テラーノベル
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久しぶりに学校へ行くと決めた朝、いろは は震える手で制服に袖を通した。 兄たちは無理に止めなかった。けれど、誰 よりも不安そうな目で送り出してくれた。
「無理しなくていいからね」
「帰ってきたら、ぎゅーってしてやるから
な」
「何かあったら、すぐ電話して」
ーーそれでも、いろはは行きたかった。 自分の意志で「前を向けるか試したかっ た」。
けれど、学校は残酷だった。
教室に入った瞬間、空気が変わった。 数人だったはずのいじめが、クラス全体の 沈黙へと変わっていた。
「また来たよ」 「神経図太いよね」 「兄が 有名人だからって調子乗ってる」
直接の暴力はない。けれど、明らかな“排 除”がそこにあった。
・机が廊下に出されていた。
・ロッカーの中には腐った弁当が入れられ
ていた。
・黒板には、白いチョークで《病み女》と 大きく書かれていた。
誰も目を合わせない。 視線だけが、まるでナイフのように突き刺さる。
「一人がやってるんじゃない」
「みんなが“私を嫌ってるんだ」
そう思った瞬間、いろはの世界は灰色にな った。
トイレに逃げて、薬を口にしようとしたそ の瞬間、スマホが震えた。
– 【元貴: いろは、どうした。今どこ?】
– 【混斗 : なあ、何かあった? 心臓が変な
感じする】
【涼也:お願い、返事ちょうだい。怖い よ】
その通知を見たとき、涙が止まらなくなっ た。
「会いたい….. 助けて」
そう呟いた瞬間、扉の外から走る足音が聞 こえた。
「いろは!!!」
扉が激しく叩かれる音。
「開けて! お願い、開けてよ!」 –Ỉ斗の 声。
「大丈夫だよ、ここにいるよ、もう一人に しないから」 –涼也の優しい声。
「….. いろは、お前は悪くない。絶対に、違 う」–元貴の真っ直ぐな声。
ドアが静かに開いた。
ぼろぼろの制服、震える手、こぼれ落ちた 薬。
それを見た瞬間、元貴の目が、怒りに燃え た。
その夜、兄たちは動いた。 学校に連絡を入れ、校長にも直接会いに行 った。
それだけじゃないーーいじめに加担していた 生徒たちの親に、直接話しに行った。
「俺たちはただの兄じゃない。命を守る、 家族だ」
そう言って、どこまでも真剣な顔で、いろ はを守ろうとする姿があった。
いろはは、その夜夢を見た。
自分がいなくなった世界。 兄たちが泣いて、崩れ落ちて、叫んでいる 世界。
「いなくなったら、楽になる」って思って た。
でも–
「私が消えたら、この人たちが壊れてしま う」と気づいた。
「…… 生きたい」
それは、今までで一番、正直な願いだっ た。
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