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朝。
窓から光が差し込んでくる時間。 いつもなら、制服に袖を通していたはずの 時間。
でもーーいろはは、布団の中から動けなかっ た。
心臓が、ばくばくと暴れる。 汗がにじんで、息がうまくできない。
手が、震える。
頭の中には、教室の光景がフラッシュバッ クしていた。
机を廊下に出された日。
黒板に《死ね》と書かれた日。 誰かの笑い声。
ロッカーを開けた瞬間の腐敗臭。
シャーペンで足を刺されたときの、あの鋭 い痛み。
『ねえ、今日来ない方がいいよ』 そんな言葉を、笑いながら投げかけてきた 女子の顔。
全部が、頭の中で何度も何度も再生されて いく。
「怖い……」 声にならない声が、口から漏れた。
“学校”という言葉を聞くだけで、喉が詰ま る。
制服を見るだけで、吐き気がする。 リュックを手に取るだけで、涙が溢れてく る。
心が、壊れてしまいそうだった。
その日、いろははリビングにすら行けなか った。
布団にくるまって、呼吸だけを頼りに、必 死で耐えていた。
そんな中、ドアが静かにノックされた。
「…… いろは?」
元貴の声だった。
「無理しないで。今日は、家にいよう。こ こにいればいい」
優しい声。
だけど、いろはは答えられなかった。声が 出なかった。
代わりに、涙がこぼれた。
しばらくして、そっとドアが開き、元貴が 入ってきた。
「大丈夫。…….怖いのは、当たり前だよ」 「だって、すごく傷つけられたんだから。 心が、震えるのは当然だよ」
彼は静かに隣に座って、いろはの手を握っ た。 何も言わず、ただ寄り添ってくれた。
夕方、混斗と涼也も帰ってきて、3人で囲む ようにいろはの布団のそばに座った。
「俺、いろはが笑ってないの、悔しい」 「でもさ、いろはが無理して笑うなら……そ の笑顔はいらない」
混斗の不器用な言葉が、真っ直ぐだった。
「今は笑わなくていいよ。泣いても、黙っ てても、何してなくても…..」
「ここに、いろはがいるってことが、もう 嬉しいんだから」 涼也の言葉は、優しさでできていた。
そして元貴が言った。
「怖いって気持ちを、恥ずかしがらない で」
「むしろ、それを感じながら生きてる君 は、すごく強いよ」
その夜。
いろはは、やっと一言だけ呟いた。
「…… 怖いよ」
その声は、震えていた。涙も混じってい た。
けれど、その一言に、兄たちは心から安堵 した。
「うん。怖いね」 「でも、俺たちがいる」 「絶対に、離れないよ」
静かに、寄り添うように、彼らはいろはの 心を抱きしめてくれた