テラーノベル
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ゴォォォン――。
実技試験終了まで、残り十分。
雷斗は荒い息を吐きながら森の中を走っていた。
「はぁ……っ、はぁ……っ……!」
右腕には擦り傷。
左肩には魔物の爪痕。
そして両脚は、今にも動かなくなりそうだった。
腰に付けたポイントプレートを見る。
87P。
合格ラインは一〇〇ポイント。
あと十三ポイント。
「もう少し……。」
そう呟いた瞬間だった。
ズシン。
ズシン。
木々が揺れる。
現れたのは、大人ほどの大きさを持つ魔物。
「オーガ……。」
オーガ一体。
二十ポイント。
倒せれば合格。
しかし。
「勝てるわけ……。」
オーガは棍棒を振り上げる。
「グオオオォォォ!!」
「ひっ!」
雷斗は反射的に《神速》を発動した。
ドンッ!!
一瞬で横へ飛ぶ。
棍棒は地面を砕いた。
しかし。
ビキッ。
「うっ……!」
両脚が悲鳴を上げる。
また全身へ神速を流してしまった。
立て直そうとするが、身体が思うように動かない。
「このままじゃ……。」
オーガが再び迫る。
その様子を、高台から試験官たちが見ていた。
「受験番号三十七。」
「あの子か。」
「千年に一度の異能《神速》……。」
一人の試験官が腕を組む。
「だが、使い方が下手すぎる。」
別の試験官が尋ねた。
「助けますか?」
「いや。」
「命の危険がない限り手は出さない。」
そして、小さく呟く。
「全部に流すな……。」
「……必要な場所へ流せ。」
その声は小さかった。
だが、風に乗って雷斗の耳へ届く。
「必要な……場所……?」
その瞬間。
脳裏に、幼い頃の記憶が蘇った。
◇ ◇ ◇
「雷斗。」
まだ七歳の頃。
父は庭でホースを持っていた。
「見てごらん。」
ホースから水が勢いよく出ている。
「このままだと、水は広がるだけだ。」
父はホースの先を親指で少し押さえた。
すると。
シュッ!!
水は細く、遠くまで飛んだ。
「おぉ!」
幼い雷斗は目を輝かせた。
「どうして!?」
父は笑う。
「力は全部使えばいいってものじゃない。」
「必要な場所へ流す。」
「そうすれば、小さな力でも大きな結果になる。」
「いつか困った時、このことを思い出しなさい。」
父はそう言って、雷斗の頭を優しく撫でた。
◇ ◇ ◇
景色が現実へ戻る。
オーガはもう目の前。
(全部じゃない。)
(必要なのは……。)
(逃げるための……。)
(右脚だけ。)
雷斗は目を閉じた。
異能の力を、ゆっくりと右脚へ集める。
「《神速》……!」
ドンッ!!
爆発するような踏み込み。
身体が弾丸のように飛び出した。
オーガの棍棒が空を切る。
「できた……!」
初めてだった。
全身ではない。
右脚だけに《神速》を乗せることができた。
だが。
バキッ。
「ぐっ……ああっ!」
右脚に鋭い痛みが走る。
筋肉が裂けた。
膝から崩れ落ちる。
「まだ……反動が……!」
それでも。
全身が壊れるほどではない。
雷斗は痛みに耐えながら立ち上がる。
「あと……一回だけ。」
右脚へ《神速》。
ドンッ!!
オーガの懐へ潜り込む。
短剣を逆手に持ち、足元を狙う。
ザシュッ!!
巨体が大きく体勢を崩す。
「グオォォォッ!」
その隙に距離を取る。
試験官たちは目を見開いた。
「……成功した。」
「あの短時間で。」
「部分的な百パーセント制御か。」
先ほど助言した試験官は、小さく笑う。
「そうだ。」
「その一歩がお前の成長だ。」
ゴォォォン――。
試験終了の鐘が鳴る。
雷斗はその場へ座り込んだ。
「はぁ……はぁ……。」
右脚はもう感覚がほとんどない。
それでも。
ほんの少しだけ笑みがこぼれた。
「……前より、少しだけ。」
「使えるようになった。」
その様子を見ていた試験官は、名簿の「天城 雷斗」の欄に一言だけ書き加える。
『成長速度──極めて優秀。』
お湯の中の葉っぱ
206
#学園
たまごさんど
82
36
コメント
3件
読み終わったよ〜🥀 父さんのホースの話、伏線っぽくて「あっ!」ってなった。最初は全身に力が散ってたのに、右脚だけに集中させる選択、すごく雷斗らしい成長の仕方だなって思った。反動で筋肉が裂けるところもちゃんと代償があってリアルだし…でもそれでも「前より少し使えるようになった」って笑えるのが、やっぱりこの子強いなって感じた🌙 試験官の評価もじわっとくるね。次が楽しみ。