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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第三十九話 次に会ったら
「次に会ったら」
写真の裏に残っていた、その言葉。
彼女は何度も読み返した。
続きは破れている。
だから、何が書かれていたのかは分からない。
けれど、その一文だけでも
気になって仕方がなかった。
誰かが、誰かに向けて書いた言葉。
それも、次に会うことを前提にしている。
彼女は写真をアルバムに戻した。
そのとき、ふと思った。
――次に会ったら、何をするつもりだったんだろう。
その答えは、まだ見つからない。
夜になり、いつものようにサイトを開く。
『今日、変なもの見つけた』
『私も』
『何?』
彼女は写真の裏にあった言葉を送った。
『「次に会ったら」って書いてあった』
少しして、返信が来る。
『……俺の紙とつながってるかもしれない』
『どういうこと?』
『さっき、紙をもう一回見た』
写真が送られてくる。
紙の端。
薄く残った文字。
『「君を忘れても」っていうのは前に見せたよね』
『うん』
『その下に、もう一文字だけ見つかった』
『何?』
『「待」』
彼女は息を止めた。
『待つ?』
『たぶん』
二人はそれぞれの手元にあるものを見比べた。
彼女の写真には、
「次に会ったら」
彼の紙には、
「君を忘れても……待……」
どちらも途中で途切れている。
それだけなのに、何か一つの文章だったように思えた。
『もしかして』
彼女が打つ。
『うん?』
『誰かが、会う約束をしてたのかな』
『俺もそう思った』
『じゃあ、約束の日に会えなかったとか?』
送ったあと、彼女は少し後悔した。
まだ何も分かっていないのに、
勝手に想像してしまった。
『ごめん、変なこと言った』
『いや』
彼からの返事は、意外にもすぐだった。
『俺も、そう考えてた』
彼は机の上の写真を見る。
あの日。
誰かを待っていた。
そして、誰かが来た。
そこまでは少しずつ思い出せるようになってきた。
でも、その後だけが抜け落ちている。
『ただ』
彼が続ける。
『俺が覚えてるのは、待ってたことだけじゃない』
『何?』
『帰るときに、誰かに何か言われた』
『何て?』
『……覚えてない』
また、そこだけが霧の中に隠れる。
彼女はしばらく考えてから、
『じゃあ、会ったら思い出せるかもね』
と送った。
『うん』
『そのときまで、写真は大事に持っておく』
『俺も』
それから話題は、過去から離れた。
最近ハマっているもの。
学校の出来事。
くだらない話。
二人が笑うたび、過去の重さが少しだけ薄くなる。
その時間が、彼女は好きだった。
昔の記憶がどうだったとしても。
今こうして話している相手との時間まで、
過去に左右される必要はない。
そんなことを考えながら、
彼女はスマートフォンを置いた。
一方、彼は写真を片づけようとしていた。
三枚の写真。
一枚の紙。
どれも、
もう以前のように「知らないもの」には見えない。
けれど、最後に一枚の写真を裏返したとき。
今まで見えていなかった、小さな文字が目に入った。
写真の端に、誰かが書いたような一言。
「ちゃんと伝える」
彼は、その文字を見つめた。
何を伝えるつもりだったのか。
誰に伝えるつもりだったのか。
その答えだけは、まだ記憶の奥に残ったままだった。
コメント
1件
うわあ、このエピソード、伏線がじわじわと繋がっていく感じがすごく好きです。写真の「次に会ったら」と紙の「君を忘れても……待……」が、まるでパズルみたいに組み合わさっていく瞬間、背筋が伸びました。そして最後の「ちゃんと伝える」――これ、誰が誰に何を伝えたかったんだろう。時間を超えて交錯する記憶のピースが、まだ霧の中にある感じがたまらないです。続きが気になります。