赤津は、机に置いた紙をパラパラとめくり ながら、片手間で千春に話し始めた。
「 キミが今から入るこの特葬課は、 略称でね。 略さずに言うと、 “特殊人類殉葬課” という ‥知っての通り、 死呪人の抹殺、 確保を目的としている 」
「 待ってください、 “確保”ってどういうことですか? 輝夜は撲滅するとしか… 」
「 そうなのかい? 輝夜クン 」
「 はい、 詳しいことは何も伝えてません 」
「 そうか、 まあいい‥ それで、 千春クンの質問についてだが… 基本、 凶悪な死呪人は確かに抹殺、 撲滅するのが目的だ、 ‥だが、そうでない死呪人もいる。この特葬課は、彼らを確保し、治療、研究を行うこともしているんだ」
千春は驚きを隠せなかった。 千春はてっきり、特葬課とは、 死呪人をた だ抹殺し、減らすことが目的だと思ってい た。 しかし、この特葬課は、 一部の死呪人に対しては 平和的な手段を取 り、 彼らを救おうとしていることを知った。 赤津は千春の反応を見て、微笑んで言っ た。
「 我々の仕事に関するおおまかな説明は、 一旦ここまでにしておくよ。キミ自身が特葬課の一員になり、 経験を積んでから、 自分で判断しろ。 それが、 この特殊な業務に関する最初の掟だ。 ただし、これは守ってくれ。 死呪人を独断ですぐに殺害するのだけは、やめてほしい。 どんな死呪人が今後生まれる可能性があるかが、 分からなくなってしまうからね。 」
「 どういうことですか? 」
「 死呪人は、 死ぬと別の場所で同じ死因により死んでしまった別の人間に、 呪いが移ってしまうんだ。 だからなるべく、 どんな死因なのかを分かった状態で殺さなければ、 次の死呪人を探すのは困難になってしまう。 だからもし、 こちらが把握している死呪人以外の死因を持つ死呪人がいれば、 報告をしてほしいんだ 」
「 なるほど、 分かりました。 それで、 僕はこれから何をすれば? 」
「ああ、 そうだった、 忘れてた。 この紙に、 サインをしてくれないか。 これを書かないと加入許可を出せなくてね 」
そう言って、赤津は、手元でめくっていた 紙のうちの1枚を、千春に手渡した。 特に疑うことも無く、サインをした。 おおまかには3つ、書かれていた。
【1】:特葬課に所属する者は、 本部長及び 副本部長に従うこと。 本部長がいない場合、副本部長に従うこと。
【2】:昇進などは存在しない。 ただし、本部長が推薦する場合には、 それに準ずること。
【3】:保護、管理している死呪人および 所属している死呪人は、 副本部長に管理者権限が与えられること。
最後の部分だけ少し気になったが、 特に問題は無いように思えたので、 サインした。 すると赤津はサインした紙を見て、
「 ありがとう、 助かるよ、 これで上から何も言われなくて済む 」
と言った。千春はすぐさま聞く。
「 えっ… 上って、 百田さんが1番偉いんじゃ…? 」
「 特葬課は軍の管轄下だ、そもそも公式には認められていない。 初めは僕と百田だけだったしね 」
軍?ということは、 ここに来るために 入っ てきたこの場所は、軍の施設なのか、と 千春は考えた。それなら部署が小さいのも 頷ける。1人で納得して考えていると、 赤津が机の引き出しから札くらいの大きさ の鉄の板と、“観覧チケット”と書かれた 紙を取り出し、 千春に手渡しながら言った。
「 これを持って、 特葬課のもう1人のメンバーに会いに行って欲しい。 その人がそれをいいものにしてくれるはずだ ‥話は通しておくから、気にしないでくれ。 ここから約10分程の場所にいる。 地図を渡そう 」
そう言って渡されたのは、 詳しく書かれすぎて逆に分かりづらい 地図 だった。店や道の長さなど、 ギッシリと文字が書かれており、 肝心の道順がかなり分かりづらい。 とはいえ文句を言うわけにもいかないの で、口をつぐんで受け取った。
少し歩いて、何とかたどり着いた。 そこまで距離が離れていなかったのが幸い だ。着いた場所は、歌舞伎や落語をやるよ うな、劇場だった。 と言っても、あまり大きいとはいえず、 中に入ると、小さな受付に年老いた老婆が おり、チケットを渡すと、 中に案内された。すでに、その催し物は始 まっているようだった。 その証拠に、ステージに人がいる。 赤い着物を着て、華々しく舞うその女性 は、綺麗なピンク色に染まった長い髪を着 物の動きに合わせてなびかせる。 背丈は観客席からだとよく分からないが、 千春より少し高いような気がした。 見ている暇はない、と思いつつも、思わず 見入ってしまった。 おそらくクライマックス、というところ で、着物の女性が口に手をあてる。 息を吐くような動作とともに、爆炎が口の 辺りから出現する。凄まじい迫力だった。 とても作り物などのようには思えない。 その後礼をして、催し物は終わってしまっ た。
「 本日は私、 “花咲 椎名” の公演に来ていただき、 ありがとうございます! 」
そう元気よく女性が言うと、 パチパチとまばらに拍手がなる。 あまり見ている人は多くないようだ。 千春は少し強めに拍手をする。 するとそれに呼応するかのように、 彼女が千春の方へ体を向けた。
「 あれ! ご新規さん? 誰の紹介? 若いね! 」
自分に話しかけている、と気づいたのは、 少ししてからだった。彼女は続ける。
「 私の公演、 どうだった? 」
千春は、劇場という自分の声が響く場所 で、感想を言うのが少し憚られ たが、正直に答えた。
「 とても、 良かったです! あの最後の炎、 すごく綺麗でした! 踊りもすごくこう、 美しくて! 」
「 わぁ嬉しい! ありがとう! 」
そう言いながら明るくニコッと笑う笑顔 に、思わずドキッとした。
「 どうして、 私の公演を見ようと思ったの? というか、よくチケット手に入れられたね、 私、 あんまり有名じゃないのに‥ 」
そう言いながら苦笑する彼女に、 千春は答えた。
「 いえ、 知り合いの人から貰って‥ 実はここには、 人に会うように言われたので来たんです 」
「 へぇそうなんだ! なんて人? 」
「 それはわからないんですけど、 特葬課の人を探してるって言えば、 そこの人が案内してくれるって、 知り合いの人から言われたんです 」
「 ………………特葬課? 」
それを聞いた途端、彼女の顔が曇る。 千春の元に彼女は近寄り、耳元で囁いた。
「後できて」
それを言ったあと、彼女は元気よく、
「本日はありがとうございました!」とほか
の観客を見送った。千春も他の観客の後に 続いて一旦出ようとすると、 受付の老婆に 待っておくよう言われたので、 そこで待つことにした。 程なくして現れたのは、短パンにTシャツ というラフな服装に身を包んだ先程の女性 だった。千春が口を開こうとすると、 彼女はかなりの剣幕で千春をさえぎった。
「 特葬課の用事は、 私の公演があってない時にしてって言ったはずよ! 来なさい! 」
そう言って、千春の首根っこを掴み、 抵抗する千春を、劇場の奥へと引っ張って いってしまった。
コメント
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続きが気になりますヨ〜〜!!
初コメ失礼します!! 死呪人の設定が面白すぎて、つい最新話まで読んでしまいました…!! また更新楽しみにしてます!!