涼ちゃんの葬式から何日か経った後、僕たちは一度活動を休止することにした。
曲を書いても、内容のない上辺だけのものしかできない。彼の存在は想像以上に俺のなかで大きかったみたいだ。
何度も彼の後を追おうと思った。でも若井のことや涼ちゃんの言葉を思うとできなかった。
彼は、俺が後を追おうとするとわかっていたのだろう。
俺も彼のことを一番に分かっているし、きっと彼もそうだ。本当にずるい人だ。そう言って俺をこの世界に縛り付ける。
毎日何もせずボーとして、1日が終わる。眠る前には彼のことを思い出して涙する。つらくて仕方がないけど、彼は戻ってこない。飛ぶように過ぎていった日々のしわ寄せが一気に来たみたいだった。
ろくにご飯も食べないから体重もどんどん減って痩せこけてきた。俺が俺じゃないみたいだ。
ある日、コンビニに買い物にいった帰りにふと空を見上げると、夕日が炎のように真っ赤に燃えていた。
そういえば涼ちゃんは夕日が好きだったな、なんて思い出して涙が出そうで目を逸らす。
夕日が綺麗なんだけど、とれねぇんだ。なんて笑う彼が懐かしい。
そんな思い出から逃げるようにマンションのエントランスに入り、部屋番号を押す。郵便受けを確認して、パスワードを涼ちゃんの誕生日にしている自分に思わず笑ってしまう。
エレベーターで部屋の階を押して、部屋までのぼる。
扉を開けると、リビングへと続く扉から光が漏れている。電気切り忘れたかな?なんて思いながらも、不審者だったら困るので警戒しながら扉を開ける。
「おかえり。」
ソファーに座ってにこっと笑うその人は__涼ちゃんだった。
ガタッと手からスマホが落ちるがそれどころではない。
「は、え、?」
困惑する俺をよそに彼は続ける。
「私は貴方をお守りする様雇われた精です。貴方が最近笑えなくなってきたって言うからさ。会いにきました。」
そう言って困った様に笑う彼は、紛れもなくあの日失った最愛の人。俺が会いたくて会いたくてたまらなかった人。
でも、どこか不自然な話し方に違和感を覚える。
「、、、涼ちゃん、だよね?」
咄嗟に口から出た言葉は情けないほどに震えていた。握りしめた拳も微かに震えている。
そんな俺を見て、彼は寂しそうに笑っただけだった。
その後、ご飯にするかお風呂にするかを聞かれ、流されるままにお風呂とご飯を済ませた。
何が起きているか理解できないまま気づけばベットの上に寝かされていた。
子供をあやす様に俺を寝かしつける涼ちゃんを見て、なんだか無性に腹が立ったので涼ちゃんも引きずりこんでやろうと涼ちゃんの腕に手を伸ばす。
が、涼ちゃんの腕に触れることはできなかった。貫通した俺の手は虚しくベッドシーツの上に落ちた。
「え?なんで、?」
驚く俺を見て、さっきと同じく寂しそうに笑った。
「僕から貴方に触れることはできるけれど、貴方からは触れられないの。あくまで精だから。ごめんなさい。」
そう言って俯く涼ちゃんは、なんだかとても寂しそうに見えた。暗がりの中で少し潤んだ目が揺れた。
「じゃあ、手、握っててくれない?」
なんでこんな提案をしたのかは自分でもわからないが、とにかく涼ちゃんの温もりに触れたかった。
戸惑いながら握られた手は、いつもの涼ちゃんと違って温かった。
それだけでも安心した俺は、しばらく眠れていなかったのもあるため、すぐに夢の世界へと眠りに落ちた。
電話の音で目が覚めた。表示を見ると若井からだ。
「も、しもし?」
寝起き特有の声の掠れを直しながら返答する。
「元貴?今日、緊急で会議入れたいらしいんだけど今からこれる?」
「ん、行く。」
「おけ。」
端的に返答をして電話を終わらせる。そこでふと涼ちゃんのことを思い出した。
飛び起きて部屋を見渡すが、涼ちゃんの姿はない。やっぱり俺のいいような夢だったかな。なんて思いながらリビングへと行くと
「おはよう。」
キッチンに立って朝ごはんを作っている涼ちゃんが目に入る。俺が昔涼ちゃんからもらったエプロンをつけてスクランブルエッグを作っている。
「、、おはよう。」
遅れてだか返事をした俺を満足そうに見つめて、
「もうすぐできるから待ってて。」
と言われたので、素直に食卓に座って待つことにする。スクランブルエッグしか作れないところも変わっていなくて安心する。
「今日は予定はあるんですか?」
食べながら涼ちゃんが聞いてきた。
「今日は会社の人と会議。」
難しい顔をした涼ちゃんを見て、言うべきじゃなかったと思った。だって、涼ちゃんがいなくなった今、どうして行くかの会議をするのに。しまった、と思っていたら
「僕も行ってもいいですか?」
と一言。驚きで返事を返せずにいると、
「貴方をお守りすることが役目なので。着いて行きたいです。」
と真剣な眼差しで言われてしまった。
「わ、わかった」
涼ちゃんに見つめられるのが弱い俺は、思わず承諾してしまった。
みぐり。です。
だらだらと長くなってしまったけど、頑張った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
コメント
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初話は、胸がギューッとなり過ぎて、なかなか読み進めることが出来ませんでした…こんな事言ってしまってすみません🙇🏻♀️💦 だけど、今回、涼ちゃんの姿をした精が登場して、物語に少し暖かな火が灯った気がして、夢中で読み進めていました。 でも、最後の不穏な一文で…また心がザワザワ…😱 次のお話も、心して読ませていただきたいと思います😌✨