テラーノベル
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──────メテヲさん視点──────
目の先には既に剣があり、そのままの勢いでメテヲの目は抉られて血が吹き出す、ということはなく。ガン兄はガクッと勢いよく目の前でつまづいた。
「…ぇ?」
メテヲは今までいちばん情けない声をあげる。そして、そのまま座ることもままならず壁に寄りかかる。力が一気に抜ける。腰が抜けて動けない。そりゃそうだ。今、実の兄から殺意を向けられて、目を突き刺されかけたのだ。どうして、という疑問と、生きてる、という安堵感で何も考えられなくなる。メテヲは霞む視界の端でガン兄を見る。ガン兄の悪魔の羽がドロドロと溶け始めている。天使の翼は純白が剥がれ落ち、漆黒へと堕ちていく。天使の輪と悪魔の角はひび割れ、そして塵となっていく。
その姿を見て、メテヲは慌ててガン兄に近寄る。怖い、なんて言ってられない。力が入らないと言い訳をしていられない。ただ、ガン兄に手を伸ばす。分からない。分からないけどなぜだかガン兄が目の前から消えてしまいそうだったから。
「ガン兄っ!?やめて!どこかに行かないで!!」
無我夢中で叫んで、腑抜けた足を引きずって這いつくばってガン兄に近寄る。ガン兄の悪魔の羽はもう原型を留めてなくて、まるでチョコが溶けるかのように床に垂れていく。けど、唯一変わらなかったのはその瞳の中に存在する黒い星。けど、その表情は先程より敵意が消えており、どちらかと言うと呆れ、諦めに近かった。
「どうして、メテヲは…。こんな、どうしようもないやつにも優しくするんだよ…。俺を、これ以上惨めにしないでくれ…!!」
「訳分からないよガン兄。ねぇ、この溶けた羽ってどうしようもないの?戻せないの!?」
ガン兄の一言でメテヲの不安でいっぱいの心が逆撫でされる。どうして、どうして…!メテヲはどうにかしようと焦ってばっかだけど、ガン兄は溶ける自身の体をじっと眺めていた。全てを諦めたかのように。どうしてそんな顔をするのか。余計にわけがわからない。
「メテヲ、落ち着いて。何をしても意味ないから。…それにね、これは私のせいなんだよ。」
「…?どういう、こと?何をしても意味ないって、そんなこと決めつけないでよ…っ!何とか、何とかなるでしょ!?」
メテヲが声を荒らげて、ガン兄の肯定を待つ。けど、ガン兄は無言で首を横に振るだけだった。何も、できないの?どうして?なんで?疑問で頭がいっぱいだけど、今はガン兄の話を聞くのが優先だと思って、無理やり納得を試みるが、不可能で、ひとまず話を置いておく。
「メテヲなら知ってると思うよ。イヴィジェル家の掟。【イヴィジェル家は善と悪の心を平等に持たねばならない】私は、それを破ってしまったんだよ。」
「ガン兄は、それ、破ってないよ?…優しすぎたってこと?」
「あはは…。自分が傷つけられかけたのに優しすぎたって…。そんなわけないでしょ。私は悪に寄りすぎたんだ。」
「そ、んな。おかしいよ…!ガン兄は、いつも、いつもメテヲとかぐさおのために頑張ってくれてたじゃん…!!悪なんかじゃないでしょ…!?」
メテヲは必死にそんなことない、と否定するけど、ガン兄はその言葉を聞いていないかのように肯定も、否定もしない。それが余計に怖くてたまらなかった。
「私はね、嫉妬してしまったんだよ。メテヲ、君に。」
「しっ、と?」
「そう、嫉妬。勉学も、魔法も、戦いの才にも恵まれたメテヲに嫉妬しちゃったんだ。メテヲ、君がまだ小さいのに完璧だったから。…99歳差。後、1年で大人になる私の前に、弟が生まれて、後継争いをすることとなった。お母様も、お父様も平等を最も大切にしているから、強い方がこの家の次期当主になるんだよ。けど、ほかの天使や悪魔からしたら歳がこんなにも離れているなら私が当主になるに違いないって、擦り寄る奴らも多かったし、変な期待をかけられることも多かった。…けどね、メテヲ。君はそれを昨日ひっくり返してしまったんだよ。」
そう言って、ガン兄はメテヲと目を合わせる。闇に堕ちた光がメテヲの脳に直接入り込み、メテヲの記憶にかけられたロックをいとも容易く解除してみせる。───そして、全てを思い出す。そうだ、昨日、ガン兄と戦って。メテヲが、勝っちゃったんだ。ガン兄の体の再生が追いつかないほど、圧倒的な差で、勝ったんだ。なんで、今の今まで忘れていたのだろうか。その目元の傷はメテヲがつけたものだったのだ。そう、思い出してしまう。途端に、吐き気がしてくる。あれほど他者を傷つけたくない、と願っていたのに、メテヲは、ガン兄を傷つけて、追い詰めていたのだと、そう自覚してしまったから。
「消してあげたんだよ、その記憶。辛く、苦しいだろうから。けど、私、分かっちゃったんだ。私がどんだけ努力してもメテヲに勝つことはできないし、負けた、という烙印は消せないってことを。───そしたら、どうなったと思う?周りの奴らはみんな変わった。友達だったヤツには何も言われずに縁を切られたし、親友だと思ってたやつには役たたずって罵倒された。私の人生、もうめちゃくちゃなんだよ…。だから、メテヲの才能に、嫉妬しちゃった。けど、それを神は許してはくれない。」
そう言って、ガン兄は羽どころか、体ごと溶けていく。ガン兄はメテヲの助けを拒んで、底沼へと沈んで、沈んで、沈んでいく。
「メテヲ、知ってる?【イヴィジェル家に堕天したものはいない】って話。あれ、半分本当で、半分嘘なんだよ。」
ガン兄は溶け続ける顔で、そう笑い続ける。メテヲはやっと理解した。今、ガン兄は【堕天】しているのだと。堕天は本来天使が悪に堕ちることを指す。けど、イヴィジェル家では善が悪に偏りすぎることを指すらしい。でも、ガン兄の言うように、イヴィジェル家で今まで堕天したものはいなかった、そう習った。けど、実際目の前でガン兄は堕天している。状況が理解できない。馬鹿なりに必死に思考を巡らせるけど、それでも分からなかった。
「あははっ。完璧なメテヲでもこのことは知らなかったんだね。正解はね、堕天したイヴィジェル家の存在は神様以外の記憶から消されるんだ。そう、イヴィジェル家だったというガンマスの存在は消える。それが、今まで何回もあったんだろうね。堕天したら、その物の存在は消される。だから、誰一人として堕天したものはいないんだ。」
「っ!?」
存在が、消える?神以外忘れてしまう?じゃあ、神じゃないメテヲは、ガン兄のことを───?そんなのは、嫌だ。じゃあ、どうしたら覚えていられる?どうしても、忘れたくない。いつも、メテヲを助けてくれて、救ってくれたガン兄を。だから、メテヲは泣きじゃくりながら、大声で宣言する。
「じゃあメテヲが神になる!!そもそも、この程度で存在を消すとかいう神はおかしいんだ!!ガン兄がメテヲを完璧って言うなら、メテヲが、その完璧な神になってルールを変えてみせるから!!…だから、それまで、メテヲのこと忘れないで…。」
最初は力強かった声も、最後には弱々しく、掠れた声になってしまう。けど、メテヲは本心から、こんな神はおかしいと思った。ガン兄はこんなにも頑張っているというのに、神はそれを嘲るかのように存在を消す、なんて言う重い罰を下す。そんなの、どう考えたっておかしいじゃないか。そんな、メテヲの心の叫びをガン兄は感じ取ったのか、溶けた目を大きく見開きながら、ニコッと笑って、メテヲを優しく抱きしめてくれる。液体に見てるそれは、泥のようで固体とも、液体とも受け取れた。けれど、ガン兄の体はとても暖かかった。
「…じゃあ、いつまでも待っておくよ。…さすがの俺でも弟を嫌うことはできないから。」
そう、ガン兄が一言残すと、ガン兄は完全に溶けて、下へ下へと堕ちていく。
「ぁ、あぁ。あ゛あ゛ああぁぁぁああああああああああああああああああああああぁあああああ、ぁあああっっ!!!!」
そうして、無人の部屋の中、メテヲの絶叫が響いた。あとから駆けつけて親がその惨状を見て何があったかを聞いてくる。メテヲは、口を何回かパクパクさせた後、ゆっくりと話す。
「忘れちゃった…ぁ、」
メテヲはわけも分からず涙を流した。
ここでおしまーい!今回はガンマスさんが落ちた理由も語られてたね〜!喋り方で察した方は椎名検定4級!どうも!椎名ちゃんだよー!今回の話ではイヴィジェル家について深堀したんだってー!なーんか複雑な家系だよねーここ。ま、優しい椎名ちゃんが解説してあげるとー、イヴィジェル家の当主になる条件は一家の中で最も強いことが条件で、このままいけば一人っ子のガンマスさんが次期当主になる予定だったんだけど、メテヲさんが生まれて、それが分からなくなる。けど、99歳も下の弟に負けるわけが無い、と周りが勝手に期待してきて、けど、結局はメテヲさんに負けちゃう。だから、今まで次期当主になるからと仲良くしていた人たちが離れていっちゃうんだ。それで、ガンマスさんは自分の方が努力していたのに、メテヲさんに負けたから、その類まれなる戦闘の才をもつメテヲさんに嫉妬しちゃう。そのせいで、ガンマスさんの中ガン悪の心に傾きすぎちゃって、堕天しちゃったってことだね!我ながらわかりやすい説明!素晴らしいね!
あ、言い忘れた!どうしてメテヲさんが何が起きていたか忘れていた理由と、思い出した理由はガンマスさんの瞳の影響だね。堕天してないガンマスさんの能力は相手の望む救済を与える能力なんです!だから、メテヲさんはこんな事実を忘れてしまいたかった。けど、記憶を忘れたあとのメテヲさんは何があったか知りたがってしまった。だからこうなってしまったわけですねー!素晴らしい!
それでは!おつしいなー!
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悠香 @ギザ歯教
MIRAN@また新作だすかも?
コメント
2件
また昨日と同じ誤字してるし…