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「由美、ねぇどうしたの!?」


「本当に!元気ないよ!?」



利々香と千賀子は会った瞬間、心配そうに私の顔を覗き込んだ。


梅雨入りしたというニュースがあった6月のある日、私は利々香と千賀子と久しぶりに集まっていた。


SNSで話題のカフェに利々香が行きたいと言い出してそこに来ているのだ。


2人はせっかく注文したデザートと飲み物をそっちのけで、私に視線を送ってくる。


「ん?何が?いつもと一緒だけど?」


私はホットコーヒーに口をつけながら、のんびりと答えた。


「いつもと一緒じゃないでしょ!あきらかにテンション低いし!長い付き合いだからそれくらい分かるよ!」


「利々香の言う通り!この前、推しの結婚式があったんでしょ?いつもなら開口一番に語り出すのに、その話を全然しないからおかしい!」


利々香も千賀子も確信めいたように私を問い詰める。


実際のところ、2人のその推測は当たっていた。


私は実ることがなく行き場を失った初恋を拗らせて、苦しさに喘いでいたのだった。


必死に抑え込んでいたのだけど、今にも溢れ出しそうでツライのだ。


「何があったのか私たちに吐き出してみなよ!溜めてるとしんどいでしょ?」


「そうそう!吐き出して楽になっちゃいなよ!」


そう2人に促されて、もう自分では抱えきれなくなっていた私はこれまでのことを洗いざらい告白した。


蒼太くんを好きだと自覚したこと、ドキドキに耐えられなくて思わず告白しちゃったこと、対象外でフラれたこと、今も飲み友達だけどツライこと。


ぜーんぶ包み隠さずに話した。


不思議なもので話すと少し気持ちが楽になる。


2人は私の話に口を挟まずに、うんうんと頷きながら真剣に耳を傾けてくれた。


「なるほど、ついに由美も恋しちゃったわけなのね」


話終えると、利々香は感慨深げにつぶやいた。


ずっと恋愛に興味がなかった私を知っているだけに、その変化がよほど嬉しかったらしい。


「でも恋って苦しいんだね。確かに利々香が言ってたみたいにドキドキしたけど、自分をコントロールできないし、しんどい‥‥」


弱音を吐くようにつぶやく。


そんな私に利々香は優しく語りかける。


「まさにそれ!由美も私が片想いしてる時とか彼氏と別れた時とかに荒れてるの知ってるでしょ?本当に理性がなくなるというか、自分で気持ちが制御できなくてツライよね!」


「利々香もそうなの?私だけじゃない!?」


「そうだよ!私も推しの熱愛スクープ出た時には超荒れてたでしょ。みんなそうだよ!」


千賀子のそれはちょっと違う気がしたが、大なり小なりみんな同じように自分を制御できずツライと思うことがあるらしい。


そう言われるとちょっとホッとした。


「それにしても、その蒼太くんって、由美だけはないって言うなんてひどい男だね!これだからイケメンは!!」


利々香は怒りを隠さずに露わにした。


それに追随するように千賀子も深く頷いている。


「初めての恋はご覧の通りで失恋しちゃった。対象外宣言されちゃったし、行き場をなくしたこの想いはどうすればいいのかな?」


「失恋は次の新しい恋で忘れるしかないよ!よし、久しぶりに合コンしよ!」


「え、合コン!?そんな気分じゃないんだけど!!」


「そんな気分じゃなくても気分は紛れるでしょ?ツライ気持ちから逃げたらいいよ!」


そんなもんなのだろうかと疑問には思ったが、確かに気分は紛れそうだ。


「そうと決まればさっそくセッティングするね!あと、由美には今回の合コンではちゃんと女の子らしい服装とメイクをしてきてもらうからね!」


「ええっ!?」


「由美はいつもほぼスッピンで、服装もいかにも仕事終わりって感じで気合いが足りないのよ!ちゃんとすれば可愛いんだからいい出会いもあるかもしれないじゃない!」


利々香は鼻息荒く、この後みんなで合コン用の服を買いにショッピングに行こうと言い出した。


あれよあれよと言う間に、カフェをあとにして私たちは近くの百貨店で買い物を始める。


年始の時のように、利々香は次から次へと女の子らしい可愛い服を見繕って私に渡してきた。



そして帰り際には、「大丈夫!私に任せておいて!」と自信満々にウインクを投げかけて電車に乗り込んで行った。


その言葉通り、その日の夜には合コンの日程が決まったと連絡が入る。


それは翌週の金曜日だった。


(すぐじゃない!?利々香、手際良すぎ!)


怒涛の展開だが、逆に考える暇もなくて助かるような気がした。


利々香の勢いのおかげで、蒼太くんのことを考えて胸を痛める時間が減ったのは事実だった。


「何か由美ちゃん今日はいつもと雰囲気違うね。そういう服装もすごく女の子らしくて可愛い」


「本当ね~。メイクもバッチリしてるじゃない。似合ってるわよ、高岸さん」


朝出社すると、百合さんと安西部長が私の姿を見て声をかけてきた。


今日は金曜日、そう例の合コンの日なのだ。


私は利々香が見繕ったあの日買った服を身に纏い、指示通りにちゃんとメイクをしているのだ。


「今日の仕事終わりになにか予定でもあるの?」


「あ、はい!友達に誘われてて!」


「そうなんだ。じゃあ定時で帰れるように仕事頑張らないとね」


私は合コンとは言わずに、言葉を濁して明るく百合さんに答えた。


だけど何の因果か、その日は突発対応が発生してバタバタした日となってしまった。


とてもじゃないが定時では帰れず、合コンにも遅れることになり、私は仕事の合間に利々香にメッセージで連絡を入れる。


(もしやこれは「仕事に生きろ!推し活に励め!」っていう天のお告げかな?)


残業しながらトホホと肩を落とす。


ようやく仕事が片付いたのは、合コンがちょうど始まった時刻の頃だった。


「お疲れ様でした!」


一緒に残業をしていた百合さんと、他の広報部のメンバーに声をかけて私は急いで席を立つ。


歩きながら、電車の乗り換えアプリを確認し、利々香に到着時間もメッセージしておいた。


だいたい30分くらいの遅刻で済みそうだ。



今日の合コンは4対4らしく、利々香の会社の先輩が幹事となってくれているらしい。


先輩がちょうど合コンメンバーを探していたらしく、目敏くそれを聞きつけた利々香が参加表明してそこに私と千賀子も加えてもらった形だった。


合コンを開催しているお店に着き、その先輩の名前を告げると、お店の人はすぐに個室へ案内してくれた。


「あ、来た来た~!」


「すみません、遅くなりました‥‥!」


一斉に視線を向けられ、私は頭を軽く下げながら謝罪し、利々香に手招きされて一番入り口に近い席に腰をかける。


「おっそいよ~!とりあえずお酒何飲む?ビールでいい?」


「うん、ありがとう」


利々香は手際良く飲み物を注文すると、私を皆さんに紹介してくれる。


「さっき話してた私の友達です。大塚フードウェイで働いてるんですよ~!」


「あ、はじめまして!遅れてすみませんでした!高岸由美です。よろしくお願いします!」


私の到着を機に、改めて皆さんが私に向けて自己紹介をしてくれた。


どうやら男性側の幹事は、利々香の先輩の高校の同級生らしい。


そして男性陣はその幹事の人と同じ会社に勤めている同僚とのことだった。


「高岸さんって大塚フードウェイで働いてるんですね。僕、モンエクが好きなんですけど、この前コラボが話題になってましたよね」


私の向かいに座っていたメガネの男性が話しかけてきた。


「教師です」と言われたらそうだろうなと思うような真面目な雰囲気の人だ。


確かさっき吉住《よしずみ》と名乗っていたはずだ。


「実は私あのコラボに仕事で関わってたんで、そうやって知ってもらえてると嬉しいです!」


「そうなんですか!どんな仕事してるんですか?」


「私は広報なんです。なので、話題作りのために色々暗躍してたんですよ~!吉住さんはどんなお仕事されてるんですか?」


「僕は研究職です。様々な論文を調べたり、大学と共同研究をしたりしています」


研究職というのが吉住さんのイメージにぴったりで、なんとなく白衣を着ている姿が想像できた。


「でも何か吉住さんがゲーム好きなのってちょっと意外な気がします!読書とかお好きそうですし」


知的な雰囲気があるからちょっと意外に思って率直に言ってみた。


吉住さんは嫌な顔をするでもなく、穏やかな微笑みを浮かべる。


「真面目そうってことですかね?よくそう言われます。でも全然そんなことないんですけどね。近しい人には変わり者扱いされることも多くて」


「え?変わり者ですか?」


「ええ。実は結構なオタクなんですよ、僕」


「そうなんですか~。ちなみに何の?」


「アニメですね。モンエクし始めたのも、前に好きなアニメとコラボしてたからなんですよ。オタクとか引きます?」


吉住さんは隠すことなく、自分がアニメオタクなのをカミングアウトし、ちょっと自虐的に笑った。


もしかしたら彼も合コンとかで過去に引かれた経験があるのかもしれない。


私も変わり者扱いされることが多いから、なんだか勝手ながらちょっと親近感を持ってしまった。


「全然ですよ~!ていうか、私も変わり者扱いよくされますし、引かれること多いんで!」


「え?高岸さんがですか?」


「はい!私、推しがいるんですけど、推しに夢中なんです!その推しっていうのが、同じ会社の同性の先輩で。女神と崇めてるんですけど、それが変ってよく言われて呆れられてます」


これ言ったら今回のこの合コンでも引かれて終わりかな~と思ったが、隠すのは私らしくないと包み隠さずに話した。


「会社の同性の先輩が推しなんていいじゃないですか。きっと素敵な人なんでしょうね」


引かれるかな?と思っていたのに、吉住さんからは意外な反応が返ってきた。


まさか肯定してもらえるなんて。


調子に乗って私はいつもの推し賛美をうっとりと語り出す。


いつもならそれを聞いてどんどん相手は引いていくか呆れた顔をしていくのだが、吉住さんは全然そんな素振りはなく、穏やかな笑みを浮かべて聞いてくれるのだ。


(なんていい人‥‥!)


私と吉住さんは盛り上がり、その後も2人で会話に花を咲かせる。


そして帰り際に連絡先を交換した。



家に着くと、見計らったかのように利々香から電話がかかってきた。


明日実家に帰る用事があった私は2次会には参加せず、今日は真っ直ぐ帰ってきたのだ。


「もしもし、由美?」


「あれ?2次会参加してたんじゃないの?」


電話口からはザワザワとした雑踏の音が聞こえる。


たぶん外にいるのだろう。


「今ちょっとお店の外に出てきたの。それよりも!合コンの時、吉住さんといい感じだったじゃない~!連絡先は交換したの?」


「したよー。いい人だったね」


「ほらね、言ったでしょ?由美はちゃんと服装やメイクにも気を遣えば絶対大丈夫だって」


「別に普通に会話が盛り上がっただけだよ?吉住さん、私の推しの話も引かなかったし!恋愛とかそういう感じじゃないと思うけどな~」


恋愛に絡めたがる利々香のことだ、連絡先を交換しただけでそう思っているのだろう。


私はあっけらかんと答えたのだが、利々香は咎める口調で続ける。


「いやいやいや!さっき2次会で由美に彼氏がいるか吉住さんから聞かれたよ!絶対由美に好意があるって!そのうちデートの誘いでもあるだろうから、由美は失恋のツラさを紛らわして次に進むためにもオッケーしちゃいなよ?」


「まぁそんな誘いがあったらね~」


私は話半分に聞いていたのだが、翌日に利々香の勘は正しかったのだと悟る。


なぜなら、吉住さんからデートの誘いが本当にあったからだったーー。

初恋〜推しの弟を好きになったみたいです〜

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