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2,011
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魂審問庁の法廷に、重い鐘の音が響いた。 白い霧が割れ、ひとりの男が姿を現す。
黒いパーカー。 ブランド物のスニーカー。 スマホを握りしめたまま、状況が理解できずにキョロキョロしている。
黒沼 翔(くろぬま しょう)・27歳。 生前は“転売ヤー”として生計を立てていた男。
裁判長が静かに告げる。
「被告、黒沼翔。前へ」
男は不満げに眉をひそめた。
「なんすかここ……? 俺、死んだんすか?」
検事が淡々と答える。
「あなたは、深夜の行列でのトラブルに巻き込まれ、死亡しました。 だが本裁判では死因ではなく―― あなたの“生前の行い”が審理対象です。」
黒沼は鼻で笑った。
「転売って悪いんすか? 需要があるから売ってただけっしょ。 買えないやつが悪いんじゃないすか?」
検事は冷たい目で言う。
「では、証拠映像を提示する」
光が広がり、黒沼の生前の記憶が映し出される。
・限定ゲーム機を大量購入し、子どもたちが泣いている横で笑う黒沼 ・医療用マスクを買い占め、値段を10倍にして売る黒沼 ・イベントチケットを転売し、正規のファンが入れずに泣く姿 ・“買えないやつが悪い”とSNSで煽る投稿
黒沼は顔をしかめた。
「……いや、でも……商売っすよ? 俺、法律違反とかしてないし」
検事が鋭く切り込む。
「法律ではなく、魂の審判だ。 あなたの行為は“他者の欲望と不安を利用し、利益を得る”もの。 その結果、多くの魂を傷つけた。」
裁判長が問う。
「黒沼翔。 あなたは、自分の行いに後悔はありますか」
黒沼はしばらく黙り、 やがて小さく肩をすくめた。
「……後悔なんて、してねぇっすよ。 俺は俺のやり方で稼いだだけ。 文句あるなら、もっと早く並べばいいんだよ」
法廷が静まり返る。
検事はため息をついた。
「では、判決を」
裁判長が槌を高く掲げる。
「黒沼翔。 あなたの魂は――有罪」
黒沼が目を見開く。
「は? なんでっすか!」
裁判長は淡々と告げる。
「あなたは“他者の不幸を利用して利益を得る”という、 魂を曇らせる行為を繰り返した。 その心は欲望に支配され、光を失っている。」
黒沼は叫ぶ。
「ふざけんなよ! 俺は悪くねぇ! 買えないやつが――」
裁判長の槌が鋭く響く。
「黙りなさい。 あなたの魂は、しばし“反省の領域”へ送還する。 そこで、あなたが奪った者たちの声を聞くがよい。」
足元に黒い穴が開き、黒沼の身体が沈んでいく。
「や、やめろ! 俺は悪くねぇ! 俺は――!」
叫び声は闇に吸い込まれた。
裁判長は静かに槌を置く。
「――黒沼翔の裁判、これにて終結」
法廷には、再び静寂が戻った。