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七瀬🍏
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#もりょき
七瀬🍏
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静かに最後の音を溶かすと、深海はまるで祈りを聞き届けたかのように沈黙した。
巨大な影が、青白い光を宿したまま、まっすぐにこちらを見つめ返している。
そして、深海の底から響くような、重く、古い声が水を震わせた。
『…その歌…あの子の音色を宿している。』
息を呑んだ。間違いなく、目の前の古代魚が言葉を発していた。
その声は、海底に沈んだ神殿の石柱が語りかけるような、荘厳で、どこか哀しみに満ちていた。
『まるであの子が吹いているようだ。ずっと昔に、私にも聞かせてくれた…。』
ここだけ時間の流れが少しだけ遅くなっているようだった。慈しみにあふれた、穏やかで優しい声に困惑する。…あの子。あの子というのは涼ちゃんだろうか。
『人の子よ。なぜ逃げぬ。なぜ我を恐れぬ。なぜ、その目で私を見つめる。』
回ってないだろう頭で必死に言葉を探した。上手くまとまらないままに震える声で答えた。
「…涼ちゃんに、会いたいから、…伝えたいことがあるから。…涼ちゃんを…救いたいから。」
古代魚の目が、わずかに揺れた。その揺れは、深海の底に沈んだ記憶が波立つようだった。
『あの子は、海に縛られた者。神の悲しみを背負い、永劫の孤独を歩む者。』
古代魚はゆっくりと近づいてくる。その影に覆われ、深海の光が揺れた。
『人の子よ。このアトランティスは、何か”大切なもの”を置いていかねば、永久に閉じ込められる場所。
…それは、神が人に課した試練。かつてこの都は、神の祝福を受け、豊かさと力を手にした。だが人は欲に溺れ、血を求め、海を穢した。』
古代魚の目が細く光る。
『神は嘆き、怒り、この都を海の底へ沈めた。その時、神は言った。
“欲を捨て、大切なものを手放した者だけが、海に還ることを許される”と。
…ゆえに、ここに来る者は皆、何かを置いていかねばならぬ。思い出でも、願いでも、愛でも。それが、この都の掟。
…お前は、何を置いていく?』
「…僕は、涼架以外に、大切なものなんてない。」
『リョウカはそれを望んでいない。』
心臓がドクンと大きく跳ね上がったあと、今度は鉛を流し込まれたように重くなり、肋骨の奥でどろどろと不規則に脈打ち始める。脳の芯がじりじりと焼かれるような目眩がした。自分の存在そのものがひどく汚濁したもののように思えてきて、背筋に冷たい汗がどっと伝い落ちる。
『私は、お前を追い出すために現れた。海は、お前を受け入れぬ。』
噛みしめた唇から鉄臭い味がした。その痛みで夢でないことを思い知らされる。
『今ならばお前を元居た場所に帰してやろう。ここではまだ死んではいない。そういう場所なのだ。』
古代魚は、さらに深い声で告げた。
「っいやだ…。涼架ともう、離れるのは嫌だっ!」
『私の力で記憶も消せる。少し前に戻るだけだ。』
少し前に戻るだけ。幼いあの日のように、また貴方のことを忘れて、毎日ずぶ濡れになるように生きてくだけ。
確かにもう忘れてしまった方が楽だ。この名前のない胸の痛みも消えるんだから。
でも…。今はなにか、証拠もなにもないのに、確信めいた希望か呪いか愛かが、甘く頭を満たしていた。
「…いいや違う。涼架が言った。人は生まれながらには二人で一つだったと。その言葉は、記憶を消した後も俺の中に残っていた。俺の半身は、きっと涼架だ。俺は何度だってこの海に飛び込んで、その度に涼架に恋をする。だから、記憶を消したとしても、この思いは絶対に消えない。」
水の揺らぎさえ止まったような静寂の中で、体はぐらぐらと煮えたぎってしまいそうなほど熱かった。
わずかな沈黙が、長い長い時間のように感じた。ゆっくりとしなる鱗の体が深海の光を遮りながら、静かに見下ろしている。
『…私はあの子を、これ以上苦しませたくはない。』
その声は、深海の底に沈んだ祈りのように震えていた。
『私は、ずっと見てきた。あの子が、感情を押し殺し、自らを縛り、誰にも触れられぬまま、永い永い時を過ごしてきたのを。
あの子は、たくさんのものに縛られ続けて、自分の心を閉ざし続けてきた。神の血、人間への恐怖、父の想い、大切なものを置いていった人間たち、…そして、自らの汚れと、お前への想い。』
古代魚の声は、まるで深海そのものが泣いているようだった。
『…かつて、お前が幼かった頃、あの子は、確かに笑っていた。お前といる時だけ、海の底に光が差すように、穏やかで、温かかった。あの子は、お前を忘れさせた。お前を守るために。お前を苦しませぬために。そして…自分が苦しまぬために。』
喉が熱くなって苦しくなる。古代魚は、静かに目を閉じた。
『お前に、あの子が私に預けた記憶を、見せてやろう。本当は…二度と思い出さないように、泡にして消せと言われていたものだが…。』
ふわりと古代魚の身体から、小さな輝く泡が一粒浮かび、自分の胸へと吸い込まれた。
まるで世界ごと変わったかのように、ありありと景色が映し出された。また、海辺。幼い自分と、涼ちゃん。
幼い自分は、何も知らずに笑っていた。でも、もう触れられない今は、夕日に輝くあなたの笑顔が、探し求めていた宝石のように眩しかった。
『ねぇ、また明日も遊べるよね、涼ちゃん。』
あの頃の自分は、明日というものが永遠に続くものだと信じていた。涼ちゃんの表情が、ほんの一瞬だけ曇ったことにすら気づけなかった。
…涼ちゃん、あの時からもう、別れのことを分かってたんだね。その寂しさにようやく気づいた。
涼ちゃんが小さな自分の頬にそっと手を伸ばした。その指先は、微かに震えている。幼い自分は首を傾げて笑っていた。
『涼ちゃん? どうしたの?』
その時、はくはくと涼ちゃんが声にならない言葉をこぼした。その瞬間、鼻の奥がツンと痛み、視界がみるみるうちに遮られていった。視線を落としたが、堪えきれずに大きな雫がぽつりと、温かい砂浜にに落ちて弾けた。
ーー…ごめんね。君の隣にいられなくて。
涼ちゃんがそっと身を寄せ、幼い自分の額に、羽のように軽く触れる。それは口づけというより、切実な祈りの印だった。
『元貴。…どうか、幸せでいてね。』
幼い自分はぽかんとした顔で涼ちゃんを見つめていた。
『涼ちゃん? 泣いてるの?』
涼ちゃんは笑った。泣きそうな笑顔で。
『…元貴、君と笑えた日を…俺はずっと覚えてる。
…でもねぇ…ほんとはもっと…一緒にいたかったな…』
その言葉だけで、十分だった。冷たかった心が、温かく包まれているように、みるみる熱くなっていく。今すぐ抱きしめてしまいたいのに、触れられないことがひどくもどかしかった。
視界を塞ぐ涙の膜が、あたたかい陽だまりのように世界を潤していく。この愛があるならどこまでも生きていける。そう確信できるほどの幸福が、涙とともに胸の奥からぽろぽろと零れ落ちていた。
再び、古代魚の前へと景色が移り変わった。
涙が冷たい海に溶けていくたび、あの日二人で歩いた砂浜の温もりが、優しく、優しく、抱きしめてくれているようだった。
『…これがあの子の、宝物なのだ。あの子が、たった一度だけ、言うことができた本心。
…あの子はもう…十分に頑張った。誰よりも、深く、長く、戦ってきた。』
その声は、深海の祈りそのものだった。
『お前の歌は、あの子の心を揺らした。それは、海の底に沈んだ光を呼び覚ます音であった。
…君とあの子に名をつけるならば、それは運命だろう。君とあの子は、なにか目には見えない、特別なものでつながっているような気がしている。』
ほんとに?ほんとにそんな奇跡を信じていいの?あなたもまだ、別れたくないと思ってくれているの?でも…あの言葉が本当だとするなら、僕はまたあなたに会いに行ってもいいの…?
胸の奥がじんと熱くなる。痛いのに、温かい。そして、ふと、あの言葉が蘇った。
ーー『人ってね、もともと二人で一つだったんだよ。』
夕日の砂浜で聞いた、あの声。ずっと昔に、涼ちゃんがくれた最初の救い。
…あれは、きっと誰かの受け売りなんかじゃなかった。涼ちゃん自身の言葉だった。涼ちゃんが、僕に伝えた言葉だった。
だって僕は、あの言葉をどれだけ涼ちゃんが大切にしてるか、知ってるから。
『あの子の心を、どうか…解き放ってやってくれ。
…あの子は…きっとお前を待っている。』
コメント
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うわああああ読んだ読んだ読んだ!!!😭💖💖💖 もうね、古代魚の声が荘厳で優しすぎて泣いた……「あの子はもう十分に頑張った」って言葉がずしんと胸に響いたよ…。 しかも涼ちゃんが幼い元貴くんに「幸せでいてね」って祈るようにキスするところ、涙腺崩壊したんだが?!😭💔 「もう二度と思い出さないようにって預けた記憶」を見せるシーン、切なすぎて抱きしめたくなったよ…。 涼ちゃんの本心がやっと元貴くんに届いて、運命って呼べる奇跡が動き出した感じがたまらない…!!次の展開が待ちきれないよ〜!!😭💕✨