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※学パロ学パロ学パロ
モブいますモブモブモブモブ
伊波の話というよりかはざぶぅんの話。
inm視点
もともと音楽に興味があったので、高校では軽音部に入ると決めた。決意したあの日からもう2年経ってるのか………。
「そろそろ文化祭だね」
「そうだね……」
おれはギターボーカルを務めていた。軽音部に入っているからと言って、文化祭は油断してはいけない。おれの学校は、各々集ったバンドがオーディションによって順位付けられ、上位8組が文化祭に出られる仕組みになっている。軽音部に所属しているグループでは8組を超えないが、なんせ文化祭、みんな好き好きにグループを作ってたくさんできてしまう。噂によると今回は20組以上いるのだとか。
「ほんとに意味わかんなくない?多すぎじゃん」
「まじで、みんなもの好きだなあ」
「それ大ブーメランやぞ」
「あっ」
2週間後のオーディションまでおれのグループは必死に練習するつもり……だったのだが。
おれの喉の調子が悪い。音を外すわ、ビブラートは効かないわ、正直なところこんな歌を聴かせるくらいならオーディションに出ないほうがマシだと思う。
「ごめん、こんな歌声で」
「大丈夫か?」
「オーディション2週間後だけどいける?」
「ちょっと不安かも」
ギターは弾けるし、結構自信がある。ベースもキーボードも、ドラムもおれの自慢のグループと言えるほど上手い。ただ、おれの歌で台無しにしている、そんな感じ。みんなは遠慮して言わないが、実際は結構不安だろう。だって、おれすら分かるから。
「新しいボーカル必要かも」
おれは真剣にみんなを見る。一瞬だけ驚いた様子だったが、納得しているようだった。それでも、おれに問う。
「ライは、それでいいん?」
「…………え?」
「ずっとボーカルしてくれてたじゃん」
「ライ、正直に言って」
詰められて、ああ、全部話さなきゃ、と思う。と同時に涙が出る。
「おれ…………ほんと、はボーカル、したい。でも、これっだと………バンドがっ受からない……気がして」
「したい………けど、でもおれには…ギターもあるし」
その日は泣きじゃくった。バンドメンバーも一緒に泣いた。みんな、思っていたことを必死に喋った。バンドとしてオーディションに受かりたいこと。そのためには新しいボーカルを呼ばなきゃいけないこと。それも、2週間で仕上げてくれるボーカル。おれの周りには、そんな人、いない。どうしよう。
「俺、そのボーカルに心当たりあるかも」
一人、ベースが呟いた。その強い眼差しできっと誰しもが確信しただろう。これはいける、素晴らしいボーカルが来る、って。
数日後、そのボーカル―緋八マナというらしい―がやって来た。マナって呼んで!と言った彼とは、まるで100年前から仲が良かったかのような相性だった。そして何より、初心者なのにバンドに適したボーカルの才能。
「マナ、今のところもう一回歌える?」
「ええでー!じゃあサビんとこからな!」
はあ、楽しすぎる。バンドのメンバーも楽しそうだ。マナ、お前天才だよ。
「はあ〜今日オーディションか」
「遂にかああああ」
あれからマナは、本当に1週間ちょっとで歌を仕上げてきた。毎日全力で練習してくれたらしい。
「喉の調子はどう?」
「バッチリや!!ギターはどうよ?」
「ちょっと緊張笑でもマナがいるから大丈夫」
「はは!!肩の力抜いてこや!!」
文化祭で漫才もするという彼は、バンドの中で盛り上げ担当。おかげで毎日が楽しかった。MCも任せてくれや〜と胸を張って言ってくれた彼には感謝しかない。
「ギターよし!」
「ベースもよし!」
「キーボードよし!」
「ボーカルもええで〜!」
「今日のオーディション、がんばるぞ!!」
「「「おーーーーーー!」」」
オーディションは大成功だった。オーディションでは他のバンドも聴くことができ、実際に聴き手がいる状態でやるのだが、過度な緊張はせず、一言で言えば「最高」だった。当日に出た結果は見事1位。最高。
「ほんっっとにありがとう」
「こちらこそ」
文化祭はこのオーディションの1週間後。1週間後の文化祭に出場しようと思って練習していたグループにとって、このオーディションに落ちることは結構な痛手だと思うし、ひどいことだと思う。嫉妬とか考えずに、自分たちを応援してくれたら嬉しいのだけれど。
たくさん練習して、迎えた本番。ひとつ前のバンドを後方で見て、あと10分後にあそこに居ると思うと息の仕方がわからなくなりそうだった。
「ライ、緊張してるやん笑」
「そういうマナも足ガクガクじゃん笑」
「そりゃ〜〜緊張もするわな」
「昨日のリハーサル、イメージしてこ」
いつの間にか終わっていたバンドとバトンタッチをして、おれたちは壇上に登る。歓声と共にスタートした、ライブ。これも最高のスタートダッシュだった。こんなに楽しいものか。
4曲目が終わろうとしていた。ビン、という音とともにおれはギターを見る。気づけばギターの弦が1弦切れている。まずい。なんとか4曲目は耐えたものの、5曲目はこの弦を使うはずだった。どうしよう……?
「ライ」
4曲目が終わった歓声や拍手の中、マナが小声でおれを呼ぶ。
「なに」
「弦、切れたんやろ?」
流石相方、ハプニングもわかっている。
「ライ、歌わへん?」
「え、おれ?」
「ずっと歌いたかったって言うてたやんか」
「」
マナに言った覚えはない。あの泣いた日も、バンドメンバーしか知らないはず。なのに、知っていたのだ、おれがボーカルだったことを。
「と、いうことでーー4曲目が終わったとこなんですけれども!ここで一つハプニングが!!!」
「ちょ、マナ、おれ良いって」
「なんとですねーギターの弦が切れちゃったそうですよ!!残念だあああ」
「おれ、歌うのむり、喉おかしいって」
「そこでですね!!このギターと一緒に歌おうかなって!!」
「………」
「みなさんギターは居ませんが、手拍子で手伝ってくれますかーーー!!???」
うおおおと歓声があがる。おれ、喉やってるんだって。
「大丈夫、ライならいける」
「でもおれ、喉が」
「2週間も休んでた喉、使えへんの?笑」
「はああ?使えますが!!!」
「ということで5曲目行きましょーーー!!」
おれ、ボーカルやりたかった。言うのを躊躇って、ちょっとだけ義務のようにギターに専念していた。マナに煽られて、ほんとは歌いたかったことに気づく。無意識のうちに、マナと歌うことを宣言してしまった。歌うしかない。緊張しかないけど、歌うのは好きだから。
「みなさん手拍子いかがですかー!」
そういってドラムと一緒に手拍子をするマナ。それにつられて手拍子を始める観客たち。おれの緊張と興奮のボルテージはMAXだった。
マナが歌い始める。目配せでその歌を継ぐ。それをマナが受け取る。継ぐ。受け取る…
ふとベースを見ると、俺等に任せろと言わんばかりの演奏。ギターのソロはかっこいいベースのソロに代わり、同じコードを弾くことが多かったキーボードはエフェクトがかかってまるでギターのような音色になっている。ギターのリズムを補うようなドラムの叩きっぷり。
そして、それに負けないくらいのマナの声量とおれの声量。なんだ、歌えるじゃん、と言わんばかりのマナの顔。おれのバンド、最高じゃん。
そうしておれたちのバンドは幕を閉じた。毎日の練習を含め、バンドをこれ程までに楽しいと思ったことはない。
「マナ、なんでおれがボーカルのこと知ってたの」
「ライのバンド好きやってん、ずっと見てて」
「そうだったんだ」
「オファー受けたとき夢かと思た笑」
「おれ、マナと100年前から仲よかった気がする」
「え!?まって!?同じこと言おうとしててんけど!!」
「あはは、ほんと?うれしい」
「ライの歌声ホンマ良かったで〜〜」
「ありがとう、歌わせてくれて」
「全然!!俺ギターもやけどライの歌声超好きやってん!」
「ありがとう、ほんとにありがとう……」
何時しかおれたちは泣いていた。これはあの日に流した後悔の涙じゃない。最高。