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◻︎話したかったもう一つのこと


「やっと静かになったわね。そうそう、話の続きね。あなた、何かの再検査したでしょ?その結果を病院に聞きにきて欲しいって、その病院から電話があったの」


「なっ、なんでそれを早く言わないんだ!」


「だ、か、ら!連絡したくてもできなかったってば。できるだけ早く、ご家族と一緒に来てくださいってことだったわよ。でも私はもう家族じゃないから、一緒には行けないわ」


___本当は、家族は不要だと言われてるけど、伝言って間違えることもあるしね



私の話を聞いて、和樹の顔色が変わった。


「え?……家族も?」


「うん、そう。何か大事な話かもね。大きな病気とか?そこの、新しい家族になるって言ってる人と一緒に行けばいいでしょ?」


「………」


黙り込んだ和樹は、胸の辺りをさすっている。《胃炎》は治っていないのだろうか。


「和くん、検査ってなんのこと?」


不安げな言い方で桃子が訊く。


「あ、いや、大したことないよ、ただの胃炎。ほら、最近ストレスが多かったから…」


なんとか平静を保とうとする和樹。こういう時にはとことん小心者になることを、私は知っている。私が、和樹と夫婦でいた期間に知り得た和樹の性格だ。


「でも、ご家族もって…」


「そうね、何か重大なことが話されるかもね」


不安がる二人に、私は追い討ちをかける。


「あ、そうそう!薬とか出てないの?効能書きを見て効能を調べればわかるんじゃない?」


「あ!」


和樹は立ち上がって、薬袋を探した。しばらくガサガサやってやっと見つけたようだ。


「あれ?効能書きがあったはずなのに、ないや」


___捨てましたから、私が。言わないけど




「桃子、知らないか?ここら辺にあったと思うんだけど…」


「知らないわ、片付けた時、捨てちゃったんじゃないの?」


「えー、もうっ!」


不安と焦りで苛立つ和樹。


___こんなに情けない人だったっけ?


元、我が夫ながら、ガッカリだ。


「あのさ、そんなのネットでその薬の名前を調べたら、なんの薬かくらいわかるんじゃないの?」


見かねた私が口を出す。


「あ、そうか!」


和樹は袋から薬を出して、名前を検索し始めた。取り出された薬の束を見て、私はホッとする。やはり薬は一つも飲んでいないようだ。


「これは睡眠導入剤、で、これは………えっ!」


スマホを操作していた和樹の動きが止まった。


「なんなの?和くん」


「あ、いや…そんな、まさかな…」


スマホを見ていた和樹の顔色が悪い。


「なんの薬だったの?ねぇ、和くんってば!」


「うるさい、ちょっと黙っててくれ」


すがる桃子を、和樹は手で払いのける。あの日、絵麻にしたみたいに。これがこの人の性格なんだろうか。人を手で払うって、なんて失礼なことをする人なんだろう。いまさら関係ないけども。



「もういいっ、自分で調べるから」


今度は桃子も検索している。


「え?」


桃子の顔色も変わった。


「ね、ちょっとどういうこと?これ、ねぇ!」


「知らない、何かの間違いだよ、だ、大丈夫だから」


慌てる二人を横目に、私も検索しているフリをする。


「あら、こんな薬だったの?大変なことになってるんじゃない?早く病院に行ったほうがいいわよ、そこの新しい奥さんになる人と」


和樹と桃子の二人には、そんな私のセリフも聞こえていないようだ。その薬を見て、ひどく狼狽しているのがわかる。


___そりゃそうだ、これは胃がんの治療薬なのだから




私の父は胃がんで治療中に、脳梗塞をおこして急死した。その時の薬がまだ残っていたのを持ってきて、元々入っていた胃炎の薬と入れ替えておいたのだ。運良く、同じ睡眠導入剤もあったから、薬が入れ替わっていることにも気づいていない。あの当時の和樹は、桃子のことと私との離婚のことで頭がいっぱいで、薬をちゃんと確認しなかったことが、今になって裏目に出たというところか。


偉そうなことを言うわりに気が小さい性格の和樹は、こんな時、どう反応するだろう?



衝撃の事実(?)を知って、黙り込む和樹と桃子。私はそんな二人を、ただ傍観している。この状況でも、この二人は添い遂げると言うだろうか?それとも……。



「ま、まぁ、発見が早いはずだから、治るよ。それにいざというときの保険もある」


と、和樹。


「そう…よね。うん…」


なんとか平静を保とうとする桃子。


___ほら、きた!


「ねぇ、忘れてない?保険は全て娘たちに名義を変えたでしょ?いざというときに和樹さん、あなたの力になってくれるのは、そこの女性だけよ」


「え?どういうこと?和くん!」


「あら、何も聞いてなかったの?そんなに仲良しなのに。離婚するときの約束で、貯金もほとんどもらったわよ、養育費の額も決めたし。覚書もあるわよ、和樹さんの署名入りの」


私の発言に、慌てた様子の和樹。


「そ、そうなんだ、でも大丈夫だよ、この家は僕のものだし、これからバンバン働くから」


「そう…じゃあ、いいか…」


ぎこちなく笑う桃子。


「うん、いざとなったら土地ごと売って家賃の低いところへ引っ越せばいい」


いい解決策を見つけた、そんな顔の和樹に一言、言っておくことにする。


「そうね、ローンより価値が下がった家みたいだから、どれくらいで売れるかわからないけど」


「え?価値が下がった?」


「あら、そんなことも知らなかったの?あなたは知ってて、それでも優しいからローンごと家を引き取ってくれたんだと思ってたわ」


「………」


「…………」


桃子も和樹も黙り込んだ。


___さぁ、どうする?


まるで、最後の審判を待つような気分だ。審判が下されるのは、私を蔑ろにしたこの二人。私はそれを見届けるだけ。

二人は、なかなか次の言葉が見つからないようで、重く静かな時間が流れていく。



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