩れ落ちる。
美咲さんが手に持っていたのは、警棒──
私がいつか「何かあったときに使ってください」と渡したものだった。
「……ごめんなさい、篠宮さん」
震えた声とは裏腹に、美咲の手は確かに殺意を持って私を殴りつけた。
私は片膝をつきながら、かすれた声を出す。
「美咲さん……あなた…は…」
「僕を追う人なんて、もういなくなったね。ありがとう。」
滝川が微笑む。
もう、立ち上がれない。
物理的な意味でもそうだが、
美咲さんが、完全に奴を信じてしまったから。
「さあ、美咲。もう一度。」
「……うん」
・・・
篠宮圭吾が意識を失ったのは、美咲の手に握られた警棒が二度目の一撃を加えたときだった。
「……これで、終わり」
美咲の息が乱れている。
自分が何をしてしまったのか、完全には理解できていないのかもしれない。
僕はそんな彼女の肩にそっと手を置いた。
「ありがとう、美咲」
僕は優しく微笑む。
「君がいてくれたおかげで、僕は自由でいられる」
美咲は小さく頷いた。
僕の言葉を信じた結果が、今の状況だった。
篠宮が倒れ、僕を追う者はいなくなった。
「……これから、どうする?」
不安げな声。
僕は少し考えたふりをして、それから静かに答えた。
「美咲、君はもう少しここにいて。僕は先に行くよ」
「え?」
美咲の表情が曇る。
「だって、僕が一緒にいたら怪しまれるかもしれない。
篠宮さんをここに残して、僕たちが一緒にいなくなるのはリスクが高い」
「でも……」
「大丈夫。あとで必ず迎えに行くから」
美咲は迷うように唇を噛んだ。
しかし、僕の言葉はこれまで何度も彼女を安心させてきた。
だから、今回もきっと──
「……わかった」
彼女は小さく頷いた。
…笑
僕は微笑み、踵を返す。
「じゃあ、またあとで」
そう言い残し、彼は闇の中へ消えていった。
美咲はその背中を見つめながら、じっと待つ。
そして、彼女の行方を知る者も、もうどこにもいなくなった。
・・・
「じゃぁー質問!あなたはパスタが好きですか?だって!」
向かいの席から、穏やかな声が降ってきた。
…長かった。
すべてを捨て、すべてを偽り、別人として生きる道を選んだ。
そのためにどれだけの時間を費やしただろう。
違う国、違う名前、違う顔、違う声、違う指紋、違う血液、
違う、全てが違う。
僕の過去を知る人間が一人もいない街。
誰にも追われない生活。
目の前の彼女は、少し癖のある茶色の髪を肩で揺らしながら、微笑んでいる。
美咲とは違うタイプの女性。
彼女が僕を疑っていないことは確かだった。
僕は軽くフォークを回し、目の前の皿を見下ろす。
リングイネに絡んだクリームソースが、まるで別の世界のもののように思えた。
──僕はパスタが嫌いです。
僕はゆっくり顔を上げ、微笑んだ。
「うん。好きだよ」
フォークを持ち上げ、ひと口食べる。
「ここのパスタは美味しいね」
嘘だった。
彼女は満足そうに笑い、
「じゃあ次は〜」と話を続ける。
僕は相槌を打ち、自然に振る舞う。
遠くで誰かが笑っている。
車が通り過ぎる音。
この街の音が、心地よく聞こえる。
僕は目を細め、グラスを手に取る。
新しい人生は、今この瞬間から始まる。
ああ、幸せだ。
(完)
第2の人生エンド