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うえぇぇえ、めちゃ上手じゃないすか…。好み過ぎました
・この作品はnmmnとなっております
・桃緑(桃)、水桃、紫桃、水赤、黄緑含まれます
・pixivにて1〜3話を投稿しておりますが、今回載せるのは2話までです
もし需要があったら続けます!
[無意識のゼロ/cm]
・1話
「はぁ…緊張するね、みことくん」
暖かい空気と良い桜の匂いが鼻腔を舞う季節、春。
切ない別れと素晴らしい出会いの季節、春。
今の俺たちにとって「春」とは、素晴らしい出会いの季節に当たる。隣を歩いているこさめちゃんは、固くなった表情と動作で辿々しく歩きながらそう俺に話し掛けた。
「そうだね。…一緒のクラスになれるといいな」
「ね!こさめもみことくんと一緒のクラスになりたいな〜!」
俺がこさめちゃんの方を向いてそう笑えば、こさめちゃんは先程と一変、とても嬉しそうに言ってくれて、素直で可愛い子だなと改めて感じた。
「少し、暑いね」
最近、環境的な問題から気温がかなり上昇しており、春でも学校までの長い道筋を歩いていれば身体が熱ってくる程暑くなっていた。
俺たちは手で風を煽りながら、これから起こる事への期待と不安を抱えながら学校へ向かった。
*
「クラス、同じになれたね!嬉しいな〜」
こさめちゃんが安堵の息を吐く。それに俺も頷いて、同じように息を吐いた。
学校に着いて校舎に入れば直ぐにある、クラスが振り分けられた紙を2人、ドギマギしながら見れば無事同じクラスに俺の名前とこさめちゃんの名前が載せられていた。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」
クラスに入り、自分の席について暫くすると、生徒会の役員らしき生徒が入って来た。深い紫の髪に、光る黄色の瞳をした綺麗な生徒だった。
「早速ですが、入学式の並び方について説明しますので、よく聞いておいてください」
その生徒は名前を名乗る事もせず、只、淡々と並び方や座る場所について説明するだけだった。途中途中、隣のクラスからブロンドヘアーで緋の目をした生徒が質問をしに教室へ駆け込んだが、それ以外はかなり順調に進んでいた。
『1年C組、移動を始めてください』
放送のチャイムと同時に流された音声を聞いて、生徒会の役員が「並んでください」と指示を出せば、皆静かに廊下に並んだ。そして、緊張からか、俺たちはやや早足で体育館へと向かった。
*
体育館へ着き、各々用意された椅子に腰掛ける。入学式が始まると、先ずは校長の長くて纏りの悪い話を延々と聞かされた。俺は襲ってくる眠気に首を揺らしながら、その話を耳から耳へと流していた。そして、漸く校長の話が終われば、次は生徒会長と副会長からの話へと切り替わる。また長くて眠たくなるような話をされるのか、と俺は少々肩を落としながらも一生懸命に前を向いた。
「初めまして、生徒会長のLANと」
「副会長のすちです。皆さん、ご入学おめでとうございます」
副会長の彼が微かに表情を綻ばせながら話した、その時。俺は突如として彼から目が離せなくなった。釘付けにされた視線の中、俺はその人、すちさんを見つめる。すると、まるで女の子が恋に落ちた時のような錯覚に襲われた。所謂、一目惚れというやつだ。
それからも俺は、すちさんに視線が釘付けにされたままだった。珍しくきちんと入って来た話の内容は、俺たちの入学を祝う話と、生徒会役員の募集に関する話だった。それを聞いて直ぐに、俺は生徒会になろうと決意する。それも、真面目な理由からではなく、単なる下心なのだが。
「では最後に、俺と副会長のすち以外の役員の紹介をします!」
生徒会長のLANさんが元気よく言えば、すちさんが1人「わ〜い」と溢しながら拍手をした。俺はすちさんのその可愛さに見惚れつつ、先程、案内をしてくれた役員の人が自己紹介をしなかったのはその為か、と1人納得していた。
「では、副会長のすちくん!メンバーの紹介をお願いします」
「は〜い、まず、2年副会長のいるまちゃん!」
すちさんが名前を呼ぶと、左側からすちさんの直ぐ隣へと、先程の役員が歩いて来た。改めて見るとその顔は、キリッとしていて格好良く、隣にいる優しそうで、可愛い顔をしているすちさんとは対照的で殊更目立った。
「初めまして、2年副会長のいるまです。よろしく」
自己紹介までクールないるまさんは、その後直ぐにすちさんの腰に手を当てて自分の方へ寄せた。
「え…?」俺は心の中でそう呟いた。すちさんに一目惚れしたからだろうか、その光景を見て無性に心の中がモヤモヤしたのだ。その状態に陥った事で、改めてすちさんに抱いているものが明確な好意だと感じさせられる。
「はいはい、いるまは本当にすちが大好きですねー」
「当たり前だろ、俺がすちをオとす」
「…いるまちゃん…っ!」
LANさんが呆れたように笑って、すちさんの腰からいるまさんの手を退けた。その後、悪戯をした子供のように笑ったいるまさんと、困ったような、照れたような顔でいるまさんの名前を呼ぶすちさんを見て、2人は恋人では無いのだと俺は少し安堵した。周りからは、先輩と後輩という関係であるにも関わらず、分け隔てなく、楽しそうに会話をする彼らの様子にほのぼのとした声が漏れていた。
「はい、次っ!2年書記のなつくーん!」
「はーい。なつです。よろしくお願いしまーす」
生徒会長に呼ばれ、気怠げに挨拶したその人物は、いるまさんが俺たちに色々と説明をしている途中に教室へと質問をしに来た、緋色の瞳を持つ人物だった。
それから生徒会の先輩たちは、改めて役員の募集を呼び掛けた。書記1人、副会長1人の募集をするとの事だ。俺は勿論入りたいが、副会長なんて大層なものをするつもりも、こなせる自信もない為取り敢えずは書記を目指す事にする。
これから始まる生活が鮮やかに彩られたものになる気がして、俺はルンルンで教室へと帰るのであった。
・2話
「みことくん、すち先輩の事好きでしょ?」
*
俺が教室に帰り、小休憩をしていた所だった。
何やら真剣そうな表情のこさめちゃんが俺の近くまで小走りで来て、何かと聞けば、ニヤニヤと笑い出してそう言った。
俺はその事が図星過ぎて、暫く黙り込んでしまった。それを案の定肯定と取ったこさめちゃんが、ヒューヒューと俺を揶揄ってくる。
「ちょっとこさめちゃん…っ!!揶揄わないでよ!」
「はいはいっ笑。で、みことくんは生徒会入るのかな〜?」
「…は、入るよ」
恥ずかしくてこさめちゃんにそう伝えたのに、こさめちゃんは中々聞く耳を持ってくれない。俺は少し悔しくて、こさめちゃんからの質問に不貞腐れた声で答えた。
「そっか!実は、こさめも入ろうと思うんだよねー!」
「そうなんだ!…って、え!?」
思わずノリで聞き流そうとしていた所を、正気に戻されて俺は素っ頓狂な声を上げた。少し失礼かもしれないが、こさめちゃんはお世辞にも真面目に仕切るタイプとは言えないからだ。なのに、生徒会に入りたいと言うこさめちゃん。その顔は、何処かキラキラと光っていて…
俺と同じだ。と、そう思った。だから仕返しも含めて俺もこさめちゃんに尋ねる。
「こさめちゃん、生徒会に好きな人いるでしょ?」
「…っえ!!!」
先程、俺を揶揄っている時は余裕そうな顔をしていたこさめちゃんだが、立場が一変すると余裕が一切なくなり、あたふたとし始める。こんなに分かりやすい子は果たしているのだろうか…と俺は少し心配になりつつも、好奇心からさらに詰め寄ってみる事にした。
「ねぇ、誰が好きなの?」
「えっえ、っと…」
こさめちゃんは少し恥ずかしそうにたじろいだ後、俺にしか聞こえないくらいの声量で「らん先輩」と答えた。どうやら一目惚れしたらしい。俺はこさめちゃんと好きな人が被らなかった事に安堵しつつ、俺たちに残された猶予が1年しか無い事を認識して少し不安になった。
「生徒会長さんか…!お互いがんばろね!」
俺が腕を曲げてグッとすれば、こさめちゃんは親指を立ててグッドマークを作りウィンクをした。
丁度こさめちゃんが自分の席に戻った時、小休憩の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
side : LAN
「うぅ〜ん…」
「おいすち、寝るなよ?笑」
目の前に座っているすちの頬をついて、俺は笑った。するとすちは小さな声で唸って、眠たそうに目を擦る。
入学式が終わって、俺たちは新たな役員選挙を行う日程について会議を行なっていた。2、3年の役員は予め決まっているから、1年の役員が決まれば今年の生徒会が出来上がる。今日、早速俺たちはその事を大々的にお知らせした所だ。
「俺は20日からでいいと思う」
机の木目を指でなぞりながら、なつは言った。相変わらず気怠そうにしているその様子に、俺は呆れを含んだ笑いを溢す。ふと隣に座っているいるまを見れば、コイツもコイツで相変わらず視線の先にはすちがいて、またここでも俺は呆れを含んだ笑いを溢す羽目になった。
「俺も20日からでいいと思う。そんくらい早く決めないとこれから大変だしな」
「俺もいるまちゃんとひまちゃんと同じ意見かなぁ〜」
いるまは一旦すちから視線を外し、すちは先程より少し背筋を伸ばしてそう言った。生徒会役員全員の意見が揃ったし、俺も特に異論は無いのでこれで決定という旨を伝えて、今日はこれ以上特に用事もない為、解散を言い渡した。するとなつは誰よりも早く荷物を纏めて、慌てた様子で生徒会室を去る。すちは小さく欠伸して、ゆっくりと荷物を纏め始めた。いるまは普段せっかちなのだが、すちと一緒に帰る為か、早さを合わせて荷物の用意をしていた。こういう所が不器用で、俺はそれも纏めているまのいい所なんだなと思った。そして俺は今日の戸締り係の為、既にスクールバックを背負った状態でまるで亀のようにゆっくりと用意する2人を、扉付近で待っている。そして漸くすちといるまの用意が完了して、すちは俺に笑顔でありがとうと微笑み、いるまも無器用に礼を伝えて部屋を出た。
「すっち、一緒に帰ろ」
「もちろんだよ。…あ、らんらんも一緒帰ろうよっ」
部屋を出て直ぐにいるまはすちを誘った。すちはその誘いを喜んで受けたが、幸か不幸か、何故か俺も一緒に誘って来た。正直めちゃくちゃに嬉しいが、いるまの為に断ろうか凄く悩む。
「…いいよ、らんも一緒帰ろ」
そんな俺の葛藤を察してか、いるまは観念したように俺を見て呟いた。それにすちは嬉しそうに笑い、鍵を返しに行く俺の後ろをいるまと一緒に着いてきた。
「はは、可愛いなぁ笑」
ちょこちょこと着いてくる2人が可愛くて、俺はついそう溢してしまう。言った後にハッとして、すちはともかくいるまが怒ってるかもしれないと後ろを振り向くと、意外な事にすちが顔を赤らめて照れており、それを見たいるまは複雑そうな顔をしていた。
「す、すち!?!?」
「ぁ…な、なんでもない…っ」
俺が焦ってすちに話し掛けると、すちは明らかになんでもなくない様子でそう言って、俺の進行方向とは反対側へと走って行ってしまった。すちが最後、余裕のない小さな声でわからないと呟いた音だけが俺の耳に残る。
「あ、おいすっちー!待って!」
いるまは直ぐに走り去ったすちを追い掛けに走っていく。結局、その場1人残された俺は少し寂しく思いつつも、職員室へと向かった。
「…」
その間、何故か先程のすちの様子が俺の脳裏に染み付いていたようで、何回かフラッシュバックした。それに俺は自分の胸の辺りがきゅぅっとなる感覚がしたが、気付かないフリをして長い廊下を歩いた。
side : すち
「わからない…っ」
俺はあの後、生徒会室付近まで走って、今は疲れて息を切らしていた。
「わからない」と、俺はもう一回呟く。どうしてらんらんにかわいいと言われただけで、こんなにも恥ずかしくなってしまうのかがわからないから。別に、クラスメイトや友達に言われてもこんなにも恥ずかしくなる事は無かったのに。どうして、らんらんだけ…
「すっちー!!!」
「…!いるま、ちゃん…っ」
俺の事を追い掛けてくれていたのか、いるまちゃんが後ろから大声で俺の名前を呼んだのが聞こえた。振り向いて姿を目視すると、息を切らしながらも走っていて、それに俺の良心がズキズキと痛んだ。
「…ごめんね、いるまちゃん。俺のせいで」
俺も再び立ち上がって、いるまちゃんの側まで走った。そして、隣に来たいるまちゃんにそう謝った。するといるまちゃんは困っているように、悲しんでるように眉を下げて、
「別にいーよ。気にすんな」
と一言。俺はそんな顔をして言ういるまちゃんに、何も言葉を返す事ができなかった。そうして、暫くの沈黙が続く。俺は年下にこんなに気を遣われている自分が恥ずかしくなって、嫌になって、涙が溢れそうになる。だけど、泣いてしまったらいるまちゃんが困ってしまうから、必死になって抑えた。
「すっち、一緒帰ろ。らんに何か言うのは、明日からでいーだろ?」
「…うんっ、ありがとう、いるまちゃん」
いるまちゃんの優しい声に俺は安心して、帰りは2人で並んで帰る事になった。
*
side : いるま
「……」
俺は隣で黙ったままのすっちーを見ていた。今日の事で、すっちーはらんが好きなんだろうな、と察してしまった。だって、俺にはあんな顔、見せた事無かったから。きっと、この想いは叶わないんだろう。だから、俺は諦める。これ以上傷付く前に。
諦め、られたらいいな
隣にいるすっちーが、疲れからか眠そうに目を擦った。その様子も愛らしくて、俺は本当に心の底からコイツが好きなんだって、思い知らされる。
諦めたいのに、諦めたくない。
保身から自分を守ろうとする心と、すっちーに対する好意から自分を走らせようとする心が入り混じって、もう収拾も付かなくなっていた。
「…いるま、ちゃん?どうしたの?」
すごく悲しそうな顔、してるよ。とすっちーは続けて言った。それに、コイツは俺の事をしっかり見てくれてるんだ、と嬉しく思うと同時に、結局この気持ちを隠せていない自分がダサいと思った。でも、どんなに顔に出てしまおうとも、少なくとも今はバレたく無い。こんな事で葛藤している事が、すっちーの事が本当に好きで好きで堪らない事が。すっちーが俺の言葉を全部冗談だと思っている今だから、俺は何時も通りに接しなければいけないと思う。だから、言うんだ。
「…お前が、好きすぎて?恋の悩みって奴かな」
大丈夫。俺は心の中で自分に言い聞かせる。何時ものように冗談臭く笑って、表情が揺れないように細心の注意を払って言ったのだ。きっと、すっちーは分からない。…はず。
「も、もう!いるまちゃんってば…っ!俺で遊ばないの!」
あ…っ
何時も通りの返しに見えるが、俺は気付いてしまった。すっちーの表情が、何時もと違う事を。只、照れたような表情じゃ無くて、何か思い悩んでいるような、照れているのに困っているような、そんな表情。それに、節目がちな目。
ねぇ。すっちー。
お前は、俺が抱いてるこの気持ちに気づいてしまったのか?それとも、只俺を心配しているだけなのか?
「…すちの、馬鹿」
「…っえ!?」
恋をする事が、こんなに苦しい事だと思わなかったな。
でも、これで決心ができた。さっきので、すちが気付いてようとも気付いてなくても。俺はコイツを絶対に惚れさせて、一緒になるんだ。
馬鹿、と言われたのがショックなのか、少し凹んだすっちーを横目に、俺は少し晴れ晴れとして歩いた。すると、その様子を見てか、すちが優しく微笑んでいて、また好きが溢れていく。
すっちー、覚悟してろよ。
俺は心の中で呟いた。
…これから1年が入って、高い障壁が出来る事も知らずに。
side : なつ
「おーい、こさめぇー!」
生徒会室から慌てて出た後、俺は直ぐに1年の教室へと向かった。そこに、近所でずっと仲良くしてきた、大好きな子がいるから。俺は窓枠に顔を出して、その名前を呼ぶ。
「あ!なつくーん!」
すると、直ぐに気付いてくれたこさめが嬉しそうに俺の名前を呼んだ。隣にいるのは、こさめと同中だった、仲の良い友達のみことだろうか?俺を見て一礼をしていた。
「こさめ、待っててくれてありがとな、一緒帰ろ」
「うん!全然平気!みことくんが話し相手になってくれたんだ〜!」
こさめは荷物を纏めながら、そう言った。みことはそれに対して「すごく盛り上がったもんね〜」と言い、なんだか意味深な笑みを溢した。俺は少しそれにモヤモヤしながらも、用意を終わらせたこさめと共に教室を出る。
「みことくんの恋、叶うといいねー!」
「うわぁ!こ、こさめちゃんっ!」
教室を出る際、こさめがみことに悪戯顔で叫んだその言葉に、なんだか胸騒ぎがしたのは気の所為だろうか。
*
「こさめ、みことと同じクラスになれてよかったな」
「うん!ほんとーによかった〜!!」
俺は先に靴を持って来ていたので、一緒に1年昇降口へと向かった。それまでの長い廊下を歩いている時間、こさめと他愛の無い話をする。その時間が、俺にとっては何よりも尊い時間なのだ。
「はぁ…」
「…?あれ、らん?」
俺がふと右側を見れば、職員室から出て来たらんがなんだか思い悩んだように、深い溜息を吐いていた。
「…!!!」
俺の言葉で右側を見たこさめがらんを見た。そして、その時の表情に俺は胸が締め付けられる。まるで、それがいるまがすちを見ている時のような顔をしていたからだ。つまり、好意を抱いている相手にする顔だったのだ。
「こ、こさめ?」
「なつくんっ、らん先輩のとこ、行こ!」
「…ちょ、」
こさめは俺の腕を引っ張って、らんの所まで小走りする。
「らん先輩!」
「…?誰?って、なつ!?」
こさめがらんの名前を呼ぶと、らんが前を向いて不思議そうに誰、と溢した。そして、隣にいる俺を見て驚いたように声を漏らす。すると、こさめが俺に自分の事を紹介しろ、という事を視線で訴えてくる。少し気が引けるが、俺はその通りにする事にした。
「コイツ、こさめ。俺の近所の奴」
「…そっかー!よろしくね」
「っ…はい!それで、らん先輩はどうしたんですか?」
「え?」
「…はぁ。お前が深い溜息吐くから、こさめは心配してるんだよ」
らんと嬉しそうに話すこさめを見て、俺はモヤモヤが募っていく。こさめは、みことと話す時も嬉しそうに話すが、らんと話す時はそれとはまた別の、嬉しそうな顔。きっとこれは、こさめがらんの事を好きだからだろうと思うが、俺はそれを知らないフリをした。…気付きたく無かったから。だって、俺はコイツの事が…
好き、なんだから。
その後、こさめとらんが何だか話していた事も、俺には一切聞こえなかった。…聞こえないように、俺は遠くを向いていた。
side : こさめ
「それで、らん先輩はどうしたんですか?」
「…えぇっと、その、友達と喧嘩?しちゃってさ」
俺が聞いて、らん先輩は悲しそうな顔してそう話した。その様子から、きっと喧嘩してしまった友達はらん先輩にとって大切な友達なんだと思った。俺も、みことくんとかなつくんと喧嘩したらきっとこうなると思うもん。
「先輩は、その友達と仲直りしたいですよね?」
「!勿論だよっ」
「だったら、正直に気持ちを伝えればいいんですよ!きっと、その友達も分かってくれます!喧嘩した理由は聞かないけど、俺はらん先輩の事応援してますよ!」
俺はらん先輩の手を握って、強くそう励ました。すると先輩は嬉しそうに微笑んで、安心したような顔で俺に感謝を伝えた。
「明日、会うからその時に伝えてみる!」
「はい!頑張ってくださいね!」
らん先輩は先程とは全然違う、活気付いた様子で3年の昇降口へと向かっていった。
その様子を暫く眺めた後、俺はなつくんに帰ろー!と話しかける。
「…」
しかし、なつくんは何処か遠くを見ていて、俺の声に気付いてはくれなかった。だから俺は悪戯心でなつくんの耳に近づいて…
「なーつくん、帰ろ?」
と囁く。すると、気付いたなつくんが素っ頓狂な声を上げて後ろに飛び引いた。その様子があまりにも面白くて、俺が爆笑していると、なつくんは拗ねた顔で俺を軽く睨んだ。
「…!!」
その時、なつくんの顔が少し赤らんでいた事に気付いてしまった。何だか胸騒ぎする様な、そんな不安に俺は駆られた。
「…こさめ?」
「あっ、なんでもないよ!!」
俺はそれを忘れてしまおうと、頭を振って、なつくんと一緒に帰路に着いた。