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もう傷つけられたくない彼女と、誰かを傷つけられない僕。夏梅には自分がないのかと彼女にはしょっちゅう怒られたけど、表面上でも僕らが決裂せず当初の関係を維持できたのは二人の性格が正反対だったからだ。
もし自己主張の強い者同士だったらとっくにケンカ別れしていただろうし、自己主張の弱い者同士だったら――
そもそも恋人同士にもなれていなかっただろう。
僕はクラゲ。どんなに長い話でもがまん強く話を聞いてくれる僕は、彼女にとって最高に都合のいい存在だったに違いない。
でも一度だけ彼女を泣かせてしまったことがある。僕のせいではない気もするけど、泣いた彼女が僕のせいだと言うのだから、きっと僕のせいなのだろう。
自殺騒動から一ヶ月が過ぎていた。僕らは毎日お昼ごはんを屋上で食べていた。ただ、六月中旬のその日は雨だったから、校舎内の誰もいない空き教室を探して、そこで食べていた。
その日の話題は宮沢賢治や金子みすず。彼らの詩が素晴らしいという話ではなく、いくら素晴らしい詩が書けても、死んでから認められたって意味がないという主張だった。
「作者としては残念だろうけど、彼らの作品に触れられる僕ら読者にとっては意味があったんじゃない?」
ちょっと疑問を呈してみたら、
「夏梅は何も分かってない!」
とそこから十分以上反論された。彼女が求めるのは正しさや道理でなく、無条件の共感。分かっていたのにヘマをしてしまったものだ。