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「懺悔室の張り紙をすり替えたのはネルとティナのふたりです。予言者の指示でやったと教えてくれました。なかなか口を開いてくれず苦労しましたが、今朝がたになってようやく我々の要望に応じてくれました」
「ネルさんとティナさんが……」
ニコラさんの件もある。もしかしたらと思ってはいた。バルカム司祭の代わりに聴罪を行なっていたふたりなら、張り紙をすり替えるチャンスはいくらでもある。一体彼女たちはどれだけ予言者にいいように使われていたのか。
フェリスさんは現在軍の詰所で保護されているネルとティナのお世話を任されているそうだ。聖堂の様子にも詳しく、養護施設の子供たちとも交流をしていたので適任とされたらしい。それに加えてバルカム司祭の遺書についてや、懺悔室でのニコラさんとの会話内容……予言者の指示を受けて行なってきたことの詳細を聞き出す役割なども課せられている。
「張り紙をすり替えた時期はニコラ・イーストンの失踪が判明したのと同じ頃です。目的などは知らされていなかったようですが、急ぎの指示でかなり焦ったとふたりは語っています。ちなみに文章を書いたのはネルだそうです」
「ネルとティナは張り紙が遺書の偽造に使われることは知らなかったんだな。妙なことをさせられて不信に思わなかったのだろうか」
「はい。彼女たちの中では『予言者の指示には従わなければならない』という、ある種の使命感のようなものが形成されているようです。第三者から見たらそれがどんなに奇妙な行動であっても、彼女たちは疑問を持つことはない。いや、持たないようにされているのか……」
「判断力の低下……これも例の催眠術とかいうやつのせいか」
張り紙をすり替えた当時も、何もおかしいと感じていなかったらしい。ただただ忠実に……予言者の指示をこなしていく。それが犯罪に繋がる行為だとも知らないで……
「ニコラ・イーストンに対しての行動も同様です。懺悔室に訪れた彼女に予言者から託された言葉と……時にはメモ書きなども渡していたそうです。グレッグの情報をニコラ・イーストンに教えたのは予言者で間違いなさそうですね」
こちらに対しての警戒心と予言者にかけられている催眠術の影響か、ネルとティナの証言にはあやふやな所も多いそうだ。それでもフェリスさんが根気強く寄り添ってくれているおかげで、徐々に会話も増えてきているらしい。
「おおよそルーイ先生の想像通りの結果ですね。ふたりの少女がここまで予言者に傾倒しているのは驚きましたが、シャロンに話をしてくれるようになったのは良い傾向です」
「ああ、少しずつではあるが予言者の束縛が弛んできている。それでもまだ時間はかかるだろうけどね。お疲れ様、シャロンさん。大変だったでしょう。申し訳ないけど、もうしばらくの間ネルとティナのことをよろしくね」
「はい。お任せ下さい」
やはりバルカム司祭の死に予言者は関わっていた。しかも、司祭が亡くなる前にネルとティナに偽の遺書を作る準備をさせていたなんて。
遺書は偽物……司祭は予言者に殺されてしまったのか。そうだとしたら何故? 自殺に見せかけようとした理由はなんだ。
「さて、司祭が自殺ではないとすると……遺書をでっちあげようとした予言者によって殺害されたという線が最も濃くなるが……予言者はどうして司祭を消さなけばならなかったのだろうね」
「単純に考えたらスケープゴート……自分の身代わりだろうね。司祭のニセ遺書に書かれていた『すべての罪』ってのが結構ネックだと思う。具体的なことが書かれていないから、どれのことを指すのか分からない。読み手側がいいように解釈できちゃうもの」
その曖昧な文言を利用して、浮上した問題は全て司祭がやったことにしようという思惑があったのだろうと……。司祭本人が死んでしまっているので反論する者もいない。
「予言者はリアン大聖堂に捜査が入った段階で、ニコラさんとグレッグの繋がりや懺悔室の秘密がバレるのは時間の問題だと判断したんだな。自分の身が少しでも危うくなったら司祭に擦りつけて逃げるまでは計画していたんだろう」
「犯した罪に耐えられなくなった犯人……つまり、バルカム司祭は海に身を投げて命を絶ったという筋書き。用意した遺書で自殺を偽装し、犯人死亡で事件の幕引きを謀っていた……ということですね」
司祭をネルとティナのように思い通りに動かすことは出来なかったのではないかとルーイ様は考えている。よって、司祭は予言者の共犯ではなく、本当にただ利用されただけの人であると……
直接会ったことはないし、神官としては色々問題があった人物だとは思う。それでも……予言者の計画に巻き込まれて亡くなったのだとしたら気の毒でならない。
「しっかし、この予言者って奴は何がしたいんだろうね。グレッグみたいに金銭目的の犯罪者って感じでもなさそうだし……めっちゃ不気味」
「まだ奴についての情報が少ない。頼みの少女たちも予言者の正体に関わる発言はできないままだし……難儀しそうですね」
「子供を犯罪に利用して自分は正体を隠してこそこそ逃げ回っているんですよ。ある意味グレッグよりも悪質で最悪ですよ。予言者は!!」
フェリスさんたちが予言者に対しての不快感を露わにしている。魔法を利用して犯罪を行っていたグレッグが最低なのは言うまでもないが、予言者はネルとティナの弱みに付け込んで自分の駒のように扱っていたのだ。後者により嫌悪感が湧くのは仕方ない。
「絶対に捕まえなきゃならないな……こいつを」
レオンの絞り出したような低い声……彼の抑えきれない怒りをひしひしと感じて背筋が震えた。
姿は見えないのに、我々に強烈な印象を与えた予言者……今はどこにいるのだろうか。