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ぁ、あ語彙力無くなるぅ。もう最高でしたね。ブラック涼架なんて素晴らしい✨いやぁ、好きですねぇ💗💗
なかなか見れない感じのブラック涼ちゃん、、、! 素敵~~~!!!こういう感じの涼ちゃんももっとみたいかも(笑) 今回のお話も最高だった~😭✨ 明日の短編も楽しみ💚
「涼ちゃん、ここさぁ、たーたたったたら~って感じに変更してほしいんだよね」
スタジオに入ってさっそく、俺は涼ちゃんにフレーズの変更をお願いする。
「はいよ~……えーとこうかな?」
慣れた手つきで、俺が口頭で伝えた音階を再現しようとしてくれる。
「あ~ちょっと違う」
「元のよりもうちょい高め?」
少し首を傾げながら弾き直す。
「いや、やっぱ違うかも。たーたったたったら~だとどうなる?」
「ちょっと待ってね……たーたったたったら~……こうか」
涼ちゃんが弾き直してくれたフレーズに、俺は思いっきり眉根を寄せる。
「いや……違うな。やっぱいいや、今日は元のままでとりあえず弾いて」
少し不機嫌そうな態度をとってから涼ちゃんのそばを離れる。こちとら映画主演も務めているので、甘く見ないでいただきたい。涼ちゃんはちょっと戸惑って、申し訳なさそうにこちらを見るが、俺はそれもスルーする。
「じゃあ合わせでー。はい、お願いしまーす」
演奏が始まり、それに合わせて歌いだす。
「待ってストップストップ」
途中でジェスチャーをして演奏を止めてから
「涼ちゃん今のとこキー変えてって言ったよね?こないだ」
ちなみに言ってない。
「え、あ、そうだっけ……?」
はぁ、とわざとらしく大きくため息をついてみせる。
「このタイミングの新曲だし大事にしたいって言ったよね俺?こういうとこで二の足踏んでたくないんだけど」
「ご、ごめんなさい……」
普段は間違えてもこんな風に責めたりすることはないので、明らかに動揺して目を泳がせる涼ちゃん。
「次間違えないでよね。……はい、じゃあもっかいお願いしまーす」
その後も、普段ならその時にはスルーしておいて後で伝えるような小さなミスでもあえて止めて苦言を呈する。するとだんだんと焦るあまりか涼ちゃんのミスが増えてきた。
「また間違えてる」
静かになった部屋に俺のいらつきを含んだ声が響く。冷たく視線を投げかけると、涼ちゃんは今にも泣きそうだ。
「ごめんなさい、もう一回、お願いします」
それでも涙をこぼすまいと必死に堪えているのがわかる。罪悪感で締め付けられる胸の痛みを感じながら、いや、まだだ、と思い直す。俺は努めて冷たい声、表情、態度を意識する。
「もういい。時間の無駄でしょこれ、涼ちゃんミス増えてんの自分でも分かってるよね?ふざけてんの?ごめんなさい皆さん、1回時間置きます。若井、行くよ」
涼ちゃんは責められるよりもこうして冷たく突き放されるのが一番苦手なのだと分かっている。俺は「マジでごめん」と心の中で謝りながら、大きく音を立ててスタジオの扉を閉めた。
続けて出てきた若井やほかのスタッフたちと一緒にモニタールームへ移動する。ここで一人になった涼ちゃんがどんな行動をとるかを見ている様子も撮影する予定だ。
「ねぇ俺出てくる前涼ちゃんの方見れなかったんだけど、泣いてた?」
顔を顰めながら若井に尋ねると
「キーボードの方俯いてたから分かんなかった。いやでもあれは泣くでしょ、今日涼ちゃんよく耐えてたよ」
と彼も渋い顔をしてみせる。うっ。やっぱやりすぎたかな。でも指示通りっちゃ指示通りだし。かじりつくようにしてモニターを急いで確認すると、キーボードのすぐそばで膝を抱え込むようにして座り込み、顔を伏せている涼ちゃんが映っていた。
「あ~完全落ち込んでますねこれ……多分泣いてるよねこれ、若井?」
もうカメラはまわっている。指定された席に着きながら若井に話を振った。
「涼ちゃんめちゃくちゃ自分責めるタイプなんで、理不尽に怒られても自分の悪いとこ探して責めちゃうっていうか……そういうとこあるよね」
そうこう話していると、涼ちゃんが顔をあげて涙を拭いながら楽譜を手に取って、何やらペンで書き込みを始めた。おそらく先ほど指摘された部分なんかをメモしているのだろう。
「最初の予定とは違うんですけど、ここで仕掛け人いれて、藤澤さんの本音を聞き出すってシナリオにします」
制作スタッフの言葉に俺と若井は顔を見合わせる。さっき言ってたのはこれか。パタン、とモニターから音がして画面に目を遣ると、仕掛け人らしい男性スタッフが1人、スタジオに入っていったところだった。
『藤澤さん、大丈夫ですか』
結構はっきりと音を拾うらしい。スタッフが手に持っていたペットボトルのお茶を差し出す。
『ああ……ありがとうございます、すみません』
慌てて笑顔を作りながらそれを受け取る涼ちゃん。
『本当に申し訳ない……僕が何度も止めちゃって』
『いやいや……ていうかしんどくないですか、普通に』
スタッフが少し声を潜めて言う。涼ちゃんはちょっと戸惑ったように、あぁ、と頷いてから
『どうしても新しい曲なんで力は入ってるっていうか……それにそれぞれしんどいのは一緒なんで僕だけここで折れてるわけにもいかないっていうか……』
『あー、いやそういうことじゃなくて……大森さん厳しそうとは思ってたけど今日の見てたら思ってたよりだなって。しかもちょっとただの我儘のところもあったじゃないですか』
なるほどね、と俺は制作スタッフの方をちらと見る。彼の狙いはこれだったのか。ここで確かにメンバーやミセスに対しての否定的な意見が涼ちゃんから拾えたなら番組のネタとしては面白いんだろうけど。
『いや、今日はなんか激しめでしたけど、大森も普段はあそこまでじゃないんですよ』
涼ちゃんは慌てたようにぶんぶんと大きく首を振る。
『それに今日のは、僕が今後の練習やレックで大きな問題につながらないように指摘してくれてたなぁってのがあって……弾き慣れて手癖になってきちゃうとさらに直しにくいですから』
にこにこと柔らかな笑顔で答える涼ちゃんに、へぇ、とスタッフは頷く。
『でも辞めたいなぁって思ったりするときありません?』
『え……?』
涼ちゃんはきょとんとした表情で首を傾げてから、少し考えを巡らせるように視線を宙へやった。俺は思わず身を強張らせる。彼は、どんなことを答えるんだろう。
『練習がつらいなってときはありますけど、辞めたいとは思ったことないですね……僕にとってミセスって家族みたいな……いやそれ以上の存在だし、大切な居場所なので』
めずらしくちょっと真剣な表情の涼ちゃん。
『それは……すごいですね。今日みたいなことがあってもですか?大森さんの我儘に付き合わされてんの可哀想だなって。むかついたりとかしないんですか?最近のあの人結構調子乗ってるっていうか』
うっすら小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、涼ちゃんの顔を覗き込むスタッフ。これはさすがにちょっとやりすぎじゃないのか。番組スタッフに文句を言おうと椅子から立ちあがりかけたとき
『そうですね……今はちょっと』
えっ。俺は思わずモニターのほうに向き直る。涼ちゃんはいつもと変わらない柔らかな笑みを浮かべながらスタッフの方を見ている。
『僕……昔から「ミセスに必要ない」とか周りから言われちゃうこともあって、だからそれで怒ったり、とかはないんですけど。僕の大切な人たちを傷付けるような言葉を言われちゃうのはちょっと』
それ以上は何も言わずに黙って微笑んでみせる涼ちゃん。いつもと変わりないように見える笑顔が何だか怖い。スタッフが、ごめんなさいっ、とどもりながら慌てて謝罪する。どうやら素で頭を下げたっぽい。
『あ、いえいえ……僕泣いちゃってたから心配してくださってたんですもんね?ありがとうございます、でも大丈夫ですから』
あぁ、でも、と涼ちゃんが言葉を続ける。
『さっきみたいなこと、大森に聞こえるような場所で言わないでくださいね。俺、大切な人が傷付けられるのは嫌なので』
いつもより少し低い声。柔らかな表情、穏やかな口調なのに、怖い。おそらくモニタールームにいた全員が身震いをしたに違いなかった。シン、と静まり返ったモニタールームで
「あ、ネタばらし……」
と誰かが呟いたことで、番組スタッフが慌てて用意してあったプラカードを俺たちに渡してくる。スタジオに戻っておそるおそる今日の企画について説明すると
「うそ!どこから?というかどれが?」
といってそれぞれのネタばらしにひとしきり驚いた後、カメラがもう回ってないことを確認してから少し気まずそうに
「じゃあさっき恥ずかしいとこみられちゃったな」
と俺たちにこっそり耳打ちして笑った。若井はちょっとおどけて
「涼ちゃん怒らせないようにしようと思った」
「え~でもあれは仕方ないでしょ」
と不服そうな涼ちゃん。
「だって大好きな元貴のこと、あんな言われ方したんだもん。お仕事に支障あったらいけないからと思って耐えたけど、これでも我慢した方なのにな」
俺はなんだか照れ臭くなって
「殴るくらいしてくれてもよかったのに」
というと、涼ちゃんが、いやいや、と笑う。
「殴ったら痛いじゃない。あんなこと言う相手にこっちが痛い思いする価値ないでしょ」
えっ、と思わず彼をみる。今の発言……間違いなく涼ちゃんから発せられたものだよね?でもそこにはにこにこと人好きのする穏やかな微笑をたたえる彼がいるばかりだ。
ちなみにオンエアはかなりの話題を呼んだ。「なんでも許してくれるのに、メンバーが貶されたらちゃんと怒る涼ちゃんかっこいい!」とか「怒ってるときの涼ちゃん、いつもと雰囲気違くてこっちの涼ちゃんも素敵!」とかそんなん。あの静かに怒る涼ちゃんをファンが「ブラック涼架」と呼び始めてそれがトレンド入りまでした。
でも、彼の本当にちょっとブラックな一面は、まだ俺たちしか知らないのだ。
※※※
4日間、お付き合いいただきありがとうございました!!
個人的にはいままでにあまりない感じの作品になりましたが楽しんでいただけましたでしょうか?(*ˊ˘ˋ*)♡
涼ちゃんにちょっとブラックな一面があってもいいな〜なんて……
明日はこの時期にぴったり(?)な短編を更新予定です〜🌸🌸🌸