テラーノベル
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引越荷物がおおよそ片付いた頃、窓の外を見ると、もう日が暮れはじめていた。
花斗は新しい部屋の中を、飛行機のおもちゃ片手に走り回っている。
すると、不意にノックの音が響いた。
「調子、どうだ?」
顔を覗かせたのは、エプロン姿の壱月だ。
「ありがとう、大方片付いたよ。あとは、食器とか。こういうのは、キッチンに置いてもいい?」
「もちろん、貸して。ついでに持っていくよ」
壱月は言いながら、私に手のひらをのばす。それを壱月に手渡そうとした、その時。
「あーー!」
と、花斗の大きな声が、それを遮った。
「パイロットのおにいちゃん!」
花斗は私の手から、自分のメラミン樹脂のお皿を奪い取る。そして、壱月の前に突き出した。
「ぼくのおかずは、ここです」
壱月はしゃがんで花斗に目線を合わせると、その飛行機の絵柄のお皿を受け取り花斗の髪をくしゃりと撫でた。
「はい、わかりました」
そう言う壱月の顔には、優しい笑顔が浮かんでいる。
それを見ていると、なぜか私の心臓がトクンと跳ねた。
「あ、花斗」
なぜ? と自問していると、壱月は再び部屋の中を走ろうとしていた花斗を呼び止める。
「俺は、い・つ・き。名前で呼んでくれたら、嬉しいぞ?」
「わかった。いつき!」
「おう、ばっちりだ」
壱月は少しだけ頬を赤く染め、先ほどよりも激しく花斗の髪を撫でた。
それで、私はなるほど、と納得した。
壱月はきっと、子供が好きなんだ。この同居の提案も、子供の相手をしたいからだろう。
――だったら、とことん面倒を見てもらおう。〝あなたの子〟なんだから。
「あ、そろそろ夕飯できるから、いいところでこっちに来いよ?」
私がそんな闘志を燃やしているとは知らない壱月は、私にも笑みを向け部屋を出ていこうとする。
「あ、待って。私ももう行く」
「わーい。ぼくも、ごはんー!」
私の言葉に花斗は一度ぴょんとその場で飛び上がり、壱月のほうへひょこひょこ走っていく。
その光景についため息をこぼしながら、私もふたりのあとに続いて部屋を出た。
*
「これ、全部壱月がつくったの?」
ダイニングテーブルの上に並べられたお皿を見て、私はつい声を上げた。
レタスとミニトマトが添えられた、たくさんの唐揚げ。それも、微妙に色が違うのが三種類ある。
それから、ほくほくなポテトサラダ。その隣のガラスの器に入っているのは、イカのマリネだろうか。
「そう。これはにんにく醤油、こっちは塩麹。これは赤唐辛子だから、大人向けだな」
壱月は得意気に指を差しながら唐揚げの説明をする。
「へえ……」
思わずテーブルの上に釘付けになっていると、隣で花斗がぴょんぴょんととび跳ねた。
「ママ、みえない!」
なるほど、今までローテーブルだったからあまり意識してこなったけれど、花斗にダイニングテーブルは高いらしい。
「花斗、ほら」
壱月が花斗を後ろからひょいっと両脇を抱えて持ち上げる。
すると、「ほぉーー」という花斗が歓声をあげた。
「からあげ! からあげ!」
「唐揚げ、好きか?」
壱月が後ろから花斗の顔を覗く。
「うん! こーのくらい、すき!」
花斗はめいっぱい両手を広げて、その大きさを表現した。
「ははっ、そうかそうか」
壱月は本当に嬉しそうに目尻を下げて、花斗を床に下ろした。
「今、取り分けてやるからな」
そう言って壱月はメラミンのお皿に唐揚げを乗せていく。
「ありがとう、壱月」
「ああ」
壱月が爽やかな笑顔を私にまで向けるから、胸がまたトクンと高鳴ってしまった。
コメント
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うわあああ第12話も尊すぎる〜!!😭💕 壱月くん、花斗くんに目線合わせて優しく撫でるとことか、もうパパすぎて胸キュンが止まらない…!「ぼくのおかずはここです」って花斗くんの主張も可愛すぎて悶えた🥺✨ そして唐揚げ3種類作ってくれる壱月くん、完璧すぎない?!「あなたの子なんだから」って覚悟決めたママの決意にもニヤニヤが止まらん…次回も楽しみすぎる!!🌸