ogt/執着
戦死した元第七師団所属(なまえ)伍長は、明治から令和へと前世の記憶を宿し生まれ変わり、今世でもまた、国に貢献する形で自衛隊員となった──のだが…その所属先は陸上自衛隊第七師団…前世と似たような空間…。
──宇佐美らしき人がいる…
しかも陸上自衛隊第七師団には前世で見知っている者までいて、(なまえ)は驚愕してしまった。
「お、お前…名前なんて言うんだ?」
「宇佐美だよ。宇佐美時重。逆にお前の名前はなんて言うの?」
まさかのフルネーム全てが前世と同じとは。
「な、(なまえ)…簪原(なまえ)」
*
前世での繋がりのせいか、宇佐美とは同室になってしまった。心底最悪だとしか言いようがない…。
「はぁ…」
まぁ、それだけでも充分にマシな方だろう──尾形がいないから。
機嫌を戻した(なまえ) は、 ルンルンと部屋へ戻る途中で、誰かにぶつかり尻を突いてしまった。
「す、すみません…」
「大丈夫か?」
この声は──月島軍曹!?あんぐりと口を開けたままの(なまえ)に、月島は手を差し出す。
「あ、あ、あ、ああありがとうございますっ…」
恐る恐る掌を掴み立ち上がる(なまえ)は、月島の横に人影が写っていることに気づき、影の正体であろう人物をそろりと見据えた。
──ま、まじかぁぁぁ…そこは鯉登少尉だろ!
「あ、あ、あぁぁ俺戻りますっ、ありがとうございました!!」
月島の横にいる者といえば鯉登。だが、何故か…何故か、いないと思われた尾形百之助が佇んでいた。
あまりの衝撃に血の気が引いしまった(なまえ)は、その場をすぐに退場しようとするが、尾形により阻止されてしまう。
「お前は一等陸士か?」
「は、はぃ…」
「名前は?」
この問いには答えたくはない。だが、態度からするに尾形は上の位の者で間違いない。
「か、簪原(なまえ)と言います…」
ジーッと見詰められるのに耐えきれず、(なまえ)は目を逸らす。
「も、戻ってもよろしいでしょうか?」
冷や汗がダラダラと有り得ぬほどに流れ出る。まるで滝のようだ。
「あぁ」
この反応は…どうやら尾形、(なまえ)の憶測によると前世の記憶を持ち合わせてはいないらしい。なんとも冷静な、前世と変わりのない尾形だった。
これで一安心、だとは思う。でも、自分のことを忘れ去られてしまっていると考えてしまうと、とてつもなく切ない。(なまえ)は──本当に欲張りだ。
「宇佐美…なんで俺のベッドでくつろいでんだよ…」
部屋へと無事に帰還することが出来た(なまえ)は、自分の荷物が置かれたベッドでスマートフォンをいじくっている宇佐美に苛立ちを表す。
「え〜。別にいいでしょ」
宇佐美の言動にカチンッと怒りは募るものの、(なまえ)はため息だけを吐き出し宇佐美のベッドに寝転んだ。
「じゃあこっち使うから…」
「どうぞ〜」
どうしてなのかは理解が出来ないが、(なまえ)と宇佐美だけしかこの部屋にはいない──通常の自衛隊というものは、少なくとも三人が同室で生活することになる。
「なんで俺と宇佐美だけなんだ?」
不思議に思う(なまえ)は宇佐美に訊ねる。
「僕に聞かれても分からないよ。隊員が少なかったとかじゃないの?」
「そうか…」
渋々納得した(なまえ)は眠りにつこうと目を瞑った。
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