気がつくと一気に時間が過ぎていて、学校を出て駅に向かっていた。
美術室で寝るなんて失態だ。
一度言おうとしたのに何も言えていない。
もうすぐ駅に着いてしまいそうで、歩く速度を落とした。
「どうかした?」
一気に速度を落としすぎて不自然になってしまった。
「え、ああ、ううん」
愛衣ちゃんに、わかった、と言った。
右手を掴まれた感覚が残っている気がして、軽く握って、また開いた。
宇治は私の歩く速度に合わせてくれたが、すぐに私は歩く足を止めた。
「あの」
今言い切らないと。
「うん」
相槌の声が優しくて、嫌だった。
「花火、愛衣ちゃんと行ってほしい」
数秒の沈黙があった。
「なんで?」
「愛衣ちゃんきっと、勇気出して誘ったと思う」
「だからって、なんで幡中が決めるの?」
「、、決めるのは宇治だよ。でも、お願いしてる、行ってほしいって」
「、、行ってほしいって、何?」
ずっと、落ち着いた声だった。
「愛衣ちゃん宇治と行きたかったんだよ、頑張って誘ったけどだめで、ショックだったと思う、、あ、…今日休んだのも、多分それだと思うよ」
これは、機転が利いた。
「お願い、行ってあげて」
宇治は何も言わず歩き出した。
「、、宇治」
早歩きで隣まで並んだ。
そのまま駅の改札を通ってしまったが、ホームへの階段の手前でようやく止まってくれた。
「わかった」
━━まもなく、3番線に直通電車が到着します
宇治はそのまま階段を上っていったが、その電車が発車するまで私はホームに上がらなかった。
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