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#極道
鷹槻れん

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#御曹司
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祖父に言われたからには仕方がない。
瑠菜はまず、レジの操作から月禎に教えることにした。
「現金はここ。カードとか電子マネーはこっちです。あと、レジ袋は有料なので、必要かどうか必ずお客さんに聞いてください。サイズが何種類かあるので、買われたものに合わせて――」
ひと通り説明してから、今度は商品の場所や品出しの仕方、納品された商品の検品方法を教えていく。
最初こそ、本社から来た人に自分が教えるなんて大丈夫だろうかと思っていたのだけれど。
(……あれ?)
月禎は、驚くほど覚えが早かった。
一度教えたことは、ほとんど聞き返さない。
だからといって、分からないまま勝手に進めることもなく、必要なことだけを的確に確認してくる。
品出しひとつにしても雑なところがない。
むしろハナザキ製パンの商品については、当然ながら瑠菜よりずっと詳しかった。
「このパン、来月から原材料が米粉に変わります」
「そうなんですか?」
「ああ。味はほとんど変わらないけど、食感がもっちりするはず」
「知らなかった……」
本社の人だから当然なのかもしれない。
それでも、なんだか悔しい。
「……久世さん、販売のお仕事したことあるんですか?」
「ない」
「ないんですか!?」
「だから教わりに来てます」
「いや、そうですけど……」
あまりにもあっさり返されて、瑠菜は月禎の顔をまじまじと見た。
「何?」
「もっと偉そうにされるかと思ってました」
「そうして欲しいならしますけど」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべられる。
「あっ」
しまった。
慌てて口元を押さえたけれど、もちろん遅い。
「今のまま素直でいてくださいっ」
「じゃあ仕事中はそうします」
「えっ!?」
「ホストって言われた仕返し、まだ済んでないんでプライベートでは容赦しません」
「そ、それは謝ったじゃないですか!」
「そうでしたっけ?」
「意地悪!」
「あとは思いの外使えるじゃんとか思ってたりもしてるでしょう?」
「……!」
答えられずにいると、月禎がくすりと笑った。
「顔に出てますよ、セ・ン・パ・イ♪」
「もう!」
やっぱりこの人、意地悪だ。
けれど、そんなやり取りをしている間にも、月禎の手は止まっていない。
話しながらきっちり商品を並べ終えた彼を見て、瑠菜はこっそり感心した。
(本社の人なんて、人に指示を出すばかりで自分では動かないと思ってたのも、謝ったほうがいいかな?)
そんなことを口にしたら、月禎の意地悪がますます加速しそうな気がして、瑠菜はぐっと言葉を飲み込んだ。
そんな矢先、店内に入店があったことを知らせる音楽が鳴る。
「いらっしゃいませー!」
反射的に声を出した瑠菜に、月禎も同様に声を上げる。
「瑠菜ちゃん。おはよう」
聞き慣れた声に振り返ると、小柄な老婦人がゆっくりとした足取りでレジ前に来た。
「清家さん。おはようございます」
ちらりと、瑠菜の横に立つ月禎を見て、「あら、新人さん?」と呟く清家に、月禎が目を丸くする。
「本社から研修で来てる久世さんです。ちょっとの間ですけど、よろしくお願いしますね」
その間隙を縫うように瑠菜が言って、清家にわからない角度で月禎を小突く。
「――よろしくお願いします」
「まぁ! ハンサムさんね! 目の保養になるわ!」
「清家さんっ」
瑠菜が笑うのを見て、清家がふふっと悪戯っぽく笑った。
「ところで、いつものあるかしら?」
「ありますよ。ちょうど食べ頃です」
瑠菜が視線を向けたのは、レジ脇のホットスナックコーナーだった。
清家が嬉しそうに肉まんをひとつ注文するのに対応しながら、瑠菜が「牛乳も?」と確認する。
「ええ」
答える清家に、瑠菜が「久世さん、あっちから【うまミルク】の二〇〇ミリパック、取ってきてもらえますか?」と指示を出す。『俺が?』という顔をする月禎に頷くと、すぐに動いてくれた。
でも何か納得していないようだった。
清家は牛乳をマイバッグにしまい、肉まんの包みを大事そうに抱えて、ゆっくりと店を出ていった。ガラス越しに、彼女がシニアカーに乗り込むのが見えた。それを見送っていたら、隣から月禎が尋ねてきた。
「いつもの、が肉まんってのは分かったんですけど、牛乳をわざわざ俺が取りに行く必要ありました?」
「え?」
「普通そう言うのは客本人が売り場から持ってきてレジに置くんじゃないですか?」
確かに月禎の言うことはもっともだ。でも――。
「都会のお店ではそうかも知れませんが、うちではさっきみたいなのも割と普通です。清家さんは足があまり良くありません。だから――」
瑠菜の言葉に、月禎が瞳を見開いた。
「彼女の足が不自由だからわざわざ?」
「ええ。幸い、うちはそれほど混み合うお店じゃありませんから」
瑠菜にとっては、わざわざ驚かれるようなことでもない。
「このお店では普通ですよ」
コメント
2件
都会のお店では無理かもしれない一人一人へのケア的な接客も、ここでなら、なんだろうなぁ。
第3話、読み終えました!月禎さん、覚え早すぎて逆に悔しくなっちゃう瑠菜さんの気持ち、めっちゃ分かります(笑)。でも「仕返しまだ済んでないんで」って意地悪な笑顔、良いですよね。あと、清家さんの足を気遣って牛乳を取りに行く場面、さりげない優しさが「この店では普通」って台詞にじんわりきました。田舎のコンビニだからこその空気感が好きです。次も楽しみにしてますね!