雷斗自身も伊織と同じであまり恋愛に興味はない。過去に居た組織で起きた女絡みのいざこざが理由の一つなのだろう。
そんな雷斗が何故円香を気に掛けているのか、それは伊織の事で悲しみに暮れているのに前向きに振舞おうとする健気な様子に心を打たれ、放っておけなくなってしまったから。
だけど、円香の心の中には伊織しか入り込めない事を雷斗は悟っていた。
それに、伊織だって本当は円香を好きな気持ちは変わっていないと知っているから、そんな二人の仲を壊す事など心優しい雷斗には出来ないのだ。
「……はぁ。やっぱりここは、俺がお膳立てしなきゃな」
円香から離れ、そう呟いた雷斗はスマホを取り出すと伊織に宛ててあるメッセージを送る。
そして、
「円香ちゃん、冷えて来たし、そろそろ行こうか」
海岸に着いてから約三十分、流石に身体が冷えて来た雷斗は黄昏れる円香に声を掛けて車に戻る事に。
「大丈夫? 寒くない?」
「はい、大丈夫です」
「さてと、お腹空いたよね? ご飯でも食べに行こうか?」
「……そうですね」
「この近くに俺のオススメの洋食屋があるんだ。そこでもいい?」
「はい、是非」
「それじゃあ行こっか」
お昼はとうに過ぎて流石にお腹が空いていた二人は雷斗のオススメだという洋食屋へ向かう事になった。
店に着いて料理を注文し、話をしながら楽しく過ごした二人。
自宅へ戻る頃には陽も完全に落ちてしまうだろうし、そろそろお開きかと思っていた円香だけど、雷斗の言葉でそれは無い事を知る。
「さてと、じゃあ次も俺に付き合ってもらってもいいかな? 帰り、遅くなっても平気?」
「あ、はい。お友達の家に寄っていくと連絡しておきますから、多少遅くても大丈夫です」
「良かった。それじゃあ向かうね」
相変わらず終始にこやかな雷斗にすっかり心を許した円香は彼の言葉に何ら疑いすら持たず、どこへ行くのか気にはなったものの、特に尋ねることもしないまま車に揺られていた。
お腹が満たされ、暖かな車内。
昨夜は全然眠れなかった事も相俟って、窓の外の景色を眺めていた円香は徐々に睡魔に襲われていた。
「円香ちゃん、眠いの?」
「い、いえ、大丈夫です」
「無理しなくていいよ? 昨日は色々あって眠れなかっただろうし、まだ少し時間かかるから遠慮しないで寝てなよ」
「いえ、そんな……」
「着いたら起こすからさ。あ、寝やすいように椅子、倒していいよ」
運転してもらっている横で自分だけが居眠りをする訳にはいかないと眠いのを我慢していた円香だったけれど、車の揺れが心地よくて瞼はだんだん重くなっていき、
「…………」
「……円香ちゃん……?」
次に雷斗が声を掛けた頃には、気持ち良さそうな表情を浮かべ、静かに寝息を立てていた。
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