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雨の音が響く。もう6月、梅雨か。多分何回も思い出す記憶、それが夏にある。夏は好きじゃない。無駄に暑いし、無駄に鮮やかだし、無駄に騒がしい夏。昔は夏が大好きだった、だって、アイツに、長尾に会えるから。会えるというか 、会えたから。僕は長尾に惹かれてた 、長尾の独特な雰囲気に取り込まれて、長尾といたいってずっと考えてる。長尾のことを考えたらきゅ、と苦しくなる胸と長尾のことを自然におう自分の眼球と長尾と触れると紅くなる頬、コイツらのお陰で僕は理解したんだ、長尾に恋している。僕は長尾のことを心のそこから好きだったと思う。だからこそ、長尾についていった。だから長尾を庇った。だから長尾を失った。これは長尾と僕の逃避行。
「 俺さ、昨日 、人殺した。 」
6月の中旬、どしゃ降りのなか歩いてきたのか、僕の部屋の前で長尾は涙なのか雨なのかわからない水でぐしゃぐしゃの顔で僕にそう言った。蝉の声も、蒸し暑さも全て最近始まった夏の始まり、長尾は真冬のなかのように震えていた。長尾がこんなにも怯えているのははじめてみた。怯えているのか罪悪感か、興奮なのかわからなかった。わかりたくもなかった。取り敢えず、タオルを取り出して長尾にかけてやった。長尾は綺麗な顔で僕を見た。部屋にいれて、話を聞くことにした。
「 殺したのなぁ … ほら、ハルも知ってるっしょ?隣の席の、アイツ。いつも俺に嫌がらせ?みたいなのしてくんじゃん、嫌になってさ、突き飛ばしたんよね、肩を。そしたら、打ち所悪かったっぽくて 、ヤバイよな。もう多分、ここにはいられないと思うし、どっか遠いところで死んでくるわ。 」
なに笑ってんだよ。なんて言えるわけもなかった。長尾のことは好き、だ多分。長尾の隣の席のヤツ、アイツは長尾のことを心底嫌っていた。自分の好きだった女子が長尾を好きだった、なんてありきたりな理由で長尾に嫌がらせをしていた。長尾のしたことは、悪いのかわからない。客観的に見れなくなっているのは確かだ。でも、ダメだろ、ここで長尾を独りにしたら。僕が後から後悔するのは確かだし、長尾に死んでほしくない。
「 それじゃあ、僕も連れてって。 」
長尾の驚いた顔と申し訳なさそうに笑う顔を想像したが、長尾は、泣いた。なんで泣くんだ、僕悪いことしたか?なんて思いつつも長尾が泣き止むのを隣でまった。僕らはまだまだ子供だ。だからこそ、長尾を独りにできないし僕も独りになりたくない。長尾が好きだからっていう理由もあるし、なによりこんな窮屈な場所にいたらいつか首がしまって死んでしまう気がしたから。長尾となら、死んでもいい、捕まってもいい、そう思った。長尾のことをどこまでも愛していたい。変かもしれない。それでもいい。
泣き止んだ長尾は準備しようと言ってきた。なにを持っていけばいいのかわからなかった。出ていくのは2日後、それまで俺は部屋に閉じ籠る。そう言っていた。子供二人ならお金が必要だと思った。親の部屋をあさって、銀行のパスワードとか、お金関係のもの全てを盗んだ。お金をおろしたら服も買えるから、服はいらないだろう。財布にお金を詰め込んで、携帯と充電器、長尾が好きだって言っていたゲーム、そしてナイフ。カバンに詰めた。もう何もいらないんだ、僕は。親も、友達も、あの写真も、日記も。
2日というのは意外と短かった。深夜3時、家を抜け出して長尾の家に向かった。長尾の家につく途中、警察に見つかりかけた。僕の身長なら大人にも間違われるかもだけど。長尾の家についたときにはもう長尾は家の前にいた。長尾はおせーよと笑っていた。ごめん、なんて謝りながら僕は長尾と歩いた。人殺しと、ダメ人間。僕と長尾の旅は始まった。長尾は静かだった、僕を連れてきてしまった罪悪感と、人を殺したという事実を背負っているんだ。無理はない。僕は、僕でなんとも言えない気持ちだった。長尾といれるのは嬉しいし、優等生だった僕が親を裏切り、長尾と逃避行に出てしまった罪悪感とほんの少しのざまーみろという気持ち。蝉がなくこの町を飛び出して長尾と二人きり、どこに行こうか。そんなことばかり考えていた。この狭い、狭い世界から二人逃げ出した。嬉しいのに、長尾の悲しそうな、辛そうな顔をみるのはあまり好ましくなかった。色々考えて歩いていたら長尾が口を開いた。
「 ハルはさあ 、どう思ってんの。俺が人を殺したこととか 、家族もクラスの奴らも捨てて俺と二人で逃げ出したのも、全部。 」
「 長尾が人を殺したことに対しては、まだ僕の気持ちは定まってないと思う。でも、長尾となら逃げ出してもいいなって思えた。長尾が、最初に僕に人を殺したことを話したとき、多分あのときから長尾と逃げようって考えてたと思うし、なにより長尾のことを放っておけない。危なっかしいし、ノンデリだから迷惑もかけるし、長尾と来たこと、微塵も後悔してないよ。こんな世界に価値なんてないんだから。それに人殺しなんてそこら中湧いてるじゃん。今さらなんとも思わないよ。長尾はなんも悪くない。 」
そういったら、長尾は笑った。嬉しかった。長尾の幸せそうな笑顔を見れたこと、長尾が僕を受け入れてくれたこと。でも、長尾への感情はしまっておかないといけない。長尾にいやがられたら僕は長尾の旅に付き合えなくなる。だから、今は心の奥底にしまって、出さないようにしなくちゃいけない。僕は長尾と一緒にいれればなんでもいいから。長尾がいやがってもついていく、それくらいの気持ちだ。遠くまで、もっと遠くまで歩いて、沢山沢山歩いて、それで遠い遠いところで長尾と二人で死ぬんだ。それまで捕まるわけにはいかない。長尾のことを全力で守る。
どこまでも長尾といてやるんだ。それが僕のやるべきことだから。