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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第三十八話 あの日の写真
写真を見つけてから、彼女はしばらく動けなかった。
写真の中に写っている小さな紙。
見覚えがある。
昨日、相手が見つけたものと同じように見える。
けれど、まだ確信は持てない。
彼女は写真を撮り、すぐに送った。
『これ、見て』
しばらくして、返事が来る。
『……同じだ』
『やっぱり?』
『たぶん』
『じゃあ、この写真に写ってる人が持ってる紙って』
『俺が持ってる紙と同じかもしれない』
二人とも、画面を見つめた。
今まで集めてきたものが、
少しずつ一つにつながっていく。
同じ場所。
同じ日。
同じ言葉。
そして、同じ紙。
『この写真、誰が撮ったんだろう』
彼女が送る。
『分からない』
『写真の中に二人いるよね』
『うん』
『一人は……』
彼はそこで言葉を止めた。
自分かもしれない。
でも、まだ断定できない。
『服、昔の俺が持ってたものと似てる』
『じゃあ、やっぱり……』
『でも、もう一人が誰なのか分からない』
彼女は写真を見つめる。
顔は見えない。
ただ、髪の長さや服装だけが少し分かる。
それだけでは、誰なのか判断できない。
『もしかしたら、昔の友達かもしれないよ』
『うん』
『会ったら、写真を見せ合おう』
『そうしよう』
少し間が空いてから、彼が送った。
『実は今日、紙の続きを探してみた』
『見つかった?』
『少しだけ』
『何て書いてあった?』
『「忘れても」の前に、一文字だけ』
『何?』
『「君」』
彼女の指が止まった。
「君を忘れても」
まだ文章の全部は分からない。
けれど、それだけでも意味は変わる。
誰かに向けた言葉だった。
『続きは?』
『ない』
『そっか』
『でも、たぶん大事なことが書いてあった』
彼女は少し考えてから、
『その人、忘れてほしくなかったのかもね』
と送った。
『俺もそう思う』
それからしばらく、二人は話さなかった。
やがて彼が、
『会ったら、全部見せる』
と言った。
『写真も?』
『写真も』
『紙も?』
『紙も』
『じゃあ、私も全部持っていく』
『うん』
これまで「会う」ということは、
初めて顔を見るためのものだった。
でも今は違う。
二人の知らない過去を
確かめるための時間にもなっている。
その夜。
彼女は写真をアルバムに戻そうとした。
そのとき、写真の裏に
まだ何か書かれていることに気づいた。
さっきまで気づかなかった、小さな文字。
指でなぞる。
そこに書かれていたのは――
「次に会ったら」
その先は、破れていた。
彼女はしばらく、その言葉を見つめていた。
そして、なぜか胸の奥が強く締めつけられた。
コメント
1件
第38話、読み終えたよ〜。写真の裏に「次に会ったら」って書いてあったシーン、めっちゃ胸にきた……。二人のやり取りが静かで、でも確かに過去がつながっていく感じが伝わってきて、続きが気になって仕方ない!「君を忘れても」の一文も、誰に向けて書かれたのか想像すると切なくなる。M.Sさんの筆致、すごく好きだわ。次話も楽しみにしてる🔥