「樹さん、ありがとうございます。誘ってもらって本当に良かったんですか?」
「どういう意味?」
ハンドルを握りながら、樹さんが聞く。
「……あ、いや……あの……今日はクリスマス・イブだから……」
「だから?」
その淡々と聞く感じが、ちょっと怖い。
「たとえば、お友達とかとみんなでワイワイ、パーティーとかしないのかな? って」
樹さんは、少し笑った。
「柚葉、お前は俺がアメリカに住んでたこと意識し過ぎだろ。アメリカではみんなクリスマス・イブはパーティーするって思ってる?」
確かに、樹さんに対しては、いつもアメリカ式なイメージが先行してしまう。
「すみません。ちょっと思ってました……」
「面白いやつだな、お前」
「そ、そんなことないですよ。でも、今日はクリスマス・イブだし、本当に私と一緒で良かったのかなって」
「……」
樹さんは、前を向いたまま黙ってる。
ハンドルを握る手、細くて長い指がとっても素敵。
そのまま視線を少しあげて、樹さんの横顔を見たら、鼻から口元、あごへのラインが嘘みたいに綺麗だった。
瞳もキラキラして、存在自体が輝いていた。
私は前を向いて、ゆっくりと深呼吸した。
樹さんといられることは嬉しい。2人で楽しい時間を過ごしたいと思ってる。
だけど……この人は柊君じゃない。
わかってる、わかってる……
もういいかげん、ちゃんと柊君を忘れなきゃ。
頭では柊君とは元に戻れないって理解してるのに、なぜか心が勝手に疼く。
柊君……
今、あなたはどうしてるの?
どうか、どうか、寂しい夜を過ごさないで。
お願いだから笑ってて。
だって、柊君の笑顔は本当に優しくて、誰よりも素敵だったんだから――
「今、何を考えてた?」
その突然の質問に一瞬うろたえた。
「……い、いえ、別に」
「柊のこと……だよな」
図星だった。
樹さんがずっと黙るから、私、つい柊君のことを考えてしまった。
「……えっと……」
「さっきの答え」
「えっ?」
「今日の俺の相手がお前でいいのかっていう質問の答えだ」
「あ……はい……」
「今日は、柚葉に見せたいものがある」
「見せたいもの?」
「行けばわかる」
「……はい」
ぶっきらぼうな言い方は相変わらずだ。
「俺は今日、それを柚葉と見たかった」
「えっ?」
「クリスマス・イブなんか、今まで俺には関係ないイベントだった。1人でいても、寂しいなんて思ったこともなかった」
樹さん……
「でも、今日はお前と一緒にいたいって……思ってる」
そんな……本当に?
一緒にいたいって……
どういう風に受け取ればいいんだろう……
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