テラーノベル
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やがてやってきた、壱月宅への引越の日。
住んでいた家と新居との距離はたった二軒分なので、ちょこまかと荷物を運ぶこと三往復、あっという間に運び込みが終わる。
事情を知った姉も手伝いを申し出てくれたが、恋人、もとい婚約者の榎田さんとのデートという先約があったため丁寧にお断りした。
「本当に、これだけ?」
「うん、これだけ」
壱月が驚きつつも、最後の段ボールを持ってくれる。花斗はお気に入りの飛行機のおもちゃを、大切そうに胸に抱えている。
私も残りの細かなものを紙袋に詰め、部屋を出た。
もともと、着の身着のまま実家を追い出されたようなものだ。姉の家にあるものを使わせてもらっていたから、特に大きな買い物もしていない。
増えたものといえばほとんどが花斗のもので、それも服やおもちゃのみだ。
「ベッドとか、ソファとか、ないのか?」
タワーマンションのエレベーターの中で、壱月が言う。
「ないよ、もともと姉の部屋だから。家電は使っていいって言ってくれたし、大きなものはさっきの布団くらい」
すると、壱月が顔を曇らせる。
「部屋、フローリングだぞ?」
「平気だよ、今までもそうだったし」
すると壱月は難しい顔をして、黙り込んでしまった。
部屋につくと、壱月はさっそく荷物を空き部屋へと運んでくれた。もちろん、私も一緒におこなう。
その部屋は、広すぎるリビングの東側で、壱月の寝室の隣に位置している。ここが、今日から私と花斗の部屋になるのだ。
荷物をすべて部屋に運び終えると、私はリビングで花斗を呼んだ。
「花斗、そろそろお手伝いしてくれない?」
玄関から部屋へと荷物を運び込む間中、花斗はリビングの大窓に張り付いて空港を見ていたのだ。
「はーい」
花斗はすぐに返事して、こちらにタタッと駆けてくる。
「お、偉いな花斗」
壱月に頭を撫でられて、花斗の両頬にえくぼができた。
「ぼく、おもちゃしまうね」
「よろしくお願いします」
責任感たっぷりにそう言う花斗に、私もしゃんとして答える。
「じゃあ、俺は夕飯つくるよ」
「え!?」
花斗と同じようなテンションで宣言した壱月に、私は思わず目をしばたたいた。
「……俺の手料理じゃ、不満か?」
壱月はなんだかしゅんとしている。
「いや、そんなことはまったくないんだけど……」
語尾を濁して申し訳なさを伝えようとしたのに、壱月はそれでにこっと笑う。
「花斗、食べられないものはあるか?」
「ない! ぼく、なんでもたべれるよ」
「おお、偉いな」
壱月は花斗に笑みを向けると、なぜか嬉しそうなまま踵を返していった。
私は呆然としながら、キッチンへ向かう壱月の背中を目で追う。
「ほら、ママ、はやく!」
花斗に手を引かれ、慌てて部屋のほうへ向き直る。
「じゃあ、お部屋に行きましょう」
「はーい!」
花斗はスキップもどきをしながら、今日から私と花斗の部屋になったそこへ、ルンルンと吸い込まれていく。
私も片付けを頑張ろうと両頬をペチペチ叩いて気合いを入れた。
──こうして、私と花斗と、花斗の父親である壱月との同居生活が、幕を開けたのだった。
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コメント
1件
お引越し完了、おめでとうございます! ついに壱月さんとの同居生活スタートですね。花斗くんが「おもちゃしまうね」って責任感たっぷりなのが可愛すぎました。そして壱月さん、いきなり夕飯作る宣言! あの「不満か?」シュンとするのズルいですよ。3人の新しい生活、ほっこりしながら見守ってます🔥