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【第三章 中野歩美】
【歩美視点】
「はい、じゃあ、はんぶんこ!」
それは、小さな小さな、女の子の物語。
「歩美〜お兄ちゃん待ってるから、
早く帰るわよ〜」
母親の呼ぶ声が響く。
「なあな、かあちゃんとこ
いったほうがいいんじゃね?」
その子は、同い年の
上村海都(かみむらかいと)だった
私は、半分こにしたアイスを
海都に渡して言った
「でも、あいす こうかんするって……」
すると海都は、アイスを
少しかじってから 言った。
「またあした!やくそく!!」
私は大きく手を振った。
「ただいまぁーーー!!」
しかし返事はなかった。
当然だ。
父は海外にいる、
母は私を送り迎えしたあとは 仕事だ。
兄は勉強中だ。
わたしはいつものように、
兄の部屋のある二階に行った。
「おにぃちゃん?」
すると兄は書いていたペンを置いて
こっちを見て言った。
「おかえり、ふみ。」
嬉しくなってつい抱きついた。
「ふみ、べん強できないだろー?」
兄は少し考えてから、ぎゅーっとして、
「冷とうこにチンして
作るやつあんぞ!!」
「やった!!」
私はかけ足で一階へ向かった。
両親がいないことの多い
中野家に住む私は、
五歳という歳でありながら、
料理、計算、読み書きが
できるようになっていた。
(早くチンできないかなぁ?)
そう思いながら、
電子レンジの中でぐるぐる回る
冷凍パスタを眺めていた。
「ん、ナポリタンにしたのか。」
パスタを食べていると、
兄が勉強を終わらせて降りてきた。
「あれ、ベビーシッターは?」
「きょうおかあさん、
はやくかえってくるって。」
「ふーん。」
兄が十歳になるまでは、
ベビーシッターを呼ぶと
母は言っていた。
しかし、仕事が早く終わる日は、
ベビーシッターを呼ばないらしい。
「おにぃちゃん、あとにねんだね!」
「ん?おお。」
兄は冷凍庫から何かとって、
電子レンジに入れていた。
「ふみさぁ、おれのこと……」
そう言って少し考えてから、
息を大きくはいた。
「よびすてしてくんね? 」
「ん?なげ?ってこと?」
「うん。」
兄もまた、電子レンジの中で
回る様子を、じっと眺めていた。
その兄の髪の毛の三つ編みを見ていた。
(なんでおとこのこなのにみつあみなんだろ?)
兄のことは、何も知らなかった。
これからどうなるかなんて
考えたことすらなかった。
「俺にはもう関わるな。」
そんなことを言う兄の顔なんて、
思い浮かびすらしなかった。