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ちょっっっとだけ嘔吐しかける表現あり、嘔吐はしません、別に嘔吐の話じゃないので安心してください。
inm視点
一昨日は巨大な敵を倒し、昨日は西の警備、今日はメカニックで1日中作業し、明日はめちゃつえーの合同練習。最近、おれのスケジュールはパンパンだ。
「は〜〜〜大変だ〜〜〜」
思わず休みたい、なんて思ってしまうが、やらなければいけないことはやらないと。だっておれは、みんなのスーパーヒーローなのだから。
「今日は何するんだったっけ」
作業場へ行くと大量の壊れた武器が。そういえば、みんなの武器をいい感じに治さないといけないんだった。マナのレイピアをはじめとした、みんなの武器。一昨日の敵の強さがここで表されているようだった。
だいたい半分を修理し終えて、一息つこうとする。くっとのびをしようとしたところ。
気持ち悪い。
その一瞬でおれは地の底に突きつけられたような気分になる。途端に吐き気がおれを襲う。おれ、最近自分の体調、管理、できてなかった、か?
「うっ……………」
忙しいがあまりご飯すら食べられていなかった。それだ。きっとご飯を食べれば良いはずなのに、おれの身体はご飯を受け付けない。気持ち的にも、むりだ。今は、そんな場合じゃない。
「はやく、仕事、しない、と」
身体中から汗が吹き出る気分だった。だめだ。今日はよくない。動いちゃだめだ。動いても身体の中にはご飯はないから出すものもない。でも、動いちゃったら、絶対にもどす。そう思ったおれはゴミ箱を抱え、うずくまる。気持ち悪い、きもちわるい。ごはん、たべなきゃ。きもちわる……………
「…イ、ライ!!」
急に聞こえてきた声で目が覚める。
「………ほし、るべ?」
「どうしちゃったんですか、ゴミ箱抱えて寝ちゃって」
おれは意識が朦朧としながらも必死に状況を把握しようとする。
「ち、がう。おれ、メカニックしないと」
「なにとぼけてるんですか、今日合同練習ですよ」
「……………えーーっと」
なるほど、ここは作業場、昨日苦しいと思ったまま意識を失ってたのか。たくさん寝たおかげか体調は割と良い方だが、お腹は減っているようだ。
「おれ、昨日のまま寝ちゃってたんだ」
「ライらしくないですね、大丈夫ですか?」
「てかほしるべ、なんでおれのこと気づいたの」
「え?えーーーっとそれは…」
「またおれの鍵こじ開けてきたでしょ、あれ直すの大変なんだからなあ」
「事実ですけど!!こじ開けなかったらライどうなってたよ!!!」
「………それはそうだけど」
「まあまあ、とにかく行きますよ」
「まだみんなの武器直せてないよ……」
「武器は予備があるんだから、ライがいない方が色々大変ですし」
「そっか、じゃあ行く」
合同練習、身体もつかなあ…?
「ライおはよ!」
「おはよライ」
「みんなおはよー!」
合同練習がはじまった。今日はなんと武器なしの特訓だそう。ふう、予備があると言えどもちょっと不安だったから助かった。
まずは筋トレから始まる。リトの得意分野でもあるので、今回の特訓リーダーはリトらしい。腕立て伏せを15回ほどやったところで、おれはまた昨日の頭痛と吐き気に襲われる。だめだ。どうして?おれ、しっかりしろよ。幸い誰も気づいていないらしく、なんとか20回目の腕立て伏せが終わった瞬間におれはトイレに行った。トイレから出ようとしてもまた襲う吐き気。
「なん、で…………」
戻らないのは怪しまれると思い、リトはおれが帰ってきたのを確認して特訓を再開する。と思ったのだが。
「ライ、お前大丈夫か?」
リトに聞かれてヒュッと思わず息を吸う。やっぱりバレてるか…?
「う、うん!大丈夫」
少なくともさっきの吐き気よりはマシになっているから、ウソではない。そう自分に言い聞かせ、おれは特訓を続けた。
ぐう〜〜っと音が鳴っておれは周りを見渡すと皆がこっちを向いている。お腹すいてたんだった、おれ。
「ごめん笑おなかなった笑」
「そろそろ帰ってご飯にするか」
「いいの?やったあ」
「…ライ、ちょっと来て」
「ん?どした」
珍しくウェンに神妙な面持ちをされたので、なんだ?と思いながらついていく。
「ライ、最近ご飯食べてる?」
「………え?」
「見るからにげっそりしてるけど」
「そんなことないよ」
「ウソはダメ!とにかく今日はご飯食べるよ!」
「食べる、食べるよ!コンビニ行ってカップ麺食べようとしてた」
「話聞いてた?みんなで食べるよ」
「は?」
待って待って、と言う前にウェンは説明をする。どうやら今日はウェンの家でご飯、ウェンがご飯を振る舞ってくれるらしい。気持ち悪いのに耐えるので精一杯で、話聞けてなかったのかな………。
「ウェンライまだーーー?」
「お腹空いてんけど!!」
あはは、とウェンは笑っておれの手を引く。
「今日はライのための愛情ごはんだからいっぱい食べてほしい。今行くーー!!」
全員でウェンの家について、ご飯を食べる準備をする。8人分のコップ、箸、ランチョンマット。それを用意したはずなのに、出てきたのは1つのうどんだった。
「ライ、食べて」
「え、みんなの分は?」
みんなを見回すと皆が俺を真剣な眼差しで見ている。真剣、と言っても怖さを覚えるわけじゃなく、見守ってくれているようだった。
「ライがご飯食べてないこと、みんな分かってんで」
「あまりにもきつそうだったしな」
「今日の練習、メニュー大分簡単になってたの気づいたか?」
あ、と声が出そうになる。たしかに、内容は楽だった。気持ち悪さと戦っていたのでメニューが簡易なことに気づけなかった。
「とにかく、今は食べて」
「でも、みんな…………」
「みんなのこと優先しすぎ、たまには自分の優先度を高めてもいいんじゃない?」
「ライのために作ったんだからさ〜」
うどんの優しい出汁のきいた香りがおれの鼻に届いた。身体が、飢えていたんだ。香りがおれの箸を運ぶ。
「…っ………おい、しい。……おいしいよ、これ………」
手料理ってこんなに美味しかったんだ。いつの間にかうどんをすする音と、鼻水をすする音が混在していること、視界がかすんでいることを認識し、おれは今泣いているんだ、と実感する。みんなの前で泣くなんて、みっともないなあ。
akg視点
「ライは多分、自分に手をかけることが罪だと思ってたんだよね」
「忙しくなると、なおさらね」
「ライ、そういうことが多いからなあ」
「みんなのこと優先する、みんなのスーパーヒーローだもんね」
「無理せずやってほしいねんけどな〜」
「ほんとに」
小声で皆が話していた。ライを見ると、泣きじゃくりながら僕のうどんを食べている。
「その…おれだけ食べるのは…………」
「………皆で食べない?」
ライに提案されたのを受けて、僕はみんなの分のうどんをつくる。昆布と削ったかつお節からしっかり出汁をとった、僕特製のうどん。それをみんなが美味しそうに食べてくれている。
inm視点
こんなおれのために、皆がこういう場所を用意してくれて、ウェンはご飯を作ってくれてた。こんなおれに、無償で、手間をかけて提供してくれたうどん。
「おれ……手料理食べたの数週間ぶりで」
ウェンはニコッと笑ってこちらを向く。いつでも作るから、と言ってくれたウェンは俺の中のヒーローだ。ご飯、もうちょっとちゃんと食べよう。
「ありがとう、ご飯」
「みんなも、気づいてくれてありがとう」
無理すんなよ、と言ってくれた皆の声が温かくて、おれはうどんの出汁を飲むふりをして全力で泣いた。見苦しいのはわかってるけど、一番信頼できるのは彼らだから。おれもヒーローだけど、ここにはそれを受け止めてくれるヒーローたちがいるから。泣いちゃえばいい、そう思った。
「みんな、ほんとにありがとう」