テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
1,258
ほしのはな
238
#ご本人様とは一切関係ありません
noa.

751
#さのじん
さき
1,284
後編です。
塩レモンに夢見てます※さのじんです
「「「「追いかけろ!!!!」」」」
何故か神崎まで混ざった四人からの怒号に押されるように、佐野は楽屋を勢いよく飛び出した。
走る足とは裏腹に、脳内は目まぐるしく回転している。
(…えっ、えっ…!!仁人は俺のこと…?いやいやまさか!?)
それでもあの怯えたような表情、溢れ落ちそうだった涙に佐野もそこまで鈍感にはなれない。自分に対して、単なる「メンバーとしての情」以上の感情を抱いていることは、ほぼ間違いなかった。
(待って!!これはまじで予想外のドッキリなんですけどぉ!!)
佐野自身、M!LKというグループとメンバーを何より愛しているし、十年以上も一緒にやってこられたのは強固な絆があるからだ。吉田も同じ気持ちだと信じて疑わなかったが、もしその「愛の形」が、少し違っていたとしたら?
確信は九十パーセントまで跳ね上がっているが、残りの十パーセントが「あの仁人が?」とブレーキをかける。
吉田はファン向けの動画などでは「普通にいつかは結婚するでしょ」「恋人には甘えたい」と言ったりするものの、プライベートではグループの中で一番恋愛から遠い場所にいる男だ。隠しているというより、そこまで積極的ではないしその気がないようにも見える。自分の繊細で面倒くさい性格を他人に理解してもらえるはずがないと、どこか達観している様子すらあった。
佐野達の過去の恋愛話には「また自慢?自慢師でしょ?」と拗ねるくせに、興味がないのかそれ以上深入りして聞き出すこともせず、自分自身を恋愛の当事者として話すこともない。
そんな吉田が、佐野の「結婚報告」がドッキリだと明かされた瞬間に泣き出したのだ。あれはどう見ても、祝いの涙などではない。
ふと、歩みを進めていた佐野は自分の顔に違和感を覚えて足を止めた。
頬の筋肉が、勝手に上がっている。
(……え、待て待て、俺……笑ってない…!?)
手のひらで口元を覆うと、ニヤけそうになるのを抑えきれていない己の表情に愕然とした。
もしかして俺、嬉しいのかもしれない……。あの仁人が俺のせいで泣くって。そんなの……ずるいってぇ!!!
(これ以上考えたら、なんか違う扉開きそう……!!)
佐野は慌ててブンブンと首を振り、自分の中に芽生えた謎の感情を払いのけるように再び歩き出した。
(財布も携帯も持ってないんだから、自販機前とかじゃない……。)
目星をつけ人通りの少ない地下へ降りると、そこは今にも点滅しそうな照明が付いた薄暗い廊下だった。普段は使うことのない段ボールや錆びついた備品が乱雑に積み上げられており、人が足を踏み入れることは滅多にない。
その行き止まりとなった廊下の突き当たりに、段ボールの影に膝を抱えてすっぽりと埋もれるように丸まっているリーダーの姿があった。
「……仁ちゃん。」
呼びかける佐野の声が小さく廊下に響いた。
◇
一方、楽屋では——。
佐野が飛び出していった背中を見送り、誰かが深々と息を吐いた直後、番組スタッフ達がハッと我に返った。
「……あっ!!カメラ持って追いかけないと!!」
その瞬間、塩﨑と山中が慌てて制止に入った。
「あかんあかん!!待っといてください!!」
「俺でも分かります、今は絶対ダメです。」
「でも、撮れ高が……!!」
「今行ったら俺ら確実に牛に蹴られて死んじゃいますって。」
「そうや!夫婦喧嘩は犬もいらんって言いますやん!!」
「……あれ?太ちゃん、夫婦喧嘩って犬に蹴られるんじゃなかった?」
「え?じゃあ牛に蹴られるのは誰や?」
「二人とも何混ぜこぜにしてんねん!『馬に蹴られて』と『犬も食わん』や!あと太ちゃん、それ以前に二人まだ付き合ってもないから夫婦喧嘩ちゃうわ!あかんツッコミ追いつかへんし仁ちゃんやっぱり帰ってきてえぇ!」
曽野のツッコミが楽屋に響き渡り、マネージャーは「んなこと言ってる場合かぁぁぁ!!」と頭を抱えて叫んだ。
「あーーー!!どうしよう!!社長になんて言おう!?これってやっぱりそういうことなのか!?てかこれどう収集つければいいんだよ!!放送どこまでできるんだ!?」
「うちとしては、是非オンエアしたい熱い展開ですけどね。」
さすが伊達に長年ドッキリ番組を手掛けていないスタッフ、肝が据わっている。
「放送できるかぁ!!炎上どころの騒ぎじゃないわ!」
「まーまー!マネージャー!なんとかなるって、あの二人やったら!」
塩﨑の言葉に、山中がすっと目を細めて問いかけた。
「……な〜に太ちゃん、その言い方だと最初から分かってたっしょ。」
「柔の言う通りや!太ちゃん、仁ちゃんの気持ち知ってたん?」
曽野からも詰め寄られ、塩﨑は気まずそうに「んぁ〜〜…」と声を漏らす。ここまで来たら吉田の気持ちはバレバレだが、本人が不在の中なんて言ったらいいかわからず頭を掻いて天井を見上げた。
その時、ずっと状況を見守っていた神崎が、腕を組んでふっと溜め息をついた。仕掛け人として呼ばれたはずが、とんでもない愛の修羅場に立ち会ってしまった神崎はこりゃ面白いもの見たな、と笑みを浮かべた。
「…マネージャーさん。カメラはここまででお願いできます?」
神崎の一言に、マネージャーがハッと顔を上げた。
「神崎さん…すみません、巻き込んじゃって……。」
「い〜え!全然!でも勇斗くんも罪な男だねぇ。あんなに一途に想われてるのに全然気づいてないんだもん。……あ、スタッフさん?」
神崎はスッとカメラマンの前に立ち塞がると、凛とした笑顔でピシッと人差し指を立てた。
「ここから先は『ドッキリの撮れ高』じゃなくて、男二人の人生の『ガチ本番』だから。追いかけるのは野暮ですよ?」
「……うぐっ。」
人気女優からの顔面の圧と説得力に、カメラマンも思わずレンズを下げるしかなかった。
「……ま、勇斗くんならちゃんと向き合って帰ってきますよ。ね?」
神崎がメンバーにウィンクしてみせると、塩﨑は「ほらな!」と得意気に胸を張り、山中と曽野もさすが大女優…とパチパチと拍手をしつつ深く頷くのだった。
◇
「…仁人。迎えにきたよ。」
もう一度声をかけると、薄暗い照明の中でも吉田の肩が震えているのがわかった。
「財布もスマホも忘れたおっちょこちょいな仁ちゃんのために優しい優しい勇ちゃんが奢ってさしあげよう。」
「…うっざ。」
茶化したふうに言えばこんな状況でも掠れた低い声で悪態つく吉田にふはっと声が漏れる。
少しずつ距離を詰め、いまだ小さく蹲ったまま顔を見せない吉田の前にしゃがみ込んだ。そっと耳元の髪を撫でつけると、じんわり汗をかいたのか、毛先がしっとりと肌に張り付いている。
触れられた耳元がぴくっと跳ね、吉田の肩が大きく跳ね上がった。
(……どんだけ焦って逃げたんだよ。)
そうさせたのは俺なんだな、と実感した瞬間、胸の奥が妙に熱く、むず痒くなる。
先ほどからこの湧き上がってくる感情が何なのか、自分でもまだよく分からない。好きとか愛おしいとか、そんな明確な言葉で括るには甘くて重すぎる何かが、喉の奥に引っかかっている。
「…仁人はさ、俺が結婚するって聞いてどう思った?」
「ごめん、その話本当に蒸し返さないで。まじで無理。俺、どうかしてたの。」
顔を腕に隠し膝に埋もれたままくぐもった声でなかったことにしたい、忘れてほしいと懇願する姿に少しの苛立ちが芽生える。
「ふぅん。俺はね、仁人が俺のこと好きだから結婚してほしくないのかなと思った。」
「……そんなわけないでしょ。」
「でも俺はそういう風に捉えたよ。」
「お前の勝手な勘違いと、圧倒的な自惚れ。」
「勘違いじゃないと思うんですけどぉ。」
「思い込みの激しさと論理の飛躍がすごすぎる。しつこい。まじで嫌。」
ポンポンとツッコミが返ってくるやり取りに、少し楽しくなってきた。
「仁人。俺はさ、お前に好かれてるって思ったら素直に嬉しかったのよ。」
「……。」
「…嬉しかった。自分でもびっくりするぐらい。『結婚しないで』って泣く仁人に。」
「……そんなこと一言も言ってないし、泣いてなんかない。勝手な妄想で都合よく捏造すんな。」
強がりで突っぱねようとする吉田に、佐野はふっと息を漏らす。
この暗がりで自分の指先に震える吉田から、これ以上一歩も引きたくなかった。茶化すのはやめて、胸の奥にある真っ直ぐな本音を届けるように、一言一言噛み締めて言葉を紡ぐ。
「ねぇ仁人、今すぐ答え合わせはできないけど。お前からもらった気持ちが嬉しかったのは本当だからさ。仁人と同じ気持ちで返せるまで、もう少し待っていて欲しい。」
「……。」
少しの沈黙の後、吉田が恐る恐る顔を上げた。
ハーフ系のはっきりした綺麗な顔立ちに少し開いたぽてっとした唇、目元は泣いた後がわかるように少し赤い。体温が上がると耳まで赤くなるため、白い肌が一層際立つ。潤んだ瞳の奥と触れた指先から吉田の熱を感じて佐野の胸の奥も小さく跳ねた。
「…勇斗。」
「…うん。」
自信なさげにタレ目がよりいっそう下がった顔で小さく呟く。
「すごい我が儘なんだけど……今はまだ…もう少しだけ……結婚しないで…。」
ちゃんと心の整理するから、と。
ぽつりと落ちた、あまりにも無防備で切ない本音。
思いがけない吉田からの言葉に、先程よりも佐野の胸が大きく跳ね上がる。
「結婚しないで」と自分を求めてくれた事実の嬉しさに一瞬頭が痺れた——が、同時に激しい違和感と「は??」という困惑が脳内を駆け巡る。
待て待て待て。なんで「待ってて」に対しての返しに「心の整理をするからまだ結婚しないで」になるんだ??
嬉しさと混乱が交差する中、佐野は呆気にとられたまま吉田を見つめた。
…その言葉はまるで、
「……待って、仁ちゃんって片想い期間楽しめないタイプ?100%勝てる勝負しかしないタイプ?はなから恋愛諦めるタイプ?」
今の俺の返事はどう見ても「お前のこと意識し始めてる、これからだんだん好きになっていくから待っててね♡」だろーが!!!どっちかというと前向きな告白の返答だろうがよ!
何諦めモード入ってんのこの子!このビビりチワワ!!!キョトンした顔で見てくるんじゃねぇよ!!
「あ、あのさぁ、仁人?」
「……なに。」
「だ・れ・が『諦めていい』って言ったよ!?」
「うぁっ?痛っ、勇斗、急に力ずく——、」
いまだ顔を隠そうとする両腕を強引にバンザイをさせて引っぺがす。そのまま両手でもちもちのほっぺを掴む。
「むぐぅっ!」
「『心の整理するから』じゃねえのよ! こっちは『お前のこと意識し始めてるから待ってて』って言ってんの!なんで勝手に自己完結して綺麗に思い出にしようとしてんの!?」
「べ、別に自己完結なんて……っ。」
「してんだろ!!リーダーのくせして諦め早いねん!十年以上やってきたメンバーだから?男同士だから?自分の繊細な性格がどうたらこうたらとかウジウジ考えてんだろ!?舐めんな!お前がその気なら、俺がお前を完全に落として降参させてやっからな!?」
「……はぁ???何そのジャイアン思考…!」
ほっぺをむにむに揉まれながら理不尽すぎる暴論に、吉田は大きな目を丸くして完全に固まった。
「仁人は『勇斗かっこいい♡しゅきしゅき♡』ってキュンキュンしながら待ってればいいの!分かった!?」
「分かった!?じゃないよ!!なんなのその上から目線!意味分かんないんだけど!!てか俺の解像度ひっくぅ!!誰だよそいつ!!きっしょお!!」
「返事は!?」
「っ……分かったよ!!もう!!待てばいいんでしょ、待てば!!」
怒気を含んだ吉田の叫び声が、薄暗い廊下に響き渡る。
佐野は満足そうに「よし、いいお返事です」と満足気な笑みを浮かべると、叫びすぎたのかそのまま脱力してへたりと座り込む吉田の手首を掴み、ぐいっと立ち上がらせた。
「ほら、帰るぞ。みんな待ってる。」
「…手、離して。誰かに見られたら……。」
「やーだね。お前また逃げるじゃん。」
強引に指を絡められ、吉田は顔が爆発しそうなほど真っ赤になりながらも、繋がれた手を振り払うことはできなかった。
◇
吉田が楽屋を出ていく際に「飲み物買ってくる」と宣言した手前、手持ち無沙汰なのはアレだろうと、二人は自販機でメンバー分の飲み物を購入してから戻ることにした。勿論佐野の奢りで。
まだ顔から熱が抜けきらず、赤みを帯びた顔で気まずそうに横を歩く吉田をチラリと盗み見る。
(ここから、どーしよっかな…。)
佐野が考えている「どーしよう」は、潰れかけたドッキリ番組のことではなく、これからの二人の関係の進め方についてだ。
「……戻るの気まず……。番組もおじゃんだろうし、俺どうやって責任取ろう…。」
横でうだうだと呟いている吉田に対し、佐野の頭の中はすでに「この逃げ腰チワワをどうやって観念させようか」ということでいっぱいだった。
この状態の吉田に、「今さっき好きになったから付き合ってくれ」と言ったところで素直に了承するはずがない。
そもそも佐野自身、吉田に対するこの感情が『恋』なのかどうかすら、まだ手探りの状態だ。
ただ、今日の出来事をきっかけに吉田を強く意識し始めたのは紛れもない事実で何より、この胸の燻ぶりが冷めることなど絶対になく、むしろ勢いを増して膨らんでいく一方だという確信だけはあった。
もし自分のこの自覚が遅れていれば、吉田がどこの馬の骨かも分からん知らん奴に掻っ攫われていたかもしれないのだから、そう考えるとゾッとする。
佐野が今まで一ミリもそんな素振りをみせてこなかったのは吉田も分かっているはずだし、いきなり態度を変えられても困惑するだけだろう。
ならば、このドッキリ企画を最大限に利用して外堀を埋め、自分から逃げられないようにするのが一番だ。
(メンバーやマネージャーにバレたことは幸いだな…。話も早くて好都合。)
自身の本心と向き合いながら気持ちはおいおい伝えていくとして、まずは周囲からじわじわと固めていこうと策を巡らせる佐野であった。
腹を空かせた狼の檻に自ら進んで足を踏み入れているなんてそんなこと一ミリも気づいていない吉田を横目に。
(——仁人はよく知ってるだろ?俺が走り出したら止まらないこと。)
◇
楽屋に近づくと廊下にメンバーの三人が立っていた。こちらに気づき、二人揃って戻ってきたのを見て安堵の表情で駆け寄ってくる。
「あ!戻ってきた!おかえりぃー!」
真っ先に吉田へ駆け寄った塩﨑は、抱きしめる勢いで両手でしっかりと吉田の肩を寄せる。
「仁人ぉ!!顔なんか疲れてへん?真っ赤やん!大丈夫?無理せんといてな!」
「あ……太智。うん、ありがとうな。みんなも迷惑かけて、本当にごめん…。」
「ええんやって!!」
自然と塩レモンだけの空間になり、それを佐野、山中、曽野の三人が見守る形になる。
「……な〜に?太智ってさ、ドッキリの最中もやけに仁人のこと気にかけてたよね。」
ほんの少しだけ嫉妬が顔に出る佐野に、山中と曽野が苦笑いを浮かべた。
「まーまー、同期組でしか分からない空気感があるんだと思うよ。」
「で?それより結局どうなったん、二人は!」
『あ、』
なんて説明しようか佐野と吉田が迷ったその瞬間、楽屋のドアがガチャリと開いた。中にいたマネージャーが顔を出す。
「……戻ったか。とりあえず早く中に入りなさい。」
全員が一旦席につく。
マネージャーから、ゲストの神崎はこの後別現場の撮影があるため、夕方に再度合流することと、番組スタッフ達にも一旦退室してもらったことが説明され、吉田はますます責任を感じて小さく縮こまってしまった。
そんな吉田の様子にマネージャーが深く息を吐き出す。
「……で?君らは結局どういう関係になったの…?付き合うとか…いや、まぁ二人の空気感見ればなんとなく察するというか、正直察したくないんだけど……マネージャーとしてちゃんと聞くから。」
佐野はさらりと、当然のように答えた。
「あ、付き合ってはないっすよ。」
「「「「え!??!」」」」
マネージャーとメンバー三人の叫び声が楽屋に響き渡った。
『付き合ってない』=『吉田がフラれた』と脳内変換した塩﨑は、顔をさーっと青ざめさせると、隣に座る吉田を思いっきり抱き締めた。
「よ、よ、吉田さぁあん!!!大丈夫やで!!俺がおるからな!!佐野さんのことは俺が忘れさせたるから!!」
「むぐっ……だ、だいぢ…苦ひ……!」
鍛え上げられた塩﨑の筋肉質な腕と胸筋に顔を埋められ、息ができずに背中をバンバン叩く吉田。その光景に、佐野が慌てて割って入った。
「ちょちょちょ!!!違う違う!!『まだ』って話!!てかどさくさに紛れて寝取り発言すんな!! 」
「は〜? 『まだ』ってどういうこと? 付き合ってないのにすでによっしーに対して独占欲丸出し彼氏ヅラしてんじゃん。」
「俺の中で『まだ好きかも?』って状態だから、ちゃんと好きになるまで待ってて欲しいって伝えたの!」
「えー……なんやそれ。」
「「すでに好きじゃん。」」
山中と曽野の、呆れと哀れみのこもった声が綺麗に重なる。
「もうお前ら『MajiでKoiする5秒前つーか付き合う5秒前』じゃん…。」
マネージャーは深くため息をつき、頭の中で名曲を再生させながら現実逃避した。(帰ったら広末涼子の歌を聴こう……。)
◇
あの後、ドッキリ番組はさすがに一部撮り直しとなったが、企画の方向性をガラリと変えることになった。
本来は「グループ内に緊迫感を持たせた撮れ高」を狙っていたのだが、神崎にも番組スタッフにも佐野と吉田の関係性(というより吉田の片想い)が完全にバレてしまったため、いっそそっち方面に舵を切った方が面白いだろうと、『さのじん』に焦点を当てた特別台本へと切り替わったのだ。
ちなみにマネージャーは最初、ドッキリ後の世間の反響や二人の関係性が大っぴらになることを恐れていた。
しかし、もう腹を括ってヤケクソになったのか「今後のYouTubeやTikTok用にさのじん動画撮るからね」と、すでに次のコンテンツ作成をマーケティング部へ依頼しているようだった。どんな状況でも広報活動に一切の抜かりがないあたり、さすが我がグループのマネージャーである。
まずは騒動の元凶となった二人で神崎と番組スタッフと合流した際に、改めて深々と頭を下げて謝罪をした。
しかし神崎からは、「ううん全然!めっちゃ面白かった……じゃなくて、吉田くんのこと応援してるからね!」と満面の笑顔で肩を叩かれ、番組スタッフ達からは「いいもの見させてもらいました。リアルさのじん良き……。」などと、要らん感想と共に生温かい目で見られる始末。
この時点で吉田は居た堪れなさが最高潮になり、今すぐ仕事を放り出して逃げ出したくなる。
(社会人なのでしませんけども!全ては感情を制御できなかった自分の行いのせいですけども!)
そのまま全員で打ち合わせを開始するが、ネタバレ状態の打ち合わせをするため、最早ドッキリでもなんでもないことに誰か突っ込んでくれと、変更された台本(でかでかと赤い文字で『さのじん!』と書かれている)を読みながら吉田は死にたくなった。
「じゃあ再度流れを確認しますね。
2.メンバーの皆さんがオーバーリアクションで驚き、祝福する。
3. 吉田さんだけが異常に動揺する。
4. 神崎さん登場の挨拶から、吉田さんが動揺して『飲み物を買う』とドアを開けた瞬間スタッフがネタばらし。
という形です。」
番組スタッフが進行の流れを確認し、全員がふんふんと真剣な顔で打ち合わせをしながら、吉田だけがちょっと待って!!と声を荒げた。
「流れ全く一緒じゃん!!!何をどう変更よ!?」
「いやー、でも吉田さん、俺最初の方全然リアクション取れてへんで?アレはバラエティ担当として失格やわ!次は大げさに床にすっ転ぶとかやった方がええか?」
「ねぇ、聞いて!太智味方してよ!あなたさっきまで味方だったでしょ!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ塩レモン。最初のドッキリでちゃんとしたリアクションが取れなかったことを、塩﨑は本気で気にしている様子だった。
「私はライバル感を足してった方が面白いかなと思うんだけど。元カレと今カレの対決、みたいなイメージで『これかも見守ってくださいね?』とかこう、マウント取りつつ吉田くんの目を伺うように見る感じでさ。」
「よっしーと対面した時『私の男に近寄るなよ』って威圧した感じで勇斗ちゃんの腕に手を添えるとか面白くないですか。」
「あ、俺らが二人ともラブラブやんな!ってさらに囃し立てるのはどうや?」
「より吉田さんの悲壮感が増しますね。それ、採用しましょう。」
神崎とメンバーが次々とアイデアを出し、スタッフがいいねと太鼓判を押しながら台本に書き込んでいく。神崎と佐野は完全に女優・俳優の目になり、綿密に立ち位置や言葉の間の取り方などを打ち合わせをしていた。
「吉田くん、ちょっと彼氏に接触するけどOK?」
「仁人大丈夫?お前が嫌ならやめるけど。」
神崎と佐野の言葉に、吉田は真っ赤な顔で叫ぶしかなかった。
「彼氏じゃありません!!!!」
ちなみに、最初に撮影された際に吉田が起こした過剰な動揺、ドジっ子連発、挙句半泣きで楽屋から逃走しようとするシーンは綺麗に編集で繋ぎ合わされ、そのまま本編で使用されることになった。
「吉田さんは特に撮り直す必要ないですね。他のメンバーさんだけリアクションを撮り直しましょうか。」
「なんでぇ!?!」
意気揚々と伝える番組スタッフの言葉に、吉田の叫び声だけが楽屋に虚しく響き渡った。
オンエア後。
『さのじん』というワードが、かつてないほどSNSでも世間でもバズることになったのは、言うまでもない。
おわり。
コメント
13件
最高な作品をありがとうございます!! 終始ニヤニヤでした!!

後半も最高でした。。 リアルにこの番組観たかったです…笑 番外編もあるの嬉しすぎます!

かわいい🩷💛のお話ありがとうございました!相棒の💙も大好き!