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社長の家は閑静な高級住宅地の小高い場所にある。
高層マンションではなく八階建ての低層マンションで、表には大きな門があり門の中に入ると広い敷地があって、その周りを大きな木々が取り囲んでいる。
表の門から見ると彼の住んでいるマンションは日本で俗に言う「マンション」ではなく、英語で言うところの「Mansion (大豪邸)」のようなおしゃれな洋館風の建物で、一階の入り口には24時間対応のコンシェルジュがいる。
高級ホテルのようなロビーがあり、ラウンジからは美しい庭園も見える。もちろんセキュリティーも完璧で、彼の部屋に着くまでに3回もカードキーをかざさなければ通れない。私の住んでいるアパートとは天と地の差だ。
そんな彼のマンションの部屋だが、最上階にあるとてもゆったりとした2LDK。
玄関を入ると廊下の右にまずベッドルームがあって、彼はここをオフィスに使っているらしくコンピューターや本がぎっしり詰まった本棚がいくつかある。
廊下を進むと右手にバスルームがあり、更にまっすぐ進むとその廊下の奥には広く明るいリビングとキッチンがあって、バルコニーからは綺麗な敷地内の庭園と木々の向こうには街の景色が見える。リビングの奥には社長の寝室があってそこには大きなベッドといくつかの家具、それに大きなウォークインクローゼットがある。
そんな彼の家に連れてこられた私は、リビングのソファーに座って社長がお風呂から出るのを待っていた。まさかいきなりこのようなシチュエーションになるとは思ってもいなくて、心の準備も下着の準備も何もできていない。
落ち着きなく床に座ってみたりリビングやキッチンを往復していると、彼がバスルームから出てくる音が聞こえた。何故か慌ててリビングに戻ると、ラグの上に正座をした。
「そんなところで何やってるんだ?風邪引くだろ。ベッドで待ってればよかったのに」
そんなすごい事を何でもない事のように言える社長を凄いと思ってしまう。
「社長が出てくるまでここで待ってようと思って……」
緊張のあまり彼をまともに見ることもできない。社長は私の隣に座るとペットボトルから水をごくごくと飲んだ。
「水飲むか?」
彼がペットボトルをくれるのでそれを素直に受け取ってチビチビと飲む。そんな私を見てふっと笑うと、俯いて顔を隠している髪の毛をそっと耳にかけた。
「大丈夫。何もしないからおいで」
社長はゆっくりと私の手を引き寝室に入ると、ベッドの中に私を入れた。そして反対側に歩き、自分もベッドに入るとおやすみと頬にキスをして電気を消した。
── えっ…えぇっ……!?本当にただ寝るだけなの?
私は暗闇の中目を開いたまま呆然とした。
あれだけ甘えるように誘惑してきたのであの勢いなら間違いなく今晩抱かれるような気がしていた。なので思いがけない展開でホッとした様ながっかりした様な複雑な気分になる。
隣をちらりと見ると社長はすでに寝たのか目を閉じて規則的なゆっくりとした呼吸を繰り返している。自分もとりあえず寝ようと寝返りをうち目を閉じた。
……15分、もしかすると20分くらい経ったのかもしれない。どうしても寝れない私はもう一度寝返りを打った。
── 全然寝れない……
以前病気になった時もこんな感じだったが、あの時は社長が私を抱きしめてくれてとても安心して眠れた。
もしかすると彼に少し近寄れば寝れるかもしれない……。そう思いたって、彼を起こさない様にそっとすり寄った。するとすぐに社長の腕が動いて私を抱きしめた。
「……桐生さん、起きてますか?」
「……起きてる」
見上げて小声で囁くと低い掠れた声で返事が返ってきた。
「もう寝たかと思ってました」
すると社長は深い溜息をついて少し困った様な顔をしながら私の頬を指で撫でた。
「緊張しててなかなか寝れないんだ」
そんな意外な答えが返ってきて、私は思わず彼をまじまじと見た。
「社長でも緊張するんですか?」
「そうだな。自分でも驚いてる」
彼はふっと笑うと、額を重ね合わせて指を私の髪に絡ませた。
「蒼を怖がらせないようゆっくりと進めていきたいのに、あのパーティーの夜キスしたみたいに理性が押さえられなくて君を傷つけるんじゃないかと怖いんだ。それで色々考えてたら緊張してきて……。蒼、君が大切なんだ……」
彼がそんな事を考えていた事に驚くと同時に、彼の優しさや思いやりが嬉しくて心がじわりと熱くなる。
「あのキスを嫌だったなんて思った事は一度もありません」
私は彼の胸に顔を埋めた。彼の心臓の音が私と同じくらいドキドキと早鐘を打っている。
「知ってるか?俺みたいな男をつけあがらせると、すぐ図に乗るって」
そう言って私に覆いかぶさると、手を取り指を絡め合わせた。そして大切な物でも扱うかのように私の頭や顔、首筋に軽いキスを次々と落としていく。
緊張が次第にとれてきて、くすぐったくてクスクス笑っていると、社長はいきなり私の唇を奪い、深く長くキスをした。
彼の手がうなじを掴み、舌を絡ませながらキスは次第に激しさを増していく。その激しさについていけず息苦しくなって唇を離すと、彼は私の首筋に吸い付きながら手をするりとパジャマの中に潜り込ませ素肌に触れた。
彼の冷たい指先に一瞬びくりとする。社長は顔をあげると少し驚いたように私を見た。恥ずかしくて彼をまともに見る事が出来なくて、私は目を背けた。
── どうしよう。やっぱり恥ずかしい……
社長はゆっくりと起き上がると、少し地味だが着心地の良い私のパジャマのボタンを一つずつ外した。次第に地味なパジャマの下に隠れていた、実用性の全くない下着だけつけた裸体が露わになる。パジャマを全て取り除き私を下着だけにした社長はごくりと喉をならした。
結局朝比奈さんのお陰で買い物に行く事ができなかった私は、昔アメリカで21歳の誕生日に友達がくれた下着を着ることにした。