夜風が塔の最上階を撫でていた。
聖堂で見た光景が、まるで呪いのように脳裏をよぎる。
人々の絡み合う声、崇拝の瞳、そして藤澤と同じ姿をしたシェイドの笑み――。
「……どうすれば、救えるんだよ……」
掠れた声が夜に溶ける。
結界を張り続けていれば、瘴気の侵食を抑えられる。
けれどそれは、ほんの一時の猶予でしかない。
根本を断たなければ、この街はもう終わる。
結界を維持するための歌を繰り返し、大森は膝をついたまま、疲労で視界が揺らいでいた。
何度も結界を張り直し、街を守ってきた身体はすでに限界を迎えつつある。
「……っ……はぁ……」
歌声は空へ舞い、光の五線譜が夜を覆っていく。
けれど、結界を張り直すたびに身体は削られていく。
声を張るごとに視界が揺らぎ、脚から力が抜けていった。
ふらりと膝を折った瞬間、背を支える温もりがあった。
「元貴、大丈夫?」
柔らかな声が支えた。
肩に触れた手は温かく、背をそっと抱き止める。
見上げれば、そこにいたのは藤澤だった。
艶やかな衣装に包まれたその姿は、神聖な塔の光を浴びて、どこか現実離れした輝きを放っていた。
「無理しすぎだ、元貴」
「ごめん……涼ちゃん。ちょっと、力を使いすぎたみたい…」
彼は穏やかに微笑みながら、湯気の立つ湯飲みを差し出してきた。
「これ飲んで。薬草茶。疲れ、取れるから」
「……ありがと。涼ちゃんは、やっぱ優しいな」
温かい液体が喉を伝い落ちていく。
舌に残る妙な甘さに違和感を覚えたが、それよりも胸の奥から押し寄せる熱に思考は塗りつぶされていった。
「……っ、なんだ、これ……身体が……熱い……」
呼吸が荒くなり、胸が上下する。
視界が潤んで、世界が揺れる。
甘い香りの正体が“禁忌の薬”だったことに 気づいた時には――もう、遅かった。
膝から崩れ落ちそうになる大森を、藤澤が抱き寄せる。
「大丈夫。薬が効いてるだけだから。」
藤澤は囁き、大森の頭に手を添えると、黒く高くそびえた帽子をそっと外した。
床に落ちたその瞬間、守護神の象徴がひとつ消えたかのように感じられる。
次の瞬間、強く唇を奪われた。
濃厚で、溺れるような口づけ。
舌を絡められるたび、頭が真っ白になっていく。
薬の効果か、触れるたびに痺れるような快楽が全身を駆け巡る。
大森はもう抗えなかった。
藤澤の指が装束へと伸び、赤と金の布を一枚ずつ解いていく。
結界を張るための神聖な衣が、月明かりの下で淫らに乱れていく。
「ん……っ、ぁ……涼……ちゃ……」
「元貴、もっと俺に委ねて」
広がった袖が床に落ち、藤澤の指が胸元を乱暴にかき分けた。
白い肌が露わになり、夜風と藤澤の手に触れられて粟立つ。
胸を擦られ、指先で尖端を弾かれる。
「やっ……あっ……だめ、そこ……っ」
「元貴、ここが気持ちいいんだろ?」
背筋を反らせ、堪えきれず声が漏れた。
藤澤は唇を寄せ、その声を吸い取るように口づけた。
絡み合う舌が、もはや愛撫そのものだった。
「……ぁっ……んぁ……!」
鎖骨に舌が這い、首筋を吸われる。
じわりと赤い痕が浮かぶたび、大森の声は勝手に漏れた。
「んっ……んぁ……! 跡……つけるな……っ」
「いいじゃん。……むしろ、見られたいんだろ?」
藤澤は微笑みながら、その震えを楽しむように低く囁く。
「っ……あ、あぁ……! もう……っ、俺、変になる……!」
「いい声。もっと聞かせて」
手が下へと伸び、衣の奥に忍び込む。
敏感な部分を撫でられ、堪えきれない声が夜気に溶けた。
「あっ……ぁぁ……やっ、そこ……っ」
「ここがいいんだろ?」
「……ん……っ、や……涼ちゃん……」
藤澤は優しく見つめ返しながら、まるで恋人を抱くように言葉をかけ続けた。
「……来て。元貴、おいで」
神聖であるはずの衣が淫らに乱されていく。
誘われるまま、藤澤に跨り、自ら腰を下ろした。
侵入の瞬間、息が止まり、喉から甘い声が漏れる。
「ぁあっ……!!…んんっ……涼ちゃん……!」
声が熱に溶ける。
自分で腰を動かすたび、快感が奔り、頭の中は彼の名だけで満ちた。
藤澤は背を支え、余裕の微笑を浮かべながらも、大森の乱れる姿を楽しむように囁いた。
「涼ちゃ……っ、涼ちゃん……もっと……」
「うん、呼んで。もっと呼んで」
羞恥に震えながらも、熱に支配された身体は止まらない。
「元貴、深く……俺を求めて」
「……っあ、あぁぁっ……っ!」
声が止まらない。
快楽に引き裂かれるような響きが、塔の壁に反響する。
「涼ちゃん……っ、やだ、離れないで……!」
「元貴、俺に溺れろ。全部俺に預けろ」
腰を抱えられ、深く突き上げられた瞬間、喉の奥から悲鳴のような喘ぎが迸る。
「あああっ……っ! そこっ……や、やば……っ! だめぇ……っ!」
突き上げが激しくなり、大森の腰は制御できずに震え続ける。
夜空の星が滲み、視界が真っ白に焼けていく。
「あっ……あぁぁ……っ、だめ……っ、もうっ……イく……っ、イくぅ……っ!!」
絶頂の波が押し寄せ、大森の全身が跳ねた。
震える声で藤澤の名を何度も呼びながら、涙を散らし、快楽に溺れきる。
「涼ちゃん……っ! ああああっ……!!」
「元貴……元貴……っ!!」
2人の声が重なり、塔の最上階は背徳の絶頂に飲み込まれた。
力尽きて、大森は藤澤の胸に崩れ落ちる。
荒い息を繰り返し、頬を濡らしたまま、まだ熱に浮かされている。
「涼ちゃん……好き……」
「……ふふ。 俺も愛してるよ、元貴」
これは、藤澤ではない。
——禁忌の薬師、シェイド。
だが、大森には気づけない。
愛しい人の名を呼びながら、彼は偽りの腕の中で背徳の快楽に溺れていった。
コメント
4件
偽物の方の涼ちゃんだった!? 大森くんはそれにきずいてないのかな?それだったらかなりやばいけど?...ひろぱはきずくかな〜?
シェイド、よくもやったな?あァ゙…いよいよもってもっくんが魔の手に堕ちた…。そんでもって相変わらず展開が凄すぎる…。主様のワードセンスに、私惚れてます。どうしたらこんなにたくさん素晴らしい展開が思いつくんですか…? これからも応援しています✨️本日もお忙しい中、作品更新ありがとうございます!