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夜が深まるにつれ、部屋の灯りもいつの間にか落とされていた。二人は言葉もなく寄り添い、ただ静けさだけがその空間を包んでいる。
ハイネの肩にヴィクトールの手が置かれ、その温もりが、どうしようもなく優しかった。
「……どうして、こんなにも、貴方は」
ハイネがぽつりと呟いたその声は、まるで自分に問うようだった。
目を伏せたまま、その先の言葉は続かない。
「……なあ、ハイネ」
ヴィクトールの低い声が、夜に溶ける。
一瞬のためらいのあと、彼は苦しげに息を吐いた。
「君に触れた時から……いや、もっと前からだ。ずっと、ずっと──」
その声は震えていた。
まるで、己の罪を告白するかのように。
「……愛しい。」
一言。
ただそれだけなのに、重たく、切実で、どうしようもない痛みを孕んでいた。
「……誰よりも、お前を求めてしまう。教師だと知っていて、王である私が……口にすべきではなかった。許されるはずがない。なのに、私は……」
ヴィクトールの声がわずかに掠れる。
抱きしめる腕にも力が入りすぎて、ハイネは少し息を詰めた。
「こんな想い、してはいけないと分かっていた。それでも、今……君を前にして、何も言わずにはいられなかった」
ハイネはしばらく何も言わなかった。
その顔は見えず、ただ心臓の音だけがふたりのあいだに響いていた。
やがて、小さく、息を吐くように。
「……私も同じです」
「貴方に……愛しいと言ってもらえる日が来るとは思っていませんでした」
その声には、涙と微笑みが混じっていた。
「……でも、これは夢です。貴方も、私も、朝になればまたそれぞれの立場へ戻らねばならない。だからこそ……今だけは、貴方のその気持ちを、誰よりも嬉しいと、そう思わせてください」
ヴィクトールはその言葉に、何も返さなかった。
ただ、もう一度ハイネを強く抱きしめ、静かに目を閉じた。
こうして、愛してはいけないふたりの、夢のような夜は、終わりへと向かっていく。