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「私が高校生の頃に駅でちょっとね。でも、こんな場で話すような内容じゃありませんね。ごめんなさい、ティナちゃん」
「いえ、振ったのは私です。もし良かったら聞かせてくれませんか?美月さんと仲良くなりたいので」
「そんなことを言われたら、お話しないわけにもいきませんね」
困ったような笑みを浮かべる美月さん。でも、高校生と駅。この二つのキーワードが出て私も凄く気になった。まさかとは思うけど、心当たりがあったから。
「冬で雪がちらついた寒い日だったかしらね。私は当時いじめにあっていたんです。どんな理由で苛められていたのかは定かではありません。けれど、いじめのきっかけは本当に些細なことが多いの」
確かにそうだ。良く分からないけど気に入らないなんて理由でいじめがあったのを知ってる。
学校といじめは切り離せない問題だ。いや、社会でもあるけどね。私はいじめられたことはない。所謂陰キャだったけど、標的にされなかった。でも、周りでは確かに発生していた。いじめって身近なものだと思う。関わるにしても関わらないにしてもね。
「あの日も酷いいじめにあってね。頭から冷水を掛けられてお気に入りのコートをズタズタにされて……思わず学校を飛び出してしまったの。寒い中、無意識に駅まで来て……何もかもが嫌になってしまってね。今思えば自暴自棄だったわ」
「それで、自殺を?」
「電車が見えて、無意識に一歩を踏み出してしまったの。踏み出せば楽になると思ってしまった。その時、サラリーマンだったのでしょうね。スーツを着たおじさまが私の手を引いてホームへ戻してくれたの。早まるんじゃないって言葉と一緒にね」
……!?
そんなっ!こんな偶然ってある!?
「残念ながら、その人は私の代わりに轢かれてしまったの。辛かったわ。自分の行いで、無関係な人が命を落としてしまったんだから。一年くらい引きこもってしまったけれど、無駄には出来ないと考えるようになってね。後は我武者羅、気が付けば首相になっていましたわ……ティナちゃん!?」
笑顔で語る美月さんを見て、私は静かに涙を流していた。前世で最後に果たせた善行。独り善がりで、下手をすれば助けた娘の人生を台無しにしてしまったんじゃないかと考えたこともあった。
でも、無駄にはならなかった。あの日助けた女の子は、こんなにも立派な女性になってるんだから。
「あのっ、大丈夫ですか?ティナちゃん」
「ごめんなさい、ちょっと感情移入しちゃって」
「此方こそごめんなさい。こんなに重い話を」
「聞いたのは私ですよ、美月さん。貴女の事が知れて良かった」
私は涙を拭ってゆっくり立ち上がった。それに合わせて美月さんも立ち上がったけど……うん、こんな気持ちは初めてだ。
だから……頑張った彼女に応えたい。そんな気分だ。間違いなくアメリカの皆さんに迷惑をかけるけど。
私はそっと美月さんに近寄って、囁いた。
「ちなみにその人の名前は……」
「……!?」
私が小声で前世の名前と簡単な経歴を話したら、美月さんは目を見開いて私を見た。知らなかったんだろうね。そりゃそうだ。インターネットで当時の事故を調べたけど、身元不明のままだった。エグい死に方したんだろうなぁ。しかも当時は既に天涯孤独、会社だって面倒を避けて知らんぷりかな。そんな彼女に私は笑顔を返して窓へ向かう。
「ジョンさんに伝えてください。ちょっと休憩してきますね」
「ちょっと、ティナさん!?」
美月さんにもう一度笑顔を返して、翼を大きく広げて窓から空へ飛び立った。
彼女は聡明な人だ。多分、意味を理解したと思う。上手く使えばアメリカ以上にアード関係の主導権を握るだろうね。ジョンさん達には悪いけど……これくらいはしてあげたい。
『ティナ……大丈夫ですか?』
アリアが声をかけてくれた。
「うん。ごめんね?急に飛び出しちゃって。少し気晴らしをして戻るってフェルに伝えてくれる?」
『畏まりました。ティナ』
「ん?」
『私は貴女の判断を肯定します。非科学的・魔法学的ではありますが、転生についての議論はアードにも存在していました』
「ありがとう、アリア」
やっぱりアードにもあったんだね。そして科学や魔法で超文明を作り上げても死者に対する考え方、扱い方は地球と同じ。どんに発達した科学でも、偉大な魔法使いでも死者蘇生は果たせなかったって事かな。
飛び出してきて気付いたけど、こうやって地球の空を自由に飛んだのは初めてかもしれない。ニューヨークではそんなことを考えてる余裕なんて無かったからなぁ。
ゆっくりとビルの間を飛んで、手を振ってくる人には笑顔で振り返して……うん? 何だか騒がしいな。郊外にあるアメリカらしい巨大なスーパーマーケットで……駐車場にはたくさんのパトカーが停まってる。これって。
『現地警察機関の交信を傍受、解析した結果複数人による人質立て籠り事件が発生。経緯としては強盗に押し入ったものの警察の対応の早さを見て、来客を人質に立て籠りに発展したものと推測されます』
立て籠り事件!?
でも、あんまり地球の事件に関与は……またジョンさん達を困らせちゃうし。アメリカの警察は優秀みたいだからここは……あっ、お店から小さな女の子を連れた女の人が飛び出してきた。親子かな。
『利用客であると推定されます。犯人達の隙をついて脱出したものかと』
良かった、何とか……銃声が響いて、女の人が倒れた。警官達が慌ただしく動き始める。
それを見て銃を持った男の人は女の子に銃口を向けて……私は思いっきり翼を羽ばたかせて一気に急降下した。
『ティナ!?』
母を撃たれ、撃たれた母に縋る小さな命は、今まさに暴力によって失われようとしていた。
「ふざけやがって! てめえも死にやがれ!」
最早余裕を失っている強盗は、警官達の制止を無視して躊躇無く引き金を引いた。銃声が響き渡り、小さな命が奪われたと誰もが思ったその時。
まるで弾き飛ばされたような金属音と共に銃弾はあらぬ方向へ飛び。
恐る恐る見上げた少女の目の前には。
「大丈夫、皆助けるからっ!」
強盗達を鋭く見据える天使が居た。