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「湊。」
病室へ戻る途中、悠真が立ち止まった。
「ん?」
「今日さ。」
「……ありがとう。」
突然のお礼に、俺は首をかしげる。
「何が?」
「秘密を知っても、隣にいてくれたから。」
その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられた。
「俺こそ。」
「悠真がいてくれたから、”生きたい”って思えた。」
悠真は少し照れくさそうに笑う。
「それならよかった。」
その笑顔を見ているだけで、不思議と心が落ち着いた。
◇
それから数日。
俺たちは毎日のように一緒に過ごした。
朝は病室で他愛もない話をして。
昼は中庭で風に当たり。
体調がいい日は屋上へ行って空を眺めた。
「見て!」
「雲、犬みたい!」
「……どこが。」
「ほら!」
「いや、魚。」
「犬!」
「魚。」
「犬!」
くだらない言い合いなのに、笑いが止まらなかった。
こんな毎日が、ずっと続けばいいのに。
そう思ってしまう。
◇
夕方。
屋上のベンチに並んで座る。
空はオレンジ色に染まり始めていた。
「ねぇ、湊。」
「ん?」
「もしさ。」
悠真は空を見つめたまま言う。
「俺たちが病気じゃなかったら、何してたと思う?」
少し考える。
「学校帰りにコンビニ寄って。」
「アイス買って。」
「くだらないことで笑ってた。」
「うん。」
悠真も笑う。
「きっとそうだね。」
沈黙が流れる。
風が優しく吹き抜ける。
「……湊。」
「なに?」
「俺。」
悠真の声が震えていた。
「湊と出会えて、本当によかった。」
胸が高鳴る。
「俺も。」
自然と答えていた。
「最初はさ。」
「誰とも関わらないって決めてた。」
「でも。」
悠真を見る。
夕日に照らされた横顔は、とてもきれいだった。
「悠真に会って。」
「毎日が楽しみになった。」
「明日が来るのが、怖くなくなった。」
悠真は黙って聞いていた。
「だから。」
心臓がうるさいくらい鳴っている。
今なら言える。
そう思った。
「……好き。」
小さな声だった。
風がさらってしまいそうなほど、小さな声。
それでも、悠真にはちゃんと届いていた。
「……え?」
目を丸くする悠真。
俺は恥ずかしくなって目をそらす。
「忘れて。」
「今のなし。」
立ち上がろうとした、その瞬間。
「待って。」
袖をそっとつかまれる。
振り向くと、悠真は泣いていた。
「俺も。」
涙をこぼしながら笑う。
「俺も、湊が好き。」
その一言で、張りつめていたものが一気にほどけた。
涙が止まらない。
嬉しいのか、悲しいのか、自分でも分からなかった。
ただ一つだけ分かったことがある。
この恋は、本物だった。
二人はぎこちなく笑い合い、小さく手をつないだ。
指先から伝わるぬくもりが、何よりも愛おしい。
だけど、その幸せは長くは続かない。
翌朝。
湊の病室に、担当医が静かな表情で入ってきた。
「湊くん。」
その表情を見た瞬間、胸がざわつく。
医師は深く息を吸い、ゆっくりと口を開いた。
「検査の結果が出ました。」
その一言が、二人の運命を大きく動かすことになるとは、まだ誰も知らなかった。
コメント
1件
よかった、ついに二人の気持ちが通じ合ったんですね……! 屋上で湊くんが「好き」って言ったシーン、すごく緊張が伝わってきて、悠真くんの「俺も」で涙が出そうになりました。ここまで積み重ねてきた時間が報われた感じがして、本当に嬉しかったです。でも医師の登場で一気に空気が変わって……続きが気になりすぎます。最後までずっと応援してます!