テラーノベル
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「……あるよ。」
「でも、まだ言えない。」
そう言って笑った悠真は、それ以上何も話そうとしなかった。
俺も、無理に聞くことはできなかった。
聞けば、何かが壊れてしまう気がしたから。
◇
数日後。
体調が落ち着いていた俺は、担当医から短時間の散歩を許可された。
病院の中庭へ行くと、悠真はベンチに座って空を眺めていた。
「待たせた?」
「ううん。」
俺に気づくと、いつものように笑う。
「今日は空、きれいだね。」
見上げると、雲ひとつない青空が広がっていた。
「こんな日に学校行きたかったな。」
俺がぽつりとこぼす。
「体育は見学でもいいからさ。」
「みんなと教室で笑って、お昼食べて……。」
「そんな普通のことがしたかった。」
悠真は黙って聞いていた。
「修学旅行も、文化祭も。」
「制服着て卒業式にも出たかった。」
「……全部、もう無理なのかな。」
声が震える。
気づけば、視界が滲んでいた。
「湊。」
悠真が静かに俺の名前を呼ぶ。
「俺もね。」
その一言に顔を上げる。
「やりたいこと、いっぱいある。」
「行きたい場所も。」
「食べたいものも。」
「会いたい人も。」
少し笑って続ける。
「だから、一個ずつ叶えよう。」
「全部は無理でも。」
「一個ずつなら、きっとできる。」
そう言って、ポケットから小さなノートを取り出した。
表紙には、丸い文字で書かれている。
『やりたいことリスト』
「見て。」
一ページ目には、
『花火を見る』
二ページ目には、
『海へ行く』
三ページ目には、
『友達とアイスを食べる』
四ページ目には、
『大切な人に気持ちを伝える』
そこまで読んだ俺は、思わず手を止めた。
「……大切な人?」
「うん。」
悠真は少し照れくさそうに笑う。
「いつかね。」
その”いつか”が、ひどく遠く感じた。
「湊も書いてみなよ。」
ノートを渡される。
しばらく考えてから、俺は震える手で一つだけ書いた。
『生きたい』
たった四文字。
それだけなのに、涙がこぼれそうになった。
悠真はその文字を見つめ、何も言わなかった。
ただ、優しく微笑んでくれた。
「その願い。」
「一緒に叶えよう。」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなる。
――生きたい。
今まで心の奥に閉じ込めていた願いを、初めて誰かに見せた。
その日の帰り道。
悠真は診察があると言って、一人で外来棟へ向かった。
「またあとでね。」
「うん。」
手を振って別れる。
その後ろ姿が見えなくなるまで、俺は立ち尽くしていた。
その頃、診察室では。
医師が静かにカルテを閉じる。
「……悠真くん。」
「はい。」
「検査結果ですが、病状は進行しています。」
「……。」
「これ以上、隠し続けるのは難しいでしょう。」
悠真は目を閉じ、小さく息を吐いた。
「……分かっています。」
「でも、もう少しだけ。」
「あと少しだけ、湊には笑っていてほしいんです。」
その願いが叶う時間は、もう残りわずかだった。
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コメント
1件
「生きたい」ってたった四文字なのに、湊くんがようやく口にできた願いだと思うと、胸がぎゅっとなりました。悠真の『やりたいことリスト』、あれが彼の優しさの形なんだろうな。でもラストの診察シーンで、彼が自分の病状を隠してまで湊くんを支えようとしてるのが切なすぎる……。この先、二人に残された時間が気になります。