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ある日を境に、すみれは少しだけ変わった。
昼休み、先に教室を出ていくようになった。
放課後、「今日は寄り道できない」と小さく笑って帰っていくことが増えた。
連絡先を聞こうとすると、軽くはぐらかされた。
「別に、連絡なんてなくても、明日も会えるでしょ」
それはきっと、やさしい言い方だった。
けれど、私は笑えなかった。
(すみれは、少しずつ私の外側に行こうとしてる)
気づいていても、聞けない。
問い詰めたら、終わってしまいそうだから。
でも、ある日の放課後、
どうしても黙っていられなくなった。
すみれが帰り支度をしているとき、
私は思わず声をかけていた。
「最近、避けてる?」
すみれは手を止めて、ゆっくり顔を上げた。
その目は、私の言葉を否定もしないし、肯定もしなかった。
「……依存って、されるとちょっと怖いんだよ」
その一言が、まっすぐ心の奥に刺さった。
「怖いって……私、そんなつもりじゃ」
「うん、わかってる。
でも、“つもり”じゃなくても、
相手にとっては重くなることってあるから」
私は、返す言葉を探した。
でも見つからなかった。
その沈黙の中で、すみれがかすかに微笑んだ。
「ねえ、名前も知らない人に、
全部をあげるのって、少しこわくない?」
私は――言葉が出なかった。
すみれは鞄を肩にかけて、そっと視線を逸らした。
「また、明日ね」
それだけを残して、教室を出ていった。
私はその背中を、呼び止めることができなかった。