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その遊女は人目を引く美貌を持っていた。
今を盛りと咲き誇る椿みたいな赤と黄色が織り交ぜられた瞳。光沢のある深くて濃い緑色の髪を結い上げ、華美な着物を身にまとい風を切りながら歩く姿は、まるで優しいそよ風になびく椿の花のよう。
その比類なき美貌を誇る遊女の名は椿妃。彼女の存在感は花園の他の花々を霞ませるほど圧倒的だった。
椿妃といえば、堺では名を知らない人はいないと言われるほど有名な遊女だ。
遊女としての適性年齢は既に超えているものの、未だにその人気が衰えることはない。その理由のひとつとして、やはりその人間離れした美貌が関係してくるだろう。巷では何年経っても衰えを見せない彼女を化物だと罵る声もあるそうだが、何年経っても衰えないというのは、良い意味で化物と言える。
その証拠に、椿妃はその美しさで遊女の最高位である花魁、太夫の称号をほしいままに、この遊女屋を支えているのだから。
もちろん、椿妃太夫の魅力は美しいだけじゃない。椿妃太夫は客を楽しませるための芸事にも大変優れていた。
楽器を用いた演奏や扇を使った舞踏も、詠だってこの遊女屋では椿妃太夫の右に出る者はいない。特に、琴の演奏はずば抜けて別格で、その音色は天上の調べだと言われている。
さらに椿妃太夫は高い知性も兼ね備え、時には軽い冗談を叩き、時にはとろけるような甘い言葉を囁く。遊女の最大の武器である身体も文句なし。絵に描いた遊女がいるならば、それは椿妃太夫のことを指すだろう。
決して届かぬ高嶺の花。それが椿妃太夫。
何もかもが完璧であり、人々の憧れの偶像でもある彼女。
それがまさか一人の男と恋に落ち、その上、子を孕んだと誰が予想出来ただろうか。
これまで幾度となく何人もの男たちがこぞって椿妃太夫に求婚を申し込み、椿妃太夫好みの男となるべく自分を磨き続けてきた。しかし椿妃太夫はそんな男達とは別の男だけを見続け、最終的には生涯の伴侶としてその男を選んだ。
椿妃太夫の伴侶となった男は全てが平凡。強いて言うなら顔の造形が少しばかり整っているのと、髪と瞳の色が物珍しいくらいだ。
椿妃太夫はなぜこの男を伴侶に選んだのかは今では知る由もないが、正反対な二人の間に出来たのが──
銀白色の髪と雪色の瞳を持ち、椿妃太夫と顔の良く似た娘、夏蝶だった。