「…チョモ、これからどうする?」
砂鉄の運転で、行く宛てもなく車を走らせる。
桐山さんが亡くなったと知ったのは、彼と別れて翌日の事だった。
「……ねぇ、帰ろ、」
自暴自棄になって、別れ際にあんな事を言ってしまった。
「身体でも売ったらどうです、簡単に稼げるって言うじゃないですか、」
なんて、
僕も大概だな。
「帰るっつったって、何処に?」
「島だよ、島、」
車窓から、賑やかな夜の街を眺めた。
僕の言葉にうんうんと頷いて、
「島に帰って、凛子に、御参りしに行かなきゃね、」
砂鉄はこうやって、いつも僕の意見を肯定してくれる。特に、僕が余命宣告されてからは、どこか腫れ物を触るかのような反応を見せる。
昔みたいにくだらん話はできないものかね、
「よしっ!そうと決まれば、空港へ急ごう、
福岡空港まで行って、そこから、電車、駅から島までは船でいいよね?」
完璧なプランまでサッと提示してくれるから何も考えたくない日にはありがたい。
「うん、そうだね、そうしよう、」
最近つくづく思う、あぁ、やっぱりもうすぐ死ぬんだって、呼吸が浅くなって、日に日に痛みが増して、白髪や抜け毛が多くなって、食欲もあまり無いし、
もうすぐそこだな、と、
「ふぃー、着いたね、」
島に着いたのは2日後の朝だった。
島の人口も僕らが住んでいた頃よりだいぶ減っていて、知らない顔が、大半を占めていた。
砂鉄と一緒に、僕の実家へ急ぐ。砂鉄と僕の両親は、早くに他界した。都合よく病気で。これも又、親の戦略なのか?と思ってしまう。
家の鍵を開け、家に入る。何年も人が住んでいなかったからか、ホコリ臭いし、カビ臭い。
「うわ……なんか…やな匂い…取り敢えず、窓開けよっか、」
そう言って、砂鉄は手荷物を床に置き、テレビ台の近くの大きい窓の鍵を開け、窓を引いた。
ふわっとした柔らかい風が部屋を漂う。少しだけ、あの頃を思い出した。
あの頃の…ままの……記憶?
「はっ…くしゅんッ!うぃ、」
「あー!もおぉ!サーテーツー!」
「何やってんだよぉ、もー!」
「火消えちゃったじゃん!どーすんだよー、」
「ごめん!ごめん!わざとじゃないって!」
「チョモ!もっかいやって!一生のお願い!」
「チョモがやって?お願い!」
「…わかったよ…」
「俺のこと好きなんじゃないの?」
「うん。そうだよ?」
凛子…?
「協力して欲しいッことが…あるんだ、」
「一生のお願いってッやつッ…」
凛子…、また会いたい。会って、あの時の話の続きを聞きたい。今度は、ちゃんと、凛子の口から。
でも、もう凛子は、
居ない。
ズキッン
「く”あッ…う”ぅ、はッ…はッ!はッ…さ、てつぅッ”… 」
ホコリ被った床に倒れ込む。横腹を中心に、身体中に激痛が走った。痛すぎて胸を反らせる。
僕が倒れた音に気づいたのか、砂鉄がリビングから慌ててこちらに来る音が床の振動で伝わって来る。
「チョモ! 」
ガサゴソと、僕のズボンのポケットを物色して、水をすかさず手に取り、僕の体を起こした。
まるで親の介護をする息子じゃないか。
ゴクゴクと喉を鳴らしながら、薬を胃に通した。
浅く息をして、意識を掴んだ。砂鉄は相変わらず不安そうな顔で、僕の顔を覗く。
「ごめん!気付けなかった…少し落ち着いた?一旦椅子に座ろう、」
思考が回らない僕に、1つずつ指示を出してくれるから助かっている。
これまたホコリが積もりに積もった椅子に腰をかける。まだ僕の頭の中には、あの頃の記憶が鮮明に蘇ってきていた。
コメント
1件
ッ…