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#記憶
有栖川 郁太郎
106
朝日がカーテンの隙間から差し込み、小さな部屋を照らす。
「……ん……」
ベッドの上で小さく寝返りを打った少年は、ゆっくりと目を開けた。
銀色の髪が寝癖であちこち跳ねている。
身長は一四二センチ。
幼く見える顔立ちのせいで、初対面では必ず女の子に間違えられる。
少年の名は――天城 雷斗《あまぎ らいと》。
今日は、王立異能学園の入学試験の日だった。
「……まだ大丈夫……」
そう呟きながら時計を見る。
8時32分。
「…………」
数秒、思考が止まる。
「…………え?」
もう一度時計を見る。
8時32分。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
雷斗は飛び起きた。
「うそっ!? 今日試験じゃん!!」
慌てて制服を着る。
鞄を掴む。
朝食を食べる時間なんてない。
「い、行ってきます!」
誰もいない家へ叫び、そのまま玄関を飛び出した。
王立異能学園まで、あと二キロ。
開始まで――二十八分。
「ま、間に合わない……!」
息を切らしながら走る。
人混みを縫うように進むが、小柄な体ではなかなか前へ出られない。
「す、すみません!」
「通してください!」
肩がぶつかる。
よろける。
転びそうになる。
「もうダメ……!」
雷斗は足を止めた。
使いたくなかった。
でも、このままでは確実に遅刻する。
「……《神速》。」
次の瞬間。
ドンッ!!
地面を蹴った音が爆ぜた。
一歩。
たった一歩で、景色が一気に流れる。
「うわぁぁぁっ!?」
勢いを殺せず、そのまま石壁へ激突。
ゴンッ!!
「いたたた……」
頭を押さえながら立ち上がる。
異能《神速》。
千年に一度現れると言われる異能。
だが雷斗には、まだ制御ができない。
使えば100%。
使わなければ0%。
その二択しかなかった。
「急がなきゃ……!」
痛む足を引きずりながら走り続ける。
そして――。
巨大な門が見えた。
王立異能学園。
門の前では試験官が腕時計を見ていた。
「……七。」
「六。」
「五。」
「四。」
「ま、待ってくださぁぁぁい!」
雷斗は最後の力を振り絞って飛び込む。
「三。」
ピッ。
開始時刻。
試験官は雷斗を見て、小さくため息をついた。
「……開始三秒前。」
「ギリギリセーフだ。」
「はぁ……はぁ……」
その場に座り込む雷斗。
「ま、間に合ったぁ……」
試験官はふと、地面を見る。
門まで一直線に残る、抉れた足跡。
(今の加速……。)
(異能か。)
(しかも、ただの身体強化じゃない。)
しかし何も言わず、治療をして試験会場へ案内した。
筆記試験は淡々と終わった。
そして昼前。
受験生全員が巨大な闘技場へ集められる。
「これより実技試験を開始する。」
試験官の声が響く。
「試験内容はポイント制。」
「制限時間は一時間。」
「魔物の討伐、救助、特殊任務などでポイントを獲得してもらう。」
空中に魔法陣が現れる。
そこへ数字が映し出された。
スライム 1P
ゴブリン 3P
ウルフ 5P
オーガ 20P
特別任務 10〜50P
「では――始め!」
ゴォォォン!!
開始の鐘が鳴った。
受験生たちは一斉に駆け出す。
「ぼ、僕も……!」
雷斗も走り始める。
しかし。
「きゃあっ!」
一人の受験生が魔物に追われていた。
「た、助けなきゃ!」
雷斗は反射的に前へ飛び出す。
「《神速》!」
ドンッ!!
一瞬で魔物の横へ。
短剣を振る。
ズバッ。
魔物は倒れた。
しかし次の瞬間。
ビキッ。
「うっ……!」
右足に激痛が走る。
筋肉が悲鳴を上げる。
神速の反動だった。
「まだ……ダメだ……」
歯を食いしばりながら立ち上がる。
試験は、まだ始まったばかりだった。
コメント
1件
うわあ、冒頭の遅刻ギリギリからの《神速》発動、めっちゃハラハラしました!制御できないチート能力、って設定がもう面白い。しかも試験開始直後に人助けで使っちゃう優しさが雷斗くんの魅力ですよね。反動で足を痛めちゃったのが心配だけど、これからどう立ち回るのか続きが気になります!