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半蔵危機一髪!

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半蔵危機一髪!

2 - 2 真夜中に危機一髪!

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2023年10月09日

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「……の事件に関しまして、警察では連続強盗事件とみて捜査を進めており……」

手に持っていたペンが転がり落ちて、僕ははっと目を覚ました。

時計を見上げると、もう深夜の0時を回っている。

つけっぱなしのテレビでは、ちょうどニュース番組が始まったところだった。

どうやら、レポートを書いてるうちに眠ってしまったらしい。

体を起こすと、白紙に近いレポート用紙にべったりよだれの跡。

(うわあ……)

もはやレポートを書く気にならない僕は頬杖をついて、ニュース番組を何気なく眺めた。

ワンルームマンションの一階の部屋を狙い、住人を縛り上げて殴打し、金目のものをごっそり持っていくという手口の連続強盗事件。

(こんな事件がこの近くで起こってるんだ……物騒だなぁ)

僕はあくびをしてテレビを消した。

ベランダに続く窓を少し開け、電気を消してから布団に潜り込む。

布団の温もりと涼しい夜風。

先ほどのニュースが世界の裏側の出来事と思えるかのような平和がある。

うとうととまどろみながら、僕はふと先日の事を思い出した。

満員電車内で露出痴漢魔と間違われかけて、人間の尊厳を失いかけたあの出来事。

あの時ばかりはさすがに平和じゃなかったな……。

(駅員さんが話せば分かる人で本当によかった。最終的にジャージまで貸してくれたし)

駅員さんのジャージのおかげで、僕はごく普通の大学生から転落することはなかった。それどころか、帰宅したとき顔を合わせた隣に住んでいるたぶんOLの綺麗なお姉さんに

「夜中までクラブの練習?」

なんて声をかけられた。

当然、ハイ! と答えてスポーティな大学生をアピールしたピーターパンツさ。

お姉さんの素敵な笑顔とともに夢の国に飛び立とうとしたその時。

「キャーッ……!」

微かに聞こえた甲高い悲鳴がまどろみを吹き飛ばす。

「え!?」

僕は飛び起きた。

ベランダから首を突き出して見回してみると、隣の窓が開いている。

(もしかしてお隣さん……?)

と思ったとたん、隣の窓がピシャリと閉まった。

カーテンが窓に挟まっているのに、いったん開けてカーテンを仕舞うわけでもなく、窓は固く閉ざされている。

(え、え? 何だろうこれ。なんかすごく嫌な感じなんですけど)

僕の頭にさっきのニュースが蘇った。

……いや、まさかな。きっと虫が出たんだ。

僕はそそくさと布団に戻り、目を閉じた。

ドンッ!

僕が眠ろうとしているのを見透かしたように、お姉さんの部屋側の壁からくぐもった音が響いてきた。

いやぁ、優しそうに見えるのになかなかアグレッシブなお姉さんだ。虫と格闘してらっしゃる。

ドン!バンッ!……バンッ!

僕のまぶたの裏側には、お日様の匂いがするパジャマをボロ雑巾のように破かれて、壁際で胸や足の付け根を覆いながら座り込んで震えるお姉さんの姿が浮かんだ。

服の上からは分からなかったがその胸は豊満だった。

(はは、僕ってばそっち系は趣味じゃないのに、何を考えてんだか……)

ドンッ!……ドンッ!ドンッ!

瞼のスクリーンでは場面が変わった。

黄色いテープ塗れになったマンションに黒山の人だかり。

その前に、絶望と後悔にまみれた顔で事情聴取を受ける僕がいる。

え? 深夜に怪しい音が聞こえた? 君、どうしてその時行動しなかったの?

君がその時動いてくれていたら、今ごろもしかしたら……。

「……おねーさんっ!」

僕は布団を跳ね除けて起き上がった。

何が虫だ! 万が一にも連続強盗犯だったらどうする!?

やるしかない! 今、お姉さんを救えるのは僕しかいない!

燃え盛る使命感に突き動かされ、僕は勢いよくベランダに飛び出した。

「って、チョイ待て待て……!」

冷たい夜風に我に返って、僕は部屋に戻った。

今勢いに任せて突撃しかけていたけど、よく考えろ。

僕、無防備過ぎ。

僕がやられたらお姉さんを救える人はいなくなるんだ。

今から僕は凶悪な犯罪者と対峙するんだ。まずは死ぬ可能性を下げるために防御力を上げるべきだろう。

何か身を守るもの……。

「……あれだ!」

僕は下駄箱の上にフルフェイスのヘルメットが置いてあることに気付いた。

いずれバイクの免許を取るつもりなので先んじて購入した逸品だ。

まさかこんな時に役に立とうとは。買ってて良かったヘルメット。

僕はズッポリとヘルメットを被ってみた。

視界が悪いが、防御力優先だ……悪くない。

さらに玄関わきに積んでいた漫画雑誌で最も分厚いものをパンツと素肌の間に捻じ込む。

何かで読んだが、腹に雑誌を入れておくと、刺されても撃たれても大丈夫らしい。

(しかしこれ、雑誌が分厚すぎて安定が悪いな……合併号だから仕方ないけど)

僕はベルトを一本選んで雑誌の上から腹に巻いた。

一番バックルのゴツいやつだ。

ふふ、これで生半可なナイフじゃ僕の腹は傷つけられないぞ……!

おっと、心臓が守られてない。

そこで僕は、入学式以来袖を通していないジャケットを羽織り、胸ポケットにこの前友達が忘れていったジッポライターを忍ばせた。

これで心臓を拳銃で撃たれてもライターが銃弾を止めてくれる。

映画や漫画でよくあるやつだ。

僕は友情をかみしめながら渋く呟いた。

「田中、お前の忘れ物、僕の命を救ってくれるぜ……」

田中はぴんぴんしてるけど。

これでだいぶ防御力がアップした。

しかし、これだと防戦一方になってしまう。

凶悪犯を制するためには武器が必要だ。文化系男子である僕の家には、都合よくバットや木刀のようなものはない。

料理をしないからフライパンすらない。

何かいいものはないだろうか。

一旦座って考えようとした時、稲妻のように啓示が閃いた。

(この椅子って組み立て家具じゃなかったか!?)

手元にあるものを工夫して、有力な対抗手段にする! これぞ王道……!

早速、僕は椅子をひっくり返して四つ足の一本をグルグル回して座面から取り外した。

すると……何ということでしょう!

ただの椅子の足がりっぱな木の棒に!

少しリーチに不安があるが小回りが利くと考えよう。

僕は椅子の足をベルトの隙間に捻じ込んだ。

これで防具、武器、そして勇気が揃った。

あとたった一つ、足りないものは……。

「そう!タクティクスッ!」

先手を取るにはまずは奇襲。これしかない。 

いくらベストな武器を装備していても、相手は歴戦の犯罪者だ。

当然、白兵戦闘には一日の長がある。

例え卑怯と言われようとも勝つためには手段は厭わない。

「これは卑怯ではない!タクティクスッ!」

僕は勢いよく洗面所の流しの下を開けた。

そこにはスプレータイプの殺虫剤が鎮座している。

この時、僕の目にはそのスプレー缶が、数百年もの間持ち主を待ち続けていた伝説の武器のように神々しく見えた。

これは……まさに社会の害虫である強盗犯を撃退するのにふさわしい武器!

まずはこいつを催涙スプレーのように相手の顔面めがけて噴射!

怯んだところを椅子の足で一撃!

「完璧だ!これぞタクティクスッ!」

僕は殺虫剤をベルトに挟み込んだ。

仕上げに姿見の前に行って、ざっと全身をチェックする。

フルフェイス、ジッポを忍ばせたジャケット、分厚い雑誌にベルト。

「完成だ……!どんな暴漢も僕を倒すことはできない!」

これでお姉さんを凶悪犯罪者から救える。

その後は震えるお姉さんを優しく抱きしめる必要が出てくるだろう。

おっと、もしかしてその先とかあるかも……。

ここまで準備しておいて、詰めを誤るのは愚かだ。

一応、さわやかな息にしておこう。

僕は鞄からミントのタブレットを引っ張り出し、手の平の上で振った。

3、4粒と多めに出たそれをワイルドに口に放り込む。

カンカンカン……パラパラパラ

フルフェイスに邪魔されてミントタブレットが床に散乱する。

……いや、忘れてたとかではなく防御力のテストですけど……?

ともあれ、戦う準備は整った!

「やってやる! 僕は戦士! ウォッ! 地獄から来た戦士! ウォッ! 浮き世に巣食うゴミ虫よ! さぁ! 害虫退治の時間だ! ウォーッ!」

熱くなる気持ちに我を忘れそうになるが、冷静さは失ってはいけない。

念には念を入れたほうがいいだろう。

強盗犯はきっと玄関からの突入を警戒しているだろうから、ここは意表をついてベランダから突入すべきだ!

怖い……自分の頭の冴えが怖い!

僕は静かにベランダに移動して、首を突き出した。

隣の部屋は静かだ。

強盗め、いったい何に集中していやがる!もう猶予はないぞ!

「お姉さん!今すぐ助けます!」

僕はヴァイキングが船から船へと乗り移るかのように、ベランダとベランダを移動するべく、その柵に手と足をかけた。

「……ちょっと、そこの人!」

不意に、懐中電灯の明かりがサーチライトよろしく僕を照らし出した。

僕は振り向いた。

フルフェイスヘルメットのシールドを上げると、いかにもパトロール中!という雰囲気の若いお巡りさんが渋い顔で立っていた。

「何してるの?」

沸騰寸前のテンションが音を立てて急下降する。

僕は震える手でヘルメットを脱いだ。

「……いや、あの……」

警察の方ですか……なるほど……そうか……警察に頼るって手がありましたね……。

「何のつもりかな?君……」

「……違うんです……僕は害虫退治を……」

「ちょっと話聞かせてもらっていいかな?」

僕は警察官に腕を取られて、しおしおと道路へ出た。

振り返ると、隣の部屋のお姉さんが不思議そうに窓からこちらを見ている。

「ああ……お姉さん、無事で何よりです……」


よく見ると、その手には殺虫剤の缶が握られていた。

その殺虫剤、僕も持っています、今。

「よそ見しないで」

「あ、すみません……」

何だろう、心地良いと思えていた夜風が妙に冷たく感じる。

おかしいな……ジャケットまで着込んでるっていうのに……。

「じゃあ、ちょっと署の方に一緒に来てもらおうか」

「えええええええええ!?」

僕の危機はまだ始まったばかりのようだ。



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