コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第二の死体の身元は程なくして判明した。
河北潟干拓地に点在する酪農家の一軒、大野牧場の経営者だった。酪農家といってもこぢんまりと親族で営む程で、河北潟の直線道路脇に建つソフトクリーム販売所に牛乳を卸して細々と生計を立てていた。
大野 和恵おおのかずえ(48歳)
自宅は構えず牛舎の二階にある屋根裏部屋で寝泊まりをしていた。
二十年ほど前までは近所付き合いもあったが、ここ数年は地域の集まりにも顔を出していない。その大野和恵が大野牧場に近い蓮根栽培の泥水の中から溺死体で発見された。
「大野さんねぇ、大野さんのお宅にはお子さんが居たような」
「あら、そんな子どもいた?」
「居たわよぉ」
『そうですか。ええと、何歳くらいのお子さんですか?男の子、女の子、何かご存知ありませんか?』
「そうねぇ、どうだったかしら」
「覚えてる?」
「あぁ、男の子。何年前だったか、男の子と歩いていたのを見たわ」
「あぁ、そうそう」
「男の子、小学校には来て居なかったと思います。」
『ご主人は、いらっしゃいましたか?』
「見掛けた事はないわね」
「身体が弱くて入院したって聞いたわ」
『どこの病院に入院されたか、ご存知ないですか?』
「さぁ、そこまでは」
「ねぇ」
現在の大野牧場の家族構成は依然不明瞭。内灘町役場の住民基本台帳には大野和恵の名前だけが記載され、二十五年前に夫とされる男性が死亡していたが、近隣住民が証言する男児についての記録は無かった。
「どうだ」
「何がですか」
井浦は鼻息も荒く、内灘町役場で配布されている ”かほく潟マップ” なるものを源次郎と佐々木咲の目の前で広げて見せた。
テーブルには例のお揃いの三客のコーヒーカップから湯気が上がっている。
その可愛らしい色合いの地図には牛やひまわり畑のイラストが描かれ、その中には数日前の夜に源次郎が運転するタクシーで横付けしたソフトクリーム販売所があった。
「ここに、屍蝋化死体、溺死体っと」
井浦が黒い中太油性の黒いマジックペンで実に個性的な人の形を書き込んだ。
「何これ、ミミズ?」
「死体だよ、し・た・い!」
「ミミズじゃん」
「テメェ、視力検査行って来い!」
「まぁまぁ」
次に大野牧場、ソフトクリーム販売所に丸印を付けた。
「犯人は土地勘のある奴しかいねぇ、てか近所に住んでる奴だな」
「何でよ」
「普通、捨てるなら河北潟か海だろうよ」
「まぁ、近いですし、見つかりにくいですし」
「それがわざわざ蓮根畑、よそ者が来てザバザバやってたら目立つだろ」
「まぁ、確かに」
「捨てるならドボンと、河北潟か日本海だろ」
佐々木咲は腕を組んで難しい顔をしている。
「でも、自分の住んでる場所の近くに捨てる?気持ち悪くない?」
「うるせぇ、チワワ」
大野和恵の隣に沈んでいた屍蝋化した死体。
詳しい検死の結果、この二体に一つの共通点が見つかった。
爽やかな朝日が差し込むベッドに横たわる豊満な胸の恋人、源次郎はその背中に口付けをした。
「あ。」
ガチャガチャ
ガチャ!
「おい、出たぞ!」
革靴を玄関先で脱ぎ散らかし扉を閉めた井浦は何事もなかったかのようにズカズカと廊下からリビングに入ってきた。そしてベージュのトレンチコートを致している二人の背中目掛けて投げつけた。
「ちょ!」
「おう、出たか」
「出るものも出ませんよ」
「この変態ジジィ!」
「早くそのデケェ尻を片付けろ」
佐々木咲はソファの陰に隠れて源次郎のビッグTシャツを頭から被り、下着を手にバスルームへと小走りに向かった。源次郎は脱ぎ散らかした衣類をかき集めると黒のボクサーパンツを履き、チェストから黒いハーフパンツを取り出すと仕方ないなぁという顔で脚を通した。
「で、何が出たんですか?」
「これだよ、これ」
井浦は濃灰のスーツの内ポケットから何枚かの写真を取り出した。そこには屍蝋化死体の首、そして大野和恵の首が写っていた。
「井浦!あんたここを捜査本部と勘違いしてんじゃないの!?」
「何、寝言言ってるんだ」
「ここは私と源次郎の愛の巣なの!」
「のけ者かよ!」
「のけ者も何もあんたは部外者!こう毎日、毎日来るんじゃないわよ!」
そんな二人の遣り取りなどお構いなしの源次郎は、その一枚の写真をまじまじと見つめた。
「同じ、なんですね」
「そうだ」
「この死体には共通点があったんですね」
「犯行の凶器はコードだ」
「それも同じ製品ですか?」
「あぁ、二十年前に製造中止になった”こたつ”のコードだ」
「二十年前」
「もう売られてねぇ」
「それは何処から見つかったんですか」
「大野牧場の牛舎の物置からだ」
「それでは、屍蝋化死体と大野和恵を殺した犯人は同一人物」
「・・・の可能性は高いな」
佐々木咲はコーヒーを淹れる湯を沸かし始めた。
「井浦、あんた、何で警察の捜査本部に行かないのよ!」
「賑やかしいのは嫌いなんだよ」
「あんたが嫌われてるだけじゃないの!?」
「うるせぇ、チワワ!」
「まぁまぁ落ち着いて」