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「……行かないで、先生」
元貴の声は、かすれていて、けれど確かだった。
若井の袖を握る指先は弱々しくも、はっきりと意志を持っていた。
若井は立ち止まり、振り返る。
ベッドの上で少しだけ顔を上げた元貴と、真正面から目が合った。
「……俺、昨日……先生と藤澤先生が話してるの、見ました」
「……っ」
「全部じゃない。でも……なんとなく分かりました。2人の関係も、先生の苦しそうな顔も」
若井の喉が、きゅっと鳴った。
「それでも、俺……先生のこと、好きです」
静かな告白だった。
叫ぶでも、泣くでもなく。
けれどそのまっすぐな言葉が、若井の胸を締めつけた。
「……だから」
元貴の瞳が、真っ直ぐに貫く。
「……俺にも、藤澤先生とやったこと……してください」
一瞬、世界が止まったような錯覚を覚えた。
若井の目が見開かれる。
「……大森、お前……それ、どこまで——」
「……全部、見てました」
若井の足元がふらつく。
息が止まりそうだった。
「……若井先生のあんな顔……あんな声……俺、忘れられない。見たくなかったのに、見てしまって、でも……」
「……俺、ずっと……先生のことが欲しかった」
その言葉に、若井の理性は崩れかけた。
立っていられないほど、心が揺れた。
「……大森……」
たった一歩。
元貴が手を伸ばし、若井のネクタイを軽く引いた。
そして、不器用に唇を重ねる。
ぎこちなくて、下手くそで、でも熱を帯びていた。
その一瞬で、若井の胸にあった“理性”という名の壁が、音を立てて崩れる。
「っ……!」
気づけば、若井の手が元貴の腰を引き寄せていた。
ベッドに押し倒す。
ギシッ…と軋む音。
重なる身体、濡れる吐息。
唇が食い合い、舌が絡む。
「……んっ、せんせ……ふ、ぁ……っ」
元貴の喉から漏れる甘い声。
それが若井の理性を追い詰める。
「……大森……俺、止まれない……」
「……止まらなくて、いいです。俺……ずっと、先生のものになりたかった……」
「……っ」
舌が口内をなぞり、歯をかすめ、唾液が混ざり合う。
心がとろけていく。
欲望が、理性を飲み込んでいく。
けれど——
若井の唇が、ピタリと止まった。
「……俺……生徒に手を出すわけには、いかない」
顔を背け、震える手で元貴の肩に触れる。
「……こんなこと、しちゃいけなかった。ごめん……」
ゆっくりと立ち上がり、元貴から距離を取る。
「俺が……俺が、間違えた」
その言葉を最後に、若井は保健室を出ていった。
ドアの閉まる音がやけに響く。
ベッドに残された元貴は、天井を見つめたまま、唇を噛み締める。
(……高校生、だからか…)
けれど——
この気持ちはもう、 今さら引き返せない。
コメント
4件
見てましたが、フォローしてなかったのでしてきます! ほんとに大好きです!投稿待ってます!
うっ……😭 どうなっちゃうんだろ… いつもありがとうございます…!🥹✨ SOIRAさんの書くお話大好きです!!💞 続き楽しみに待ってます!🥰