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廊下の端の壁は
曲線を描いて曲がっていた
四隅の端の塔の一つに
一つの牢屋があった
壁の燈台には
たいまつが燃えていて
みかげ石の塊を揺らめく
赤い色に染めていた
その昔
厳めしい房に投獄された
囚人の苦しみが今にも
聞こえて来そうだ
今は一人の男が
天井に吊るされた手かせをつけられ
全裸で汗まみれになって立っている
「ハァ・・・・ハァ・・・ 」
男の前には
黒のラバースーツに身を包んだ女が一人
鞭を小脇に挟んで男を冷ややかに
見つめていた
「しっかりしなさい
まだお仕置きは始まったばかりよ 」
女はそう言うと
全裸の男の周りをゆっくり歩き
次々に言葉を浴びせた
「まったく・・・・
こんないやらしいお前が会社では
何十人と部下を持つ大企業の社長
なんてねぇ・・・ 」
宝石があしらわれた
羽のベネチアンマスクが目を覆っているが
その中に潜んでいる
女の瞳はキラキラ輝いている
「ああ・・・・
女王さま・・・
お許しください・・・ 」
男は恍惚として
女を見つめていた
黒のラバースーツは
サランラップのように銅を包み
華奢なくびれを際立たせていたが
形の良い乳房は丸出しで
男は赤い乳首から
目が離せなかった
全裸で天を仰ぐほど起立
した男のモノには根元が
紐で縛られている
男は全身震えている
「会社の部下に
お前の恥ずかしい所を見てもらおうか?」
「ああ・・・・
どうかそれだけはお許しください
女王様 」
縛られた手かせがガチャガチャ
言っている
男は今にも失神しそうだ
「手かせの音を立てるんじゃないよ」
パシンッ
「ひぃぃぃぃっ! 」
薄明りの牢屋に鞭の音が鳴り響いた
男の背中に鞭の
痕がくっきりついた
「世の外で成り上がっている
お前でもここでは通用しない
お前は私の下僕だ
私が求めているのは絶対の服従 !」
パシンッ!
「ああっ!ああっ!
なんでもしますから
女王様!!どうか御慈悲を!!」
「イキたいのかい? 」
「ひ・・・
紐をといてくださいぃ・・」
男が呻き
ショックで目もうつろになっている
「お前は躾けがなっていない
また以前みたいに
私の許可なく漏らすのかい? 」
手間暇かけた鞭打ち
気を失いかけたが卒倒の縁まで行くたび
快感に引き戻され
さらなる堕落に直面する
男は限界に来ていた
口の端から唾液の泡を
垂れ流している
女王がもう一打ちしようと
鞭を振りかざした時
牢屋の前に一人の
男が立っていた
「お取込み中
申し訳ありません 」
女は振り向き
片方の眉毛を釣り上げた
いかにも邪魔をされて憤慨している
「仕事中よ!!! 」
女はベネチアンマスクを
ほうり投げ
つかつかと男の前にやってきた
「マダムヨーコが急用で
至急社長室まで
お越し頂きたいとの事で・・・ 」
それ以上は語るまいと
男はじっと頭を垂れた
女は両眉をつりあげ
激しい視線を
男にむけていたが
やがてため息をついた
「・・・わかった
5分後に行くと伝えて 」
「かしこまりました
セリナ様 」
召使が闇に去った後
セリナは天井から吊るされている
男の背後に立った
「さぁ イキなさい 」
そうけだるく言うと
肛門に指を挿しこんで
天を仰いでいる起立した
ぺニスの根本の紐を
スルリとほどいた
パシンッ
「あああああっっ!!」
最後の一打ちで
男は果てた
「いったい何の用?
あの客はまだ満足していないハズよ! 」
社長室のドアが勢いよく開かれ
セリナが入ってきた
あきらかに仕事を
邪魔されて憤慨している
ヨーコは手を顎の前に組み
デスクからセリナを
みつめて言った
「・・・そのようね
島田様はもう1泊してあなたと過ごしたいそうよ
さらなるお戯れを期待されていらっしゃるわ
もっとも今までの貴方の拷問も
大変満足されておられるけど 」
「変態じじぃ・・・・ 」
最初は日本語だったが
セリナは途中からウクライナ語で
なにやらつぶやいた
意味はわからなくても
とても汚い言葉な事だけはわかった
「もしかして
途中で止めさせたのもそれが
目的だったの? 」
「まさか! 」
信じられないと言わんばかりに
ヨーコは腕を広げた
「じゃあ 何なの? 」
「急な仕事が入ったの!
とても良い企画よ! 」
デスクの横のカウンターにゆっくり移動し
コーヒーメーカーから二人分をカップに注いだ
「この週末にあの大島様が
従弟殿をつれてやってくるわ
成人のお祝いにその従妹殿の
筆おろしを依頼されたのよ 」
「私に女王様から
聖母マリアになれって言うの? 」
ヨーコはセリナの嫌味にも
平然としている
「大島漁業はこの夏東証一部へ上場予定の
急成長している会社よ
2年前に大島社長が他界されてから
今は弟さんが専務兼社長を
されているけどいずれは大島社長の息子さんが後を継ぐはず・・・
大島様は会社の慰安旅行などにも
うちの子を同席して下さるほどの
お得意様よ
ここらへんで恩を売っておきたいの
大島様の従妹殿・・・
つまり跡取り息子も
この楊貴館と繋がりを持っていれば
後の商売にも大いに役立つわ 」
ヨーコは嬉しそうに言った
「だけど
今は女王の役が気にいってるの
日本のゲイシャのように
童貞に辛抱強く
性愛術の指南をするなんて
聞くだけで疲れそう!
まっぴらごめんよ! 」
セリナは手首をヒラヒラさせて
テーブルに
雄々しく盛られている
フルーツ盛りに手を伸ばし
マスカットを一房平らげた
マスカットの汁のついた
指を舐めながら言う
「ユカにやらせてみたら?
今の所健気に客の相手をしてるわ
評判もそこそこいいみたいよ
もちろん私が指導したのだから
当たり前だけど」
ヨーコが思案気に
セリナを見つめた
「ユカ・・・
ねぇ・・・
勤まるかしら 」
そう言いながらも
ヨーコの目はキラリと輝いた
きっと何か悪巧みを
思いついたのだろう
策略家といえば
ヨーコの右に出る人物は
今までお見かけした事がない
おそらくこの先も
きっとないだろう
あの反吐がでる慎二ですら
このヨーコの言いなりだ
腹ペコなのでオレンジにも手を
出しながらセリナは思った
「ユカは大人しくて
男に従順よ
それはあの子の魅力の
一つではあるわね
そうね・・・・
あれこれ上から教える
経験豊富な女より
お互い経験が浅いもの同士
疑似恋愛させるほうが・・・
いや・・・
むしろそっちの方が
燃え上がる? 」
ヨーコは口に人差し指を当て
ブツブツ何やらつぶやいている
狡猾な目付きになる
「 決まりね 」
二つ目のオレンジの皮を剥きながら
セリナが言った
「おなかが空いているなら
キッチンへ行ってシェフに
何か食べさせてもらいなさい
午後からもハードプレイを
要求されている
お客様がお見えになるわ
島田様とブッキングしないように
スケジュールを調整してあげる 」
ヨーコは微動だにせず
巻き毛を肩に垂らし
手を顎の前に組んでセリナに言った
「どうせなら
まとめて面倒を見るわ
その方が体力的にも楽よ! 」
「なんと たくましいわね 」
二人は目を見合わせた
ヨーコはにやりと笑った
「それから
このボディスーツ体に合ってないわ!
作り直させて!
ラバーの匂いもキツイ! 」
「すぐ 作らせるわ
マイ、スイート 」
ヨーコは愛想良く言った
フンっと鼻を鳴らして
セリナは踵を返し出て行った
残された部屋に一人
ヨーコはタバコに火を付けた
大きく煙を吸い
天井に向かってふーっと吐いた
頭の血管が一時的に
引き締まるのがわかる
軽い酸欠がおこる
何とも気持ちいい・・・・
「ユカをぶつけることが・・・
果して吉と出るか
凶と出るか・・・ 」
ヨーコはつぶやいた
:*゚..:。:.
.:*゚:.。
ずいぶん
遠くまできたものだ
大島信一郎は手すりに
寄りかかって揺れながら
遠ざかっていく
陸を眺め感動していた
出港してから3日間
船酔いに
苦しめられていることは
みとめたくないので
頭から締め出し
激しく上下に揺れている
床を眺めながら
吸って吐いてを繰り返し
なんとか船と同じ
呼吸を合わせることで
船酔いから免れようとしていた
今にもひっくり返りそうな
胃袋とは裏腹に
高まる鼓動と
期待を抑えられずには
いられなかった
水産海洋高校を卒業し
海技士免許を取得して
初めての大型漁船
「海盛丸」
での航海だ
遠洋漁業は
家族経営がほとんどだ
東北地方では
まれに名をはせている
大島漁業の跡取息子
信一郎の祖父の祖父
そのまた祖父も漁師だ
代々漁師の家系の
身内で成り立っている
信一郎は
小さな頃から
父親に連れられて
漁船に乗っていた
いわば信一郎にとって
漁船に乗ることは
普通の子供が
メリーゴーランドに
心浮かせるのと同じぐらいの
興奮があった
一流の漁師の中で
育った信一郎は
いくら水産海洋高校で
高い教育を受けていても
一人前になるには
漁業技術や仕事の
要領を習得しないと
ならないなどからかわれたり
いつまでも
ひよっこ扱いされるのも
彼には気に入らなかった
今回の航海で
フィリピン沖の
シラスの大群に
お目見えするまでは帰れない
およそ3ヶ月船上で過ごす
もっぱらの楽しみは
無線と持ってきた
ラジカセから流れる
ユーロビートだけだった
「吐いてるのか?ぼうず」
三助じいさんが
何やら大きな
木箱をウンウン
引きずって
信一郎のそばにやってきた
「もう
すっかりよくなったよ!」
ムキになって答えた
ボロを着た禿げ頭の
小柄なこの老人は年齢不定だ
船乗りの間ではもう
100歳は超えてる
と噂するものもいた
体は曲がり
肌は日に焼け
硬くなっていても
眼光はするどく
今だに船乗り達には
威厳があり尊敬されていた
「匂ってきた 」
爺さんはそう言って
鼻をひくひくさせると
自分の背丈はある
木箱の蓋を開け
中身をひっくり返すのを
信一郎はじっと見ていた
その途端あたりに
ものすごい腐敗臭が襲いかかってきた
収まった筈の船酔いが
一気にぶり返して吐きそうになり
思わず鼻と口を手で覆う
「何の匂い?」
ものすごい匂いにつられ
ハッチから出向してしまえば
目的地まで暇な船員達が
ぞろぞろ上がってきた
爺さんを見物するつもりだ
「うえっ!」
船員達が青ざめた
顔をそむけたのも無理はない
木箱に入っていたのは
豚の死骸だった
丸々一頭しかも腐っている
太陽の光に照らされて豚に
白い点々模様があった
しかもその白い模様は動いている
豚の死骸にはウジがわいていた
三助じいさんの指導のもと
二人の船員がイヤイヤ手を貸し
手すり越しに豚を海に放った
他にやることが無い船員も
手すりに並び
ロープで縛られた
豚が船と波の間に引きずられ
上下するのを見守った
「サメだ!!」
誰かが叫んだ
「ああ」
三助爺さんが相槌を打つ
「うまいんじゃ 」
茶色いフサフサの顎鬚を
生やした
信一郎の叔父にあたる船長が
3メートルはある
銛を担いでやってきて叫んだ
「今夜は
サメの厚切りステーキだ!」
他の船員が指をさして
信一郎に教えてくれた
船体の影に
しなやかな影が二つある
尾びれをわずかに
動かすだけで
船のスピードに楽々ついてきた
「あそこだ!」
数人の船員から
叫び声が上がった瞬間
波間から豚が飛び上がって
沈んだ
船長が慎重に狙いをつける
豚がまた浮かび上がる
何かが激しく
ぶつかり合っている
豚の足は片方引き千切られていた
水面下になにかが素早く動き
鋭い鰭の先端が水面を切ると
灰色の背中がわずかに表れ
水が泡だって流れ落ちた
「でかいぞ!!」
かたわらで銛がうなり
サメ目がけて飛んで行った
「当たったの?」
信一郎は叫んだ
「はずした でも狙いはいい 」
隣で兄貴分のこれまた
信一郎の親戚に
あたる船員の幸雄が言った
「船を止めたほうがいいな船長!」
他の船員が叫び
船のエンジンが止められ
さらに数本の銛が
撃ち込められ外した
興奮したサメたちが
繰り返し攻撃をしかけるので
豚は狂ったように上下した
裂けた豚の腐った肉や
血が海に広がってサメの宴に
供せられる
そこに海鳥が数羽あらわれ
急降下する
「次は外すなよ!」
「厚切り肉は醤油だな!」
「フカヒレも上手いぜ!」
今や料理長はじめ
全員がこのサメ捕獲劇に
魅入られていた
信一郎も胸を弾ませ
一部始終を見物していた
残骸をついばむ
騒々しい海鳥で
埋め尽くされたその海底に
黒い影が数匹泳ぎ回っている
不意にとがった
鼻面が突き出たかと思うと
大口を開けて海鳥を
くわえこんで波間に消えた
一瞬の出来事だった
「今の見たか?」
「ああ!なんともでっかい歯だな」
「あんなのに食われたら
ひとたまりもないぜ! 」
みんな口々に叫んだ
信一郎は映画
「ジョーズ」を
思い出し身震いした
振り向くと叔父が残忍な
笑顔で銛を持った
部隊に命令を出していた
「かまうこたぁないから
脳天を一発でぶち抜け!」
自分は外したくせにと
船員達が笑う
羽ばたく海鳥がジャマで
信一郎の場所からは
よく見えなかったが
まもなく歓声が
湧き上がり
銛部隊から勝ち誇った
雄叫びが聞こえた
銛をかけられ
海面に赤黒い輪が広がった
二匹の巨大なサメが
尾をロープで縛られ
のたうちまわりながら
引き上げられた
「サメの刺身はトロに匹敵するぜ!」
「サメの煮凝り!」
「漁師飯は海の上にかぎる!」
料理長が叫んでいるのを聞いて
信一郎は自分の口から
唾が沸くのを感じた
風が出てきて
波も高くなってきた
太平洋も進むにすれ
日入りが長くなり
非番の乗組員達は夕食がすむと
デッキに集まり歌ったり
酒盛りをしたりした
信一郎はデッキに出された
簡易式の折り畳み
ベットに横たわり
先ほど出された
サメのステーキで
おなかを膨らませ
大満足で今日の一日を振り返っていた
三助爺さんのおかげで
巨大なサメ二匹は新鮮なまま
海盛丸の乗組員の
胃に綺麗に収まった
サメが引き上げられた後も
熱のこもった
解体作業が進み
料理長がニコニコ顔で
巨大なサメの肝臓が入った
袋を持って
信一郎の横を通り過ぎた
血に染まった電動鋸を肩に
かついで
信一郎はゾっとした
その後も若い船員達と切り落とされた
口を大きく開いて横たわる
サメの頭の写真を撮ったり
と午後は楽しく過ごした
今は信一郎はすっかりリラックスし
地平線に沈む夕日をぼんやり見ていた
暖かな日の入り
今眺めている夕日はまるで
上は明るい色下はダークな
海面の二枚貝がゆっくりと
閉じていくようだ
妙に親近感を覚えるのは
それが秘密に満ちた一日の終わりを
物語っているように思えるからだ
「月の女神がお目覚めのようだな」
詩的な物思いにふけっていると
叔父がビール瓶を片手に
やってきた
「日が沈み月の女神が
顏を出すとあたりが
紫色に変化する 」
「月の女神? 」
信一郎は少し背を起こし
叔父に向かってほほ笑んだ
「いい面した中年のおっさんが
何言ってるって?
だが本来船乗りってのは
ロマンチストが多くてね 」
海風が頬に気持ち良く当たる
叔父はビールをグビッとやり
喉仏が動いた
「お前は俺の兄によく似ている 」
叔父が肩をすくめて言った
「うん よく言われる」
声が小さくなった
2年前肺がんで亡くなった父の事を
思い出すとまだ胸が痛む
でも叔父から父の話が出るのは
初めてだった
そして信一郎はもっと
父の事を聞きたかった
一流の船乗りの父の事を・・・
「お前の父さんは誰よりも
星が読めた
ああ・・そりゃぁ
星図よりも正確にな 」
目がうつろになって
微笑んでいた
きっと酔っているのだろう
「兄は俺の憧れだった
一緒に航海するのが
当たり前だと思っていた 」
叔父が静かに言った
顏を自分に
向けまっすぐに見た
「本当なら大学に
行きたかったんじゃないのか?
信一郎
今ならまだ遅くはない
無理して船に
乗ることはないんだぞ 」
叔父の気遣いが
痛いほど伝わってきた
でも残された母や
この会社の事を思うと
早く一人前になりたかった
「ううん!
俺!
海が好きなんだ
陸で勉強するより
沢山漁に出て会社を大きくしたい!」
叔父が面喰って言った
「そうなのか?無理してないか?」
小さな笑いをたてた
「ああ!だから叔父さんも
いつまでも俺を子供扱いしないで
早く目的地に着いて沢山捕れるように
レーダー見張っててよ!呑んでないでさっ!!」
精一杯胸を張って言った
「それから
これからは俺が
会社の運営にかかわるんだから
何でも話してよね!
乗組員の給料とか
経費とか色々! 」
早く一人前に
なりたかった
陸に残してきた
母を想うと胸が痛む
長く闘病生活が
続いた父を介護した母は
とても疲れていたが
でも
葬式が終わる頃には
何かに解放されたような
すっきりした顏をしていた
そして今まで
辛い思いをしてきたんだから
これからは良くなるだけだと
信一郎に言った
そして今は
叔父が船長を務めている
この海盛丸に乗ることも
父の後を継ぐための
決意だった
母は何も言わなかった
父と叔父は
とても仲が良い兄弟漁師で
地元でも有名だった
そして叔父夫婦には
子供がいなかった
当たり前のように
信一郎は叔父夫婦にも
可愛がられて育った
尊敬する父と
大好きな叔父に
囲まれて育った信一郎は
自分の将来の
仕事は漁師以外
何も思いつかなかった
むしろ漁師になるために
生まれてきたようなものだと
思っていた
そんな甥っ子を
逞しく感じているのか
叔父は信一郎の頭を
クシャクシャにして言った
「まずは船の
生活に慣れろ
それからここにいる
漁師達から学べ! 」
日はすっかり
沈み
輝く月が顔を出していた
叔父は微笑み
言った
「海の神のご加護が
お前にあるように 」
:*゚..:。:. .:*゚:.。
かつて「花金」と
呼ばれていた週末
大阪はミナミでも
一流の国際ホテルの
パーティ会場
今夜は数百人の人が
鳳凰の間にあふれかえり
芸能界の大物や
日本を代表するような有名な
映画監督をはじめ
業界関係者が寄せ集められ
今は主賓の
女性大物演歌歌手の
還暦パーティー
が行われていた
人でごった返す中
多くの来客のしかも
女性客が見つめる
熱いまなざしの先には
ひっそりと
主賓の演歌歌手の横に
さりげなくエスコートを
任されている男性に
熱い視線が集中されていた
「彼?何者?」
「ステキねぇ~ 」
「俳優か何かじゃない?」
彼に興味を
掻きたてられた女達が
口々に囁きかけ合っている
謎の青年が注目を
浴びているのを
演歌歌手はとても誇りにしている
大威張りで挨拶を交わしている
彼女は何処へ行くにも
彼を従い
まるで自分の可愛いペットを
自慢するように
次々に芸能界の
大物に紹介をしていた
グラスを片手に
演歌歌手と監督が
今後の日本映画界について
白熱な議論を交わしている時
麗しい青年はそっと彼女に
礼儀正しく耳打ちし
その場を離れた
良く見るとシルバーの
スーツの下には
鍛え上げられた鋼の
ような筋肉が潜んでいる
体を揺らし歩く姿は
しなやかな猫を思わせる
彼はケバケバしい
料理が並ぶテーブルから
シャンパングラスを一つつかみ
ゆったりと夜景を楽しんでいるかのように
大きな窓を見上げた
ほんのわずかでも今夜の依頼人から
離れられ気を落ち着ける
時間ができたのはありがたかった
あと数十分は彼女を一人に
していても大丈夫だろう
「あら?
ジョージじゃないの?
こんな所で偶然ね 」
低くハスキーな声に名前を
呼ばれ振り向いた
戸口に立っている女性は
少し離れた黒ずくめの
男達に軽く会釈しこっちに近づいてきた
同じく女は
黒一色の服に包まれて
肉感的な体の線を強調していた
煌びやかなスパイクヒール
ジェルで撫で付けられた髪は
優雅な形のシニヨンに
結い上げられてる
そこにシルバーと黒曜石の簪が
突き刺さってた
粋で優雅な装いだ
「ミス・ヨーコ」
ジョージは軽く会釈した
「慎二は斡旋事業も
立ち上げたのかしら?
出張ホストも大変ね 」
涼しい顔でうなずく
ヨーコの言葉に寒気がした
それでも最後まで
紳士のフリを貫くつもりで
グラスを掲げた
「何かおとりしましょうか?マダム」
「いいえ いらないわ
ずいぶんいい男になったものね」
ジョージはすっと
伸ばした背筋をわずかに
緊張させたが
落ち着いた表情のまま油断なく
目を光らせた
この人は慎二の女だ
いや慎二がこの女のペットなのか
あくまで礼儀正しく振る舞った
ヨーコはグラスを両手で包み
ワインのかぐわしい匂いを
吸い込みながら相手の顔を観察した
ジョージとても美しい男だ
野性的でありながら
研ぎ澄まされた精神を感じさせる
見た目はヤワな所はないが
艶やかな金髪だけは別だった
絹糸を想わせるその髪の
一本一本をこの手で
その感覚を確かめたくなる
そして青い瞳
これは偽物だ
コンタクトの下の瞳の色は?
くっきりとした眉長い顔立ちはハッと
するほど整っている
ハラが立つくらい肉感的で端整だ
男には色気などないものだと
思っていたが
コイツが笑みを漏らした
時の頬の動きや
白い歯につい見とれてしまう
「あなたの目の横の傷」
ヨーコは言った
「小さい頃についたものね
誰かに殴られたのかしら
そしてそのまま放っておかれた
誰も治してくれなかった
たぶん親は貧しかったのね
今はアルマーニのスーツに
身を包んでいても育ちは出るものよ
たとえそれが80万のスーツでもね 」
「スーツを気に入って頂いて
嬉しいですよ 」
ジョージが何食わぬ顔で言う
一瞬ジョージの端整な
顏を覗き込むようしてまた話はじめた
「まさに一流ね
ジョージあなたは女の落とし方を
良く知っているセックスで女を
操ることに慣れている
でも・・・・
同じ力を持つ他の男達と違って
それをプライドの拠り所としていない・・・
その顔立ちと体つきなら当然でしょうに」
「ありがとう 」
フンと鼻を鳴らして
つぶやいた
「褒めたのではないわ
ジョージ 」
ヨーコがイライラして言った
「分析しただけ
お世辞を言ったわけでもないわ
気を惹こうとしているわけでもない」
「それは残念 」
驚いたように
一瞬間を置いてから言った
「ひとつ教えてジョージ」
ヨーコは耳元でささやいた
「人に命じられれば
一瞬で股間のものを
硬くできるのかしら? 」
皮肉まじりに彼女は股間に向かって乾杯と
ワインを掲げた
ジョージはむっつりと
口を引き結んで言った
「ああ できるよ
今すぐ試してみる? 」
「まぁ」
ヨーコは驚きを装って言った
「完璧な紳士の仮面にヒビが
入ってしまったみたい 」
「貴方が粉々に砕いたのだから
驚くことはないだろう
さぁ 触ってみたら?
失望させることはないと思うね 」
コロコロとヨーコは笑った
ジョージを舐め回すように見る
「今はやめとくわ
演歌歌手の彼女が目から火を
噴きそうにして睨んでいるから 」
振り返ると依頼人がこちらをものすごい
目つきで睨んでいた
派手な着物が虚栄心を
誇示している
彼女の嫉妬心はすさまじいものだ
早くご機嫌を取らなければ
あとで面倒なことになる
立ち去ろうとした時に
ヨーコが呼び止めた
「楽しいひと時を
ありがとうジョージ」
「こちらこそ 」
「やっぱり番で欲しいわ 」
おもしろがって言った
依頼人がカラオケをバックに
新曲を披露しているのを
控えめにに観賞しながら
ジョージは考えていた
隣の女がチラチラ色目を使っている
ジョージは表面上は冷静だったが
女の視線を煩わしく感じていた
ヨーコ・・・・
あの女を相手にすると
猫にいたぶられているねずみのような
気分にさせられる
しかも今日は一段とひどいものだった
同業種柄こういった場では
仕事中だと分かっているので
あまり関係者には関わらないものなのだ
広い戸口を見ると
頭の考えの張本人が市会議員の
腕を組んで二人で
姿を消すところだった
司会議員の左手は
ヨーコの尻に添えてられていた
深い猜疑心が湧き上がる
ジョージは身震いした
ミス・ヨーコほどSEXを
ビジネスにしている女はいない
正体は知れず恐ろしい女だ
慎二があの女とねんごろになってから
ずいぶん経つ
自分はそれを知ってるほど
長くゼビアスに居過ぎた
ここらへんで潮時かもしれない
そう思うと慎二から
抱えさせられている借金が重く
のしかかってきた
いっそのことすべてを投げ出して
逃げ出してしまいたい
以前に一度ユカと暮らしていた時に
考えたことがあった
ホスト以外に自分には
何ができるだろう・・・
女を騙す以外に・・・・
相変わらずろくでなしの自分に
ハラが立った
そこでハッとした
狭められた目が驚きにパッと開かれた
興奮と警戒が激しく体の中で
駆け巡る
最後に言った彼女の言葉・・・・・
何が(番つがい) だって?
みぞおちに奇妙な感覚が生じた
胸の中で恐怖が膨らんでいく
「クソックソックソッ!」
手にしていた
グラスを思わず砕いた
真っ赤な血が高そうな
トルコ絨毯に広がった
隣の色目を使っていた
女の叫び声が聞こえ
ジョージの周りに
人だかりと
足元には血の塊ができた
依頼人の大物演歌歌手の
新曲披露は台無しになった
裂けた手の平からダラダラ流れる
血液を眺めながらジョージは悟った
ユカはあの女の所にいる