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とある漫画作品を巡ってネットで大炎上が起こった。「めいちゃんと田中さん」というその作品は、もともとSNSに趣味として投稿されていた作品だった。
とある大手出版社のマンガ編集部が人気に目をつけ、自社の電子マンガ販売プラットフォームで連載を開始した。すると、ダークな内容の割にはじわじわと人気が高まっていった。
当初は「知る人ぞ知る」という程度の、ニッチな作品に過ぎなかったが、その大手出版社がテレビアニメ化を示唆する発表をした途端、SNSでアニメ化の是非について大論争が巻き起こった。
そのマンガ作品は、夜の町で働くいわゆる水商売の女性二人を主要登場人物とする物で、うち一人が知的障碍者ではないか?と思わせる描き方をされていたため、最初は批判、非難のコメントがSNSにあふれた。
「この作者は障碍者への差別を煽ってる」
「人の心ないんか? この作者。めいちゃんがどんどん不幸になっていくのを楽しんでるやろ」
「露悪的過ぎる。出版社も出版社だ、金さえ儲かれば悪影響は知らんふりかよ」
「これ絶対知的障碍者への差別を助長するぞ」
「同感、同感。差別が起きたら作者も出版社も責任取れるんだろうな?」
作品を高く評価し作者を擁護するコメントもあった。
「福祉からこぼれ落ちてる障碍者の現実を描く事には、それなりに意味はあるだろ?」
「マンガを否定したら現実の世の中の差別がなくなるのか? 逆なんじゃねえの?」
「それそれ、障碍者のリアルを知る事こそ大事だろ。現実知らないで差別をなくす事は出来ないんじゃないか?」
だがSNS上では肯定、擁護は数の上では劣勢だった。
否定派の中にいわゆる」社会活動家」がいて、ネット上の署名サイトでテレビアニメ化の中止を求める署名集めを始めた。
作品の内容が、社会の闇を赤裸々に描くストーリーである事もあって、急激に反対する署名が増えていった。活動家たちは集まって署名を、出版社に送り付けてアニメ化のみならず、作品の絶版と市場からの回収まで迫った。
その出版社の編集部の会議室では、編集者たちが送りつけられた反対の署名のハードコピーを前に頭を抱えていた。
「まさか、これほど多くの反対署名が集まるとは。そんなに悪質な内容のマンガではないと思ったんだが」
編集長がそうぼやき、副編集長が相槌を打った。
「まったくです。これはアニメ化中止もあり得るかと……」
数人の若手編集者の一人が、おずおずと発言を求めた。
「あ、あの……ひとつ気になる点があるんですが」
編集長が真っ青な顔になって問いかけた。
「何か、他の問題があるのかね?」
若手編集者は手元の資料を見ながら言った。
「この作品の累計販売部数って、約二百万部でしたよね? 電子版も含めて」
編集長は答えた。
「そうだが、それがどうかしたのか?」
若手編集者は首を傾げながら言った。
「集まった反対の署名が五百万筆……あのマンガ読んだ事がある人の数より、反対の署名した人の数の方が多い事になるんですけど、これどういう事なんでしょう?」
コメント
1件
読み終えました。この第1話、めちゃくちゃ面白い仕掛けでしたね。 まず、SNSの炎上構造を「賛成派・反対派のコメントの羅列」だけで描き切る手腕が鮮やか。地の文を極力排して、読者に「今、ネットで起きてる光景」を疑似体験させるスタイルに引き込まれました。 そしてラストの若手編集者の指摘——「累計200万部に対し、反対署名500万筆」。この数字の矛盾が、あの賛否両論の渦そのものをひっくり返す。読んだことのない人たちが「社会的正義」の名のもとに署名してる皮肉。社会の良識って、結局「空気」なんだよな…とぞっとしました。 設定の組み立て方が秀逸で、続きが気になります。この矛盾に編集部はどう気づくのか、あるいは気づかないふりをするのか。