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Über das glückliche Leben.

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263 - 第263話 Dear my friend. きみは、僕の友達だ 3-2

2024年06月11日

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  ウーヴェがドナルドの訪問を受けたその夜、自宅でリオンと二人きりになったことから不安に震える顔を隠すことなく見せ、入院していた時と同じように抱き締められ背中を撫でられ子供のように安堵し、何があったのかを全てリオンに伝えていた。

 全てを聞き終えたリオンが溜息混じりに呟いたのは、やっぱりお前の選択は間違っていない、お前がいく必要はないしマウリッツに任せる事も間違いではないとの言葉だった。

「山男の叔父があいつを思ってオーヴェに来て欲しいってのも分からなくもないけど、これに気付かなかったのかな?」

 ソファでウーヴェを背後から抱きしめてクッションに寄りかかっていたリオンがウーヴェの右手を取り二人の顔の前に掲げて薬指に嵌るリングを撫でたのだが、これに気付かなかったのかと再度呟き苦笑する。

「どう、だろうな……」

「まあ、あいつの気持ちを知ってる叔父としては甥っ子がカワイイから目を背けたい事かもな」

 ただそれは向こうの事情でありオーヴェにはオーヴェの事情がある、今回は断って正解だと念押しするように告げてウーヴェの髪にキスをし、マウリッツに電話をしろと告げて躊躇うような気配を感じる。

「オーヴェ、大丈夫だ」

「……ああ」

 テーブルに置いてあったスマホを手に取りやや躊躇いながらマウリッツの番号を呼び出したウーヴェは、耳に宛てがいながらこんなに緊張するのはいつ以来だろうかと小さく笑う。

「一時期離れていた時以来か?」

「そうかもな」

 コールが5回を超えた時に柔らかな声が返事をした為、この間は大丈夫だったかと笑いかける。

『大丈夫だったけど子供達からゾンビみたいな顔になってるって散々からかわれたよ』

 そっちこそ大丈夫だったのかと問われリオンに随分と怒られたと肩を竦めれば、当たり前だと頭の後ろで不満を訴えられる。

 その不満をやり過ごしながら今大丈夫かとも聞くと、問題ない、どうしたと穏やかな声に問われ、その穏やかさがこの後失われる可能性に胃の辺りに不快なものを感じるが、オイゲンの話だと告げて静かに返事を待つ。

『う、ん……どう、したの……?』

「……遺体を引き上げることが出来たそうだ」

『!』

 伝わってくる息を飲む音と驚愕の気配、そして理解出来ない思いが彼の口を閉ざさせたようで、痛いほどの沈黙にウーヴェが後悔しかけた時、震える声がそうかとだけ返してくる。

「ルッツ……」

『うん。教えてくれて、ありがとう、ウーヴェ』

 いつ帰ってくるんだと問われぎゅっと目を閉じた後、ウーヴェが腹を括ったように目を開き、どうだろうか、友人を代表してオイゲンを迎えに行ってくれないかと告げて返事を待つと、きみが行けば良いと返されるが、俺は行けないと自然に口から流れ出した安堵に顎の下で重ねられている手に手を重ねてそっと撫でる。

「俺は行けない、ルッツ。あいつの思いに応えることはできないから」

『ウーヴェ?』

「それに……俺や他の人にこの機会を譲ったら……きっとルッツは後悔する」

『……』

 今まで自分は次で良いと言っていたしそう行動していたが、あの夜涙を流しながらどうして自分じゃなかったと叫んだのは本心だろう、だったら遠慮せずに己のやりたい事をすれば良いとただただマウリッツを思っての言葉を穏やかに伝えると、すぐに返事は無かったが、先程よりも穏やかさを感じさせる沈黙にウーヴェが気づく。

「新しい出会いを探しても良いかなと言っていただろう?」

『……うん』

「オイゲンを迎えに行って、お別れ会をして……収める場所に収めないか?」

 きっと彼を思っていた気持ちは一生涯忘れられないものだろうが、忘れる必要などなく己の心の中に置き場所を作ってあげればどうだと提案し、驚いたように息を飲む友人に見えないが笑いかける。

「あいつもきっとそれを望んでいると思う。好きになってくれてありがとうと思ってるだろうな」

『ウーヴェ……っ』

「だから、迎えに行って人の気持ちに気付かなかった鈍感男と言ってやればいい」

『う、ん』

「詳しいことが分かればすぐに連絡をする」

 少し落ち着いたような気分が晴れる寸前のような声がし、良かったと安堵しつつ同行するドナルドに連絡先を伝えて良いかと問いかけると、勿論と快諾されて良かったと口に出す。

「カール達には俺から連絡をしておく」

『ああ、そうだね。うん。頼む』

 急な連絡で驚いただろうが行くと決めてくれてありがとうと礼を言うウーヴェにマウリッツが少しだけ沈黙した後、晴れ渡った夜空を連想させる声でこちらこそありがとうと返し、やっぱり持つものは友人だねと笑った為、ウーヴェも釣られてうんと返す。

『ダンケ、ウーヴェ。また詳しい話を教えて欲しい』

「ああ。じゃあルッツ、また連絡する」

 緊張を覚える通話を終えた安堵に天井を見上げて息を吐いたウーヴェは、顎の下で組んだ手が離れて肩を撫でてくれた事に気付いて頭を仰け反らせて満足そうに見下ろしてくるロイヤルブルーの双眸に笑いかける。

「……これで、良かった、か?」

「これ以上はねぇってくらい良かったぜ、オーヴェ」

 だから罪悪感など感じずにお前は正しい事をしたと顔を上げろ。

 いつもウーヴェに言われている言葉を少し変えて返したリオンは、明日の朝最高の一杯を飲ませてやるからベッドに行こうとキスとともに誘いをかけると、躊躇う気持ちとリオンの言葉を受け入れたい気持ちがウーヴェの眼の中で揺れるが、受け入れたい気持ちへと傾いた事を示すようにリオンの右手薬指で密かに光っている同じ指輪にキスをする。

「……いつもより、優しくするな、ハニー」

「……今日は5ユーロだ」

「むぅ」

 ハニーと呼べば1ユーロと言う決まりはいまでも健在のようで、しかも今夜はグレードアップしている事を伝えたウーヴェにリオンが以前では考えられない事に、後ろから首筋に噛みつくようなキスをする。

「こら、リーオ! くすぐったい!」

「うるせぇ!」

 くすぐったさに前屈みになるウーヴェにのし掛かりながらがるるるると吠えるリオンに首を竦めたウーヴェだったが、己よりも信頼しているリオンの首筋へのキスを受け止め、背後に手を伸ばしてくすんだ金髪を抱き寄せる。

「リーオ。ベッドに連れて行ってくれ」

 ウーヴェの言葉にリオンが直接答えるのではなく、前屈みになったウーヴェを抱き上げて頬へのキスで返事にするのだった。



 ドナルドからの連絡を受けて二週間後、本格的に雪が降り始めると色々と困難だからとの理由で急遽スイスに向けて出立する事になったマウリッツは、その前夜、仕事を終えてウーヴェのクリニックに顔を出した。

「明日、行ってくる」

「ああ、頼む、ルッツ」

 この二週間、己に出来る手続きや諸々の手筈を整えていたマウリッツだったが、心の何処かに後ろめたい思いがあった。

 それを払拭する為にウーヴェのクリニックに顔を出したのだが、ウーヴェにはそれを見抜かれていたようで、足を組んで珍しい表情で笑うウーヴェに驚き目を見張る。

「俺に遠慮しなくて良いと言っただろう?」

「……うん、でも、ずっとこうしてきたからさ、遠慮してしまうな」

「悪いクセだな」

 直した方がいいと笑う友人にマウリッツも肩を竦めて答えるが、明日行ってくると己に言い聞かせるように呟き、ウーヴェも励ますように頷く。

「うん。帰ってきたら送別会をしよう」

 久しぶりに皆でいつもの店に行ってバカ騒ぎをしようと片目を閉じるウーヴェにマウリッツも小さく肩を揺らし、オーナーに叱られない程度にしようと笑うとカールへの連絡などありがとうと生真面目に礼を言い、戻ってきたら取り敢えず一発ぶん殴ると安堵の裏返しの言葉を伝えてきた友人達のメールを思い出して自然と笑ってしまう。

「皆で会うのも久しぶりだし楽しみだな」

「そうだな」

 遠く離れた場所を永遠の寝床にしたと思っていた友人がすぐに会いに行ける場所へと戻ってきてくれる事が嬉しくて、他の面々も個々にウーヴェに独自の表現ながらそれを示していた。

「じゃあ、そろそろ帰るよ」

「ああ。気を付けて行ってこい、ルッツ」

「うん。行ってくる。戻ったらすぐに連絡する」

 立ち上がるマウリッツをクリニックの両開きの扉まで見送ったウーヴェは、やんわりと抱き締められてその背中を安心させるように一つ叩き、行ってこいと穏やかな気持ちで伝える。

「ドナルドによろしく」

「うん」

 行ってくる、ああと、何度目かのやり取りをした後に照れたような顔で扉を開けて出て行くマウリッツを見送ったウーヴェは、今日はもう帰宅したリアのデスクに腰を下ろして一つ溜息をこぼす。

 もうすぐリオンがやってくるがそれを待っている時間が何故かもどかしくてスマホを取りに診察室に戻り、今度は己のデスクの端に尻を載せる。

『ハロ、オーヴェ。どうした?』

「……まだ来ないか?」

『んー、後十分ぐらいかな』

 スマホの向こうから聞こえてくる時間に不満の溜息をついてしまったウーヴェは、ニヤニヤと笑み崩れている事を如実に伝えてくる声に気づき、己の無意識の行動にも気づいてしまう。

『もうちょっとで着くからさー待っててくれよ、ダーリン』

「う、うるさいっ!」

『あー、まーたそんな素直じゃねぇことを言うだろ』

 いつもいつも言っているが、素直じゃないお前も好きだけど素直なお前はもっと好きと、ウーヴェの気持ちを一定方向へと傾ける言葉を低く囁くリオンに仕方がないと言い訳をしたウーヴェは、今すぐ会いたいから早く来いと命じ、返事を聞く前に通話を終える。

 そして、自ら宣言した言葉よりも早く両開きの扉が勢い良く開け放たれて金色の嵐が飛び込んでくると、ウーヴェも嬉しそうに嵐を受け止め抱きしめるのだった。



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