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漆黒の雲が渦巻き、太陽の光さえ遮断するような暗雲に包まれていた天空に、突然、雷光のように鋭い光の亀裂が走った。それはまるで空が開眼するかのようにゆっくりと開いていき、周囲の闇を塗り潰すかのような眩い輝きを放った。人々は畏怖の念に駆られ、言葉を失い、ただその神々しい光を見つめていた。中には恐怖で震え、逃げ惑う者もいた。

光の中にぼんやりと影が浮かび上がった。その姿は徐々に輪郭を現し、人の形をしていることが確認できた。途端、周囲の空気が一変する。全身を細かい針で刺されるような痛みが駆け巡り、髪の毛が逆立つ。息を吸い込もうとするも、肺が締め付けられるような圧迫感があり、息ができない。まるで何か巨大な力が自分を押し潰そうとしているかのようだった。


人影は空中をゆっくりと降りてくる。


全身を絹のような滑らかな白のローブに包み、その背には、白銀に輝く六枚の大きな羽が大きく広がっていた。性別の分からない美しい顔が三つ、こちら側を向いていた。おそらくは後頭部にもう一つあるのだろうと想像される。その顔は、まるで彫刻のように整っており、透き通るような白い肌に、金色の髪が風に揺れていた。


「アダム。あいつで間違いないな」


俺は相棒に確認をとる。


『解析結果、個体名【熾天使セラフ】で間違いありません』


頭の中に流れてくる相棒の声。

優し気なその声が、アレこそが最後の敵だと教えてくれる。

現世に顕現した天使の雄大にして荘厳な姿は、限りなく神の存在に近いとされる熾天使の名に相応しかった。


「アベルさん……本当に、あんなのと一人で戦うつもりなんですか……。あれはこれまでのとはレベルが違いますよ!でも、みんなで力を合わせれば何とか――」


「大丈夫」


俺はカインの言葉を遮る。


「お前も分かっているだろう?アレは俺じゃないと駄目なんだ」


「俺たちだって盾くらいにはなれます!」


「みんなここに来るまでに十分に力になってくれた。それだけで十分だ」


「で、でも――」


「俺にはこれがあるから大丈夫。それに、元から死ぬつもりなんてこれっぽっちもないしな。――じゃあ、行ってくるよ」


納得出来ないと食い下がるカインに、俺は軽く微笑んで右手のブレスレットを見せた。


「――っ!……必ず……絶対に勝ってください」


「当然」


俺はそう応えて、一人、天使の下へと駆け出した。




熾天使セラフのエネルギー上昇を感知。敵、戦闘モードに切り替わった模様です』


Make ready for input入力準備


『ギアコード入力準備完了しました』


CodeコードApocalypseアポカリプス》」


『Code《Apocalypse》発動します』


全身の魔ギアが起動する。

俺の魔力が魔ギアによって変質、変換され、魔力の核融合ともいえるほどの爆発的に発生したエネルギーが溢れ出し周囲を揺るがす。まるで漆黒の闇のような、禍々しい黒いオーラが俺を包み込み、全身を覆っていく。そして――


右手には黒剣。

左腕には漆黒の大盾。

そして背中に二枚の黒翼が現れる。


熾天使が俺を認識し、美しいその顔に憎悪の表情を浮かべた。


大地を力強く踏みしめ、高々と宙に舞い上がる。凄まじい速度で空を駆け抜け、熾天使へと迫っていく。黒刀を強く握りしめ、全身に力をみなぎらせる。

まるで天使に立ち向かう悪魔堕天使のように。


これが最後の戦い。

恐怖はすでに無い。

絶望は繰り返し経験してきた。

俺が求めるのは勝利と人類の未来。


そして――


これは欠陥品と呼ばれた俺が、いつしか英雄と呼ばれ、この世界の人類の未来を切り開き、もう一つの世界の願いを叶える物語。

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